40.ジェネラル・レノスは窮地に立たされているようです
僕達はそれから様々なギルドを巡っていった。
まずはウイング・サーデュラス、その次にアビス・アーノンを僕達は訪れる。
だが前者は僕達が飛行系の魔物を連れていない事を理由に、後者は多額の入会金を払わないと中にいれないという事で門前払いをされてしまった。
……まさか、こんなに露骨な態度をとられるとはね。
「す、すいません。何だかうまくいかないみたいで……」
「いや、テイニーは悪くない。むしろ悪いのは僕の方なんだ」
「えっ? それってどういう事ですか?」
「うん、それはね――」
僕は”魔物使いギルド大全”を隅々まで読んでいたが、こうしたギルドが門前払いをするという事は載っていなかった。
なのにどうしてこんな事をされてしまったのか。
それは恐らくスライムとゴブリンしか連れていない僕がギルドを訪れたからだろう。
ギルドのメンバーがどんな依頼を達成したのか。
逆にどんな依頼が達成できなかったのか。
そういった事はギルドの評判に関わってくる。
だからこそ、様々な依頼をこなせそうな強い魔物使いは歓迎され、逆に評判を下げる弱い魔物使いは敬遠される。
あの二つのギルドに僕はその敬遠されるべき存在として見られた訳だ。
そしてそういう事を面と向かって言いたくないからか、適当に理由をつけて僕達を追い払ったという訳だろう。
「……そ、そうだったんですか、アークさん?」
「多分ね。だからきっとテイニーだけで訪れていたら、普通に入会できたんじゃないかな。ギルドの人の目線的に、リザを使うテイニーを惜しむ感じが見られたし」
「まあ、そういう事やろな。門前払いされるなんてウチも聞いた事があらへんもん。ホンマにひどいギルドやったな。腹立つわ! もうあのギルドの奴らには商品の販売を中止したろかとすら思った程や!」
「そ、それはさすがに売上に関わり過ぎるからやめた方が良いんじゃないかな……。とにかく、そういう事だからごめん、テイニー。もしかしたらテイニーが気に入るようなギルドになるかもしれなかっただろうに、僕のせいでこんな嫌な思いをさせてしまって……」
「あ、謝らないで下さい! アークさんは何も悪くないんですから! それにわたし、あのギルドの本性が見れて良かったです。もしわたしがあんな所に入っていたらどうなっていたかと思うと……ぞっとします」
そう言うとうつむくテイニー。
そういえばテイニーはレクレスの町のギルドで散々な扱いを受けているんだったな。
確かにそんなテイニーからすれば、弱い者をつまはじきにするようなギルドは恐ろしく感じるんだろう。
いくら始めは歓迎されるかもしれないとはいえ。
「まあ全てのギルドを見終わった訳ではあらへんし、四の五の言う必要はないんちゃうか、アークはん?」
「うん、そうだったね。まだ一つギルドが残ってる。そしてここがそのギルドの建物でいいんだよね、テイニー?」
「……はい。ジェネラル・レノス。確かにここで良いはずなのですが……」
僕達はジェネラル・レノスの建物があると思われる所へとたどり着いたはずだ。
だが、そこにあった建物はカフェであった。
今まであった見てきたギルドの建物は、どれもイメージカラー一色の目立つものだったし、明らかにここではないような気がする。
でも、僕の”魔物使いギルド大全”で見た地図で確認しても、ここで間違いないはずなんだけど――
「……あっ、スライム使いのお方! 来て下さったんですね!?」
声がした方を振り向くと、そこには先程の勧誘してきた少年の姿があった。
「あっ、はい。ちょっと様子を見てこようと思ったんですが、でもどうやら場所を間違えてしまったようで」
「す、すいません……。確かに今まではここを本拠地にしていたのですが、最近引っ越しまして」
「そ、そうだったんですか。それで今はどこに?」
「はい。それではぼくがご案内しますので、付いて来て下さい!」
そう言って少年はどこかへと移動をする。
僕達はそんな少年についていく事にした。
こうして20分ほど歩くと、とある建物の前で立ち止まる。
「皆さん、着きましたよ」
「えっ……ほ、本当にここがギルドの建物、なの……?」
「そ、そうです……。す、すいません。ですが、今はこの建物の見た目通り、ぼく達はとても苦しい状態なんです」
僕達の目の前にある建物は、若干広めではあるものの、築30年位は経っていそうな程、ボロボロな建物である。
この場所も中央部からだいぶ離れた上に、裏の路地にある事から、立地的にも目立たなくて良くない場所だ。
……もしかして、こういう建物じゃないと維持ができない程、今のジェネラル・レノスはお金に困っているという事なんだろうか……?
「えっと、そんなにお金に困っているんですか?」
「はい……。昨日建物の維持費を払ったんですけど、そのせいで今手持ちにあるお金が1000Fに……」
「うっ……今の僕の手持ちよりも少ないですね。でも仮にも四大ギルドの中の一つだし、それなりの収入はあるんじゃないんですか?」
「昔はありました。けれど今は……」
「そ、そうなんですか……。とりあえず、中の様子を見せてもらってもいいですか?」
「はい! それではご案内致しますね!」
気持ちの切り替え、早っ!?
まあある意味、こんな状況で元気に案内ができるだけ、この少年はずぶとさを持っているんだろう。
でないとこんな状況でやっていける訳ないもんな……。
僕達は少年の後に続いて、その建物の中に入っていった。
「あら、マスター、おかえりなさい。あらあら、もしかして新入りさんを連れてきちゃった感じかしら? さすがマスター、なかなかやるわねぇ?」
「いや、この人達はただ様子を見に来ただけだよ。入ってくれたら嬉しいけど……」
そう言うとちらりと見てくる少年。
その嫌らしい目、やめてほしいんだけど。
というか、この少年、マスターと呼ばれているという事は、ギルドマスターをやっているのか!?
ちなみに少年と話しているのはスタイルがはっきりと見える黒い服を着た女性だ。
妖艶な雰囲気を漂わせていて、その人を見る時は目のやり場に困る。
「えっと、あなたはギルドマスターなんですか?」
「はい! そういえばぼくの事をまだ伝えていなかったですね。それでは改めて――ぼくはジェネラル・レノスのギルドマスターをしています、ジェストレーズと申します。長いのでジェスとでも呼んでいただいて結構ですよ」
「僕はアークと申します。よろしくお願いします」
「わ、わたしはテイニーです。よろしくお願い致します」
「ウチはメルといいますねん。よろしゅう頼みますわ!」
「あたしはリーリーというのよ。よろしくね、みんな」
やっぱり、この少年はギルドマスターをやっているようだ。
となれば、ラスの実力を見抜いていたというのは本当の事だったんだろうか?
「ジェスさん、先程出会った時、まるで僕のスライムがテイニーのリザードマンよりも強いというような事を言おうとしていましたよね?」
「あら、マスター、そうなの?」
「……あはは、あまりに驚いたもので、つい、ね。ところで、アークさん、一つ聞きたいんですけど、良いですか?」
「あっ、はい、何でしょう?」
「そのスライムくん、もしかして相当数の合成を施されているのではないですか?」
……ジェス、そんな事も分かるのか。
ラスがリザよりも強いであろう事も否定しなかった事から、ラスの実力も分かっていたようだし、一体何者なんだ、ジェスという人物は……。
「ジェスさん、あなたは何者なんですか?」
「その言葉は肯定と受け止めて良さそうですかね? あっ、いや、別にアークさんを非難するつもりはないんですよ!? 単純な興味本位で聞いただけですから! 合成された魔物も同じ魔物である事は変わりないですし、魔物好きは誰でもウェルカムですよ、はいっ!」
「えっと……質問の答えになっていないんですけど」
「あっ、えっと、ぼくが何者かという事ですか? 別に何者でもないですよ。先程も申し上げた通り、ぼくはただのギルドマスターです。まだ14歳ですから、魔物使いにもなれていない、ちょっと魔物の観察に自信のあるただの少年ですよ、はいっ!」
「まあ、その魔物観察に長けている所が買われて、ジェスがマスターになったのよね。マスターの観察眼は本当にすごいんだから。もしマスターが魔物使いになったら、どれだけ有能な魔物使いに化ける事か」
なるほど。
魔物使いでもないのに、ギルドマスターか。
ラスやゴンの実力を正確に見極める力を見れば、その立場につくのも納得だな。
「そういえば今はジェスさんとリーリーさんしか見当たらないようなんですけど?」
「うっ……!? は、はい……そうですね……」
「あらあら、マスターったら。言いにくそうだからあたしが代わりに答えるわね。実は最近、あたしとジェス以外のメンバーがギルドに来ないのよ。音沙汰がないと言ってもいい位かしら。だから実質動いているのはあたし含めて三人ということね」
「三人? という事はあと一人だけいるという事ですか?」
「そうよ。このギルドの前マスターであり、ギルドのエースでもある人がいるの。今は自ら戦力としてギルドを盛り上げなければいけないという事で、ジェスにマスターの座を受け渡して、あちこちに依頼を受けに行っているからここには滅多にいないんだけどね」
「はい、そうなんです。その人が稼いでくれるお金がギルド唯一の収入源。ですが、さすがにそれも限界に近付いていまして……」
はぁ……とため息をつくジェス。
やっぱりというか予想通り、このギルド、なかなか厳しい状態に置かれているようだ。




