39.変な少年から勧誘されました
「……まったく、アークさんをあんな感じで見るなんて酷いです! アークさんがいなければわたし、こんな所まで来れなかったのに!?」
歩きながらそう言ってプンプンと怒るテイニー。
まあ確かに僕が足手まとい的な目で見られるのは不快ではあったけど、でも仕方ない事だとは思うんだよなぁ。
だってスライムやゴブリンが強いなんて誰が想像するんだろう?
ラスは体の色が色々混じっていて不思議な色をしてはいるが、見た目は他のスライムと大差ないし。
ゴンに至っては他のゴブリンよりも一回り小さいときた。
普通のゴブリンの中でも弱い個体だと思われても不思議ではないだろう。
ちなみに合成によってゴンの体長は若干大きくなってはいるが、それでも今は70センチ程といった所か。
つまり他のゴブリンよりもまだまだ小さい。
「テイニーはんの言う事ももっともやけどな。でも、あれは普通の反応やと思うで?」
「……で、でもっ!」
「ええんや。馬鹿にする奴には馬鹿にさせておけば。むしろそういう奴の度肝を抜く楽しみが出来るやろ? スライムが〇〇に勝ったなんてありえねぇ、みたいな感じでな!」
そう言ってガハハと笑うメル。
うん、確かにメルの言う通りだ。
言いたい奴には言わせておけばいい。
所詮は正しい実力を見極められない人というだけなのだから。
まあ逆に、ラス達の本来の実力を見破ってくる人がいたらそれはそれで怖いけど……。
「……ああ、そのスライム、素晴らしいです! すいません、ちょっと拝見してもよろしいでしょうか!?」
町中を歩いていると突然誰かが声をかけてきた。
僕は声がした方を振り向くのだが、誰もいない。
あれっ、気のせいだったかな?
「ええっと、誰もいないみたいだ。気のせいだったかな?」
「気のせいではありません! ぼくはここにいますよ、ここにっ!」
そう必死な声で訴えてくる誰か。
その声は僕が思っているよりも下の方から聞こえてきた。
その方を見ると、そこにはしゃがんでいる少年の姿があった。
一体いつの間にラスの近くにしゃがんでいたんだ、この少年は……。
「あっ、気付かなくてごめんね……」
「気にしなくて大丈夫です! いつもの事なので! それより、このスライムに触らせてもらってもいいですか!?」
「あっ、うん、構わないよ」
「ありがとうございます! では早速……」
少年はそう言うと、ラスをぷにぷにと触り始めた。
一体いきなり何なんだろう、この少年は……?
「素晴らしい。素晴らしいですよ。……こんなスライム、見た事がない!」
どうやら少年はラスの事を気に入ったようだ。
ちなみにゴンの事も褒めちぎっていた。
「えっと、あなたがこの子達の魔物使いさんでよろしいのでしょうか?」
「あっ、うん、そうだけど……」
「それならば是非! うちのギルドに入ってくれませんか!?」
えっ!?
まさかの勧誘だって!?
でも、この少年は何のリボンもつけていないように見えるんだけど……。
それに見た感じこの子は15歳になっていなさそうだ。
だからギルド関係の人だとは全く思っていなかったのに。
ちょっと気を引き締めていかなくては。
「えっと、どこのギルドでしょう? あなたはリボンを身につけていないようですが……」
「あっ、それは気になりますよね!? ギルド名、大事ですものね……」
急にテンションを下げ始める少年。
一体どうしたというのだろうか?
「えっと、何かギルド名に問題があるんでしょうか?」
「い、いや、そんな事ないですよ!? これを見てください!」
そう言った少年は服をめくり始める。
そうして見えたのは黄色のリボン。
黄色……ってことは、ジェネラル・レノスか。
確かにパッとしないギルドだし、その名を言えば避けてくる人もいるに違いない。
少年がギルドの名を言うのをはばかった理由も分かる気がする。
「ジェネラル・レノスか。なるほどね」
「事情は分かってもらえましたよね!? でしたら、さあ!」
「うーん、そうですね……まだちょっと決める訳にはいかないですね。とりあえず全てのギルドに行ってみるつもりなので」
「そ、そうですか! それならば、うちにも立ち寄って下さるという事ですよね!?」
「ま、まあ、そういう事にはなりそうですかね?」
「ですよね! やったー!」
えっ、何でこの少年、こんなに喜んでいるの?
それに僕、まだそこに入るなんて一言も言ってないけど?
「僕、あなたのギルドに入るなんて一言も言っていないんですけど?」
「あっ、はい、分かってます! ですけど、最近はギルドをたずねてくれる人もいなくて……ですからご来訪だけでも嬉しいんです!」
あっ、そうなんだ……。
どうやらジェネラル・レノスは思っていた以上に廃れていたらしい。
まさか訪れる人すらまともにいないなんて……。
何か心配になってくるな。
「そういう事ならこの子にも勧誘はしないんですか? この子も魔物使いだし、このリザードマンの主でもありますよ?」
「あっ、そうですよね! すいません、それではあなたもうちに入っては頂けませんか!?」
「えっ……で、でも、わたしは……」
急に話しかけられてオロオロするテイニー。
テイニーの場合、話しかけられた相手が子供であろうと関係なく緊張するようだ。
「この子もまだ決められないそうです。すいません」
「あっ、いえ、謝らなくても良いんです! どうかじっくりと考えられて下さい! そして出来れば……うちに来てくれると助かります! 特にあなたは!」
「ど、どうして僕? この子の方がいいんじゃ?」
「だってあなたのスライムとゴブリンはリザードマンよりも……ああ、そんな事を言ったらリザードマンさんに失礼ですね! 忘れて下さい! それではこれで!…………ああ、そのスレイプニル、素晴らしいです! すいません、ちょっと拝見してもよろしいでしょうか!?」
そう言って、近くにいるスレイプニルを連れた人に話しかける少年。
……気のせいだったかな?
あの少年、まるでラスとゴンがリザよりも強いとでも言おうとしているように見えたんだけど。
でも魔物使いを片っ端から勧誘しているみたいだし、きっと気のせいだよね、うん。
「実に変な少年やったな……。とにかく気持ちを切り替えて、次はどこに行くんや、アークはん?」
「そうだね……次は緑のギルド、ウイング・サーデュラスに行こうかな」
「ウイング・サーデュラスですね! 分かりました! リザ、行きますよっ!」
そう言って前を行こうとするテイニー。
すると早速リザに服を掴まれ、向かう方向を修正されるのだった。
テイニーは相変わらずだなぁ。
でもおかげで気持ちを切り替えられた。
さて、次のギルドはどんな所なんだろうな?




