41.ジェスには提案があるようです
「そういえばアークさんは色んなギルドを見て回られたんですよね? 良いギルドはありましたか?」
「あっ、うーんと、そうですね……」
正直今まで見てきた三つのギルドの印象はあまり良いとは言えない。
ウイング・サーデュラスやアビス・アーノンは論外。
ブレイブ・ディスターはまだマシだけど、あまりに騒々しいし、やはり僕の存在を疎ましく思うような人が多くいそうだった。
だからしっくりとくるような所はあまりなかったんだよなぁ。
「あら、その様子だと、あまり良いギルドはなかったみたいね、アークくん?」
「正直言うと、そうですね。まだその中ではブレイブ・ディスターが良いとは思っているんですけど、そこもちょっと……」
まあ、だからといって消去法でジェネラル・レノスっていうのもね。
だってこんな経営すら危ういようなギルドに所属するのって危なすぎる。
所属したら間もなく潰れましたじゃ話にならないし、それに所属している間も肩身の狭い思いをする事になりそうだし。
「……まだ決めかねていらっしゃるようですね。でも無理もありません。一旦所属するギルドを決めてしまったら、なかなか変えられないですからね」
「うーん、どこも一長一短で、どこが良いとははっきり決められないといいますか……」
「ちなみにアークさん、ぼく達のギルドの事はどう思っていらっしゃるのですか?」
「そうですね。正直雰囲気は良いと思います。居心地も良いと思います。まあ二人としか話してはいないので何とも言えないですけれど……」
「ふふ、でもたった三人のギルドだから、こういう雰囲気と思ってくれて良いのよ、アークくん?」
「そうですよね。なら、雰囲気は好きだと言えそうです。ただ、やっぱり先行きが不安と言いますか、そこに所属するのはいかがなものかと言いますか……」
そう、そこだけが心配なのだ。
一回所属したものの、すぐにギルドが解散になるなんて目も当てられない状態になってしまう事だけは避けたい。
だからこそ迷っている訳なんだけど。
「分かりました。それならこういうのはどうでしょう? アークさんはひとまずどのギルドに所属しない。そしてアークさんが依頼の達成を報告する時に、ぼく達のギルド、ジェネラル・レノスを応援すると一言付け加えて頂く。そういう感じだと虫が良すぎるでしょうか?」
なるほど。
つまりジェスは僕にギルドのサポーターになれと言っている訳か。
サポーターとは、直接ギルドに所属する訳ではないが、依頼達成による貢献ポイントをそのギルドに与える役割を持つ。
ギルドは貢献ポイントの大きさによって、ギルド本部から支援金が支給されるので、貢献ポイントをあげる事は、そのギルドの運営を助ける事になるのだ。
そもそも貢献ポイントが一定以上ないと、一ヶ月後にある大会に参加資格すらない訳だが。
「一回話がそれますけど、もしかしてジェネラル・レノスって、このままだと大会に参加する事も出来なかったり……?」
「……はい、アークさんが仰る通りです。うちのエース、シェルザルが頑張ってくれていますが、それでも必要ポイントの二割ほどしかまだ稼げていません。あと一ヶ月頑張っても、恐らく七割は足りないのではないかと……」
そ、そうなんだ。
どうやらとても窮地に立たされているらしいな、ジェネラル・レノスは。
そういえば去年はジェネラル・レノスが参加しなかったから、三つのギルドで大会は催されていた。
どうして参加しなかったんだろうと思っていたけど、そんな事情があったのか。
ちなみに僕が持っている魔物使いギルド大全にはそのような事情があるという記述は一切載っていなかった。
「まさかそんな事情があるとは思いませんでした。魔物使いギルド大全にもそのような記述はなかったので……」
「あっ、はい、それはそうでしょうね。そこはリーリーがしっかりと頑張ってくれていますから」
「ええ。ギルドの悪評を流す子はあたしが許さないの。もし流そうとしそうな子がいたら、その前におしおきをしないと、ね? ふふふ……」
そう言って妖しげな雰囲気をさらに漂わせるリーリー。
この人、何か只者ではないような気がする……。
得体のしれない怖さがあるというか、何というか。
「で、どうでしょう? ぼくのこの案であれば、アークさんはギルドに所属しなくてもいい。最悪、他のギルドに所属してもいいです。たまに貢献ポイントをうちに分け与えてくれればそれでも構いませんから。ですからどうか、協力しては頂けませんか!?」
そう言って必死に僕に頼み込んでくるジェス。
リーリーも黙って頭を下げ、一緒にお願いの気持ちを表している。
……そこまで頼まれたら、断れないよね。
ギルドに所属しなくてもいいっていうし、ここはちょっと協力してあげるとしますか。
「分かりました。あなた達に協力しましょう」
「ほ、本当ですかっ!? ありがとうございます、アークさん!」
「いや、そんなにお礼を言われる程の事でもないですよ。……テイニー、僕が勝手に決めちゃったけど、大丈夫だったかな?」
「はい。わたしもアークさんと同じく協力してあげたい気持ちだったので、大丈夫ですよ。一緒に頑張って助けてあげましょう!」
どうやらテイニーも助けてあげたい気持ちになっていたようだ。
それなら、特に問題はなさそうだね。
僕達はそれから少し話をした後、ジェネラル・レノスを後にした。
ちなみにジェネラル・レノスでDランク昇格試験を受けられないかとリーリーに聞いてみたのだが、今のジェネラル・レノスにはそういう権限がないとの事。
……うん、実に悲しい。
他の三つのギルドであれば、受けられない事もないのだが、正直僕にとって三つのギルドの印象はとても悪い。
だから他の町に行ってから依頼はこなした方が良いかもな。
どちらにしろ、様々な町を巡る必要があるのだから、僕達は。
という事で、僕はみんなと話し合った結果、翌日に首都デコラーダを出発して、東に向かう事にした。
出発を比較的急ぐ理由はちなみに他にもある。
「あそこの宿屋、数日分、余計にお金を払ってしまう事になってもったいないよな、アークはん?」
「そうだね。でも、正直あの宿屋に長居したくないというのも事実だ。だって、レクはあの宿屋の中でさらわれたんだよね? 今は誘拐犯はいないだろうとはいえ、あまり良い気持ちはしないよね」
「ええ、全くです! 正直、今すぐにでも出ていきたい所なんですけど!」
「うーん、それだと野宿する必要があるけど、良いのかな?」
「えっ、それは嫌です!? 野宿する位なら、まだあの宿屋に泊まった方がマシですよ!」
「まあそうなるよね。でも結局は最低一回は野宿する必要があるんだけどね。次の町まではだいぶ距離があるから」
「えっ、そうなのですか……!?」
そう言うと、狼狽えるテイニー。
まあ確かに今まで野宿した事がないんだろうし、戸惑うのも無理はないか。
僕だってまだ一回もした事がないんだし。
「大丈夫や。慣れたら意外と何とかなるもんやで? それともテイニーはんだけここに残っていくんかいな?」
「……そ、それは嫌です!? 行きます! の、野宿位、へっちゃらですよ、わたし!」
「テイニー、無理し過ぎだニャ……」
テイニーは余程置いていかれたくないのか、焦りながらそう言い始める。
もうリザがいるから迷う事はないだろうけど、それでも僕達と一緒が良いんだね、テイニーは。
とにかく、そういう理由もあって、明日早速出発する事にした僕達。
旅に必要そうなものを揃えたら僕達は早めに宿屋に戻る事にした。
まあ、僕には約束があるから、宿屋から一回出る必要があるんだけど。




