43.異種の魔物を合成してみました
翌朝。
僕は外で出て、食料を食べたり買っておくなどして、旅立つ準備を整えておく。
ちなみに食料調達や宿屋に必要なお金はいつもメルからもらっているので、資金にはそれほど困らない。
あまりお金の事を気にしなくても良いっていうのはだいぶ助かるよね。
しばらくして宿屋の一階に戻ると、そこには既に準備を整えていたメルやテイニー達が待っていた。
「アークはん、準備はええか?」
「うん、ばっちり。テイニーは?」
「もちろん大丈夫です。五回もチェックしましたから問題ないはずです!」
「五回目のチェックの時に財布を入れ忘れていた事にようやく気付いたから、正直信用ならないんだけどニャ」
「ちょ、ちょっとレク! それは言わない約束じゃ――!?」
レクにからかわれ、赤面するテイニー。
……うん、こういう感じで言葉をかけられるようになったのは良い事だ。
やっぱり自然体が一番だからね。
「みんな準備できたようやし、早速行こか! アークはん、ちなみにどの方向へ行くつもりなんや? まあ北だけはないと思うけども」
「僕は東に行くつもりだよ。そして港町ティズまで目指す」
「ティズか、なるほどな。確かにそれがええやろな。北は論外、南は来た道を引き返すだけやし、西はCランク魔物のトロールがいたはずや。なら、比較的安全な東ルートを選ぶのが妥当やろ」
「うん、そういう事。後は途中にある遺跡にも立ち寄ってみたいというのもあるんだよね」
「遺跡ですか……。確か初めての魔物使いについて記述がされている場所なんでしたっけ?」
「うん、確かそうだったはず。僕もフィラミルにあった本でしか内容は知らないから詳しくは分からないけど、そんな感じで間違いなかったはずだよ」
初めての魔物使い、その名はフィアス。
人類が繁栄するきっかけを作った人物とだけあって、人々からは英雄視されている人物だ。
それ故、フィアスを主人公にした小説とか架空の物語まで作られており、そういった物は人々の人気を集める。
だけど、等身大のフィアスの情報っていうのはあまり分からないんだよな。
一応脚色されたであろう内容は知っているけど、あまりに人間離れしていて、どれが本当の事なのかよく分からないし。
正直、全部嘘なんじゃないかと思っているんだけど。
遺跡にはフィアスに関する記述があるらしいから、そこで等身大の初めての魔物使いについて知ってみたいんだよね。
こうして出掛ける準備を終えた僕達は東門から街を出て、草原を歩いていく。
そしてその道中でとある魔物と遭遇する。
「……いた、オーガだ」
オーガ。
先程兄と一緒に倒したDランク魔物である。
ゴブリンの上位種族であり、となれば、ゴブリンの体との親和性も高い訳で……。
「テイニー、メル、ちょっと進みながらゴンを強化していってもいいかな? 万が一の時に備えてできるだけ強くなっていった方がいいと思うんだ」
「……もしかしてゴンはんにオーガを合成すると言うんか? そんな事をして大丈夫なんか、アークはん?」
「大丈夫だと思う。確かにゴブリン同士を合成するよりも体への負荷は大きいだろうけど、種族の系統が同じだから、そこまで大きな変化はないはず。だけど念の為にヴァルドはゴンの様子をしっかり見ておいて」
「ああ、分かった」
僕はゴンに指示して、オーガをあっさりと瀕死状態にさせる。
そして僕は合成の儀式の準備を整え始めた。
……なんかゴンの方が強すぎて、オーガがゴブリンの上位種族という実感が湧かないな。
あまり苦労しない事に越した事はないんだけどさ。
そして準備を整えた僕はゴンにオーガの近くに立つように指示をする。
「ゴン、心の準備はいいかい?」
「…………問題ない」
ゴンはいつも通り冷静だ。
合成自体は何度もやっている事だから、そこまでゴンにとって忌避感のようなものはないんだろうな、きっと。
さて、僕も平常心を心がけて、いつも通り合成をしていくとしようか。
こうして僕は合成の儀式を始める。
初めての異種魔物との合成はなかなかに緊張するものではあったが、特に異常は起きずに終える事が出来た。
ヴァルドによれば、ゴンの体に不安定な部分はほぼ見られないとの事。
つまりゴンにオーガを合成しても全く問題ないと言えそうだ。
「……終わったよ、ゴン。気分はどう?」
「…………悪くない」
ゴンは自分の体の感覚を確かめているようだ。
その様子を見ていると、ゴンは特に問題なさそうに体を動かしているし、心配はいらないだろう。
ゴンにオーガを合成した事によって、若干体がより大きくなったようだ。
そしてほんのちょっとだけ、顔がオーガに近付いたような気もする。
やはり合成をすると、その合成に使った魔物の特徴の一部を取り入れる事になるらしい。
「ゴン、これからどんどん合成していこうと思っているんだけど、大丈夫?」
「…………望む所」
「うん、分かった。それじゃ、僕もゴンがしっかりと強くなれるように頑張るよ」
「あーく、ぼくもつよくなりたいよー」
「あっ、ごめんごめん。ラスはこの陣を使っていいから」
「うん、ありがとーあーく!」
強くなったゴンを見て、ラスは自分も負けていられないと思ったんだろうか?
ラスはいつものように近くのスライムをかき集めては自分と合成をしているようだ。
スライムってどこにでも存在するから、ラスはこうして場所を選ばず、ずっと強くなり続けるんだろうな、きっと。
ちなみに今回は東への移動が必要なので、ラスには新しい陣が出来たら都度、その陣を使うように言ってある。
そうじゃないとラスだけ置いていく事になってしまうからね。
そういえばラスは以前よりもさらにスライムをたくさん呼び込んでいるようで、ラス待ちの行列はさらに長くなっていた。
そんな異様な光景は人目につくから控えて欲しいと僕がラスに伝えると。
「めだつのがだめなのー? ならこれでどうかなー?」
ラスの分体が行列に並んでいるスライムの方へと近付いていく。
すると、その直後から、一瞬にして行列に並んでいるスライムの姿が消えた!?
「えっ!? スライムが消えた!?」
「きえてないよー。めだたないようにおねがいしただけだよー。これならいいでしょーあーく?」
「……あっ、確かに目を凝らせば見えてきた。うん、これならまず気付かれないし、大丈夫かな」
目を凝らした所、うっすらとスライムの姿が見えてきた。
どうやら、行列に並んでいるスライム達は自らの色を地面の保護色に変えたらしい。
だからこそ、スライムの姿を僕は一時見失ってしまったという事だ。
一体のスライムがあまりにも弱いにも関わらず、こうしてたくさん生き残っているのは、こういう力があるからなんだろうな。
もしかすると目に見えないスライムがこうしてあちこちに生息しているのかもしれないね。
とにかく、そんなに目立たなくなっていれば、例え行列を作っていても、そもそもそこにスライムがいる事すら気付かれないだろう。
特に行列を作る事に対してとやかく言う必要はなさそうだ。
僕は頑張るラスを少し見て和んでから、再びゴンの合成作業を始める。
それにしてもやはりオーガとの合成はゴンにとって影響が大きいようだ。
ゴブリン同士の合成だと、背丈はほとんど変わらなかったにも関わらず、オーガを何体も合成しているうちに、その背丈は1メートル程まで大きくなった。
オーガのサイズは2メートル前後だから、それに比べればだいぶ小さいんだけど。
そして顔からはゴブリンの特徴が消え、ほとんどオーガの顔になっていると言っても差し支えなさそうだ。
つまり今のゴンはゴブリンサイズのオーガといった所か。
体もさらに強化され、一撃の強さが増したような気もする。
そんな感じで東を目指しながらも合成を続けていく僕。
そしてそんな中でなかなか興味深いものを見る事になる。
「……見てください、アークさん。あれってもしかして、ホークがオーガと戦っているんじゃないですか?」
「うん、そうみたいだね」
テイニーが指さす方を見ると、そこには確かに空からホークがオーガを攻撃しては離脱する、戦いの光景があった。
Eランク魔物であるホークにとって、オーガはだいぶ格上にあたるはずであり、一撃でも食らったら死の危険があるというのに、あのホーク、なかなか根性があるな……。
ホークはプライドが高いと聞いた事があるが、まさかオーガにケンカを売るとはね。
そんな話、聞いた事がない。
「ヴァルド、あのホークを従える為に必要なカリスマ力はどれ位?」
「そうだな。必要カリスマは10といった所か。アークでも使役出来そうだぞ」
なるほど。
必要カリスマは10か。
最近ヴァルドに聞いた話によれば、今の僕のカリスマ力は18。
ラスの使役に1、ゴンの使役に2使っているから、僕の余剰カリスマ力は15ある。
つまり、ホークを使役するだけのカリスマ力はあるという事だ。
「よし、決めた。僕、あのホークを使役する事にする!」
「ほう、ホークを使役するんかいな? でもホークは空を飛ぶ魔物や。どうやって使役するまで持っていくつもりなんや?」
「まあ、そんな難しい事じゃないよ。見ていれば分かるさ。ラス、ちょっと協力してくれる!?」
「あっ、あーく、ぼくのでばんなのー?」
「うん、今から僕はあのホークを仲間にしたいんだ。その為に君の力を借りたい」
「あのこがなかまになるのー!? やったー! もちろんきょうりょくするよーあーく!」
ラスはそう言っていつもよりも多めに体をぴょんぴょん跳ねさせる。
さて、ラスもやる気十分なようだし、早速頑張っていく事にしますか!




