37.テイニーの方向オンチは相変わらずのようです
北門の門番は目が覚めたようで、僕が北門をくぐろうとした時には門番から検問を受ける事になった。
スライムとゴブリンとケットシーだけで大丈夫だったのか心配されたけど、父さん、つまりサイガルにここまで連れてきてもらったと言ったら納得された。
父さんがここから飛んでいく様子を門番の中に見た人がいるようだったからね。
そして北門を潜り抜ける僕達。
すると僕達の方に駆け寄ってくる人物が。
「アークはん、無事やったんか!」
「うん、まあ相当危なかったけどね。レクも無事だよ」
「……みんな、心配かけたニャ。すまなかったニャ」
「……レク、ごめんなさい!」
「んニャ?」
「レク、こうなったのも全部わたしが悪いんです! 本当にごめんなさい! わたしがレクとケンカさえしてなければ、こんな事には――」
そう言って泣きながらレクを抱きしめるテイニー。
するとレクは。
「こちらこそ悪かったニャ。テイニー。あっしもちょっと度が過ぎていたニャ。だから許して欲しいニャ」
「……はい、許しますよ! わたし、レクの事、何でも許します!」
そう言うと笑みをこぼすテイニーとレク。
どうやら二人とも仲直りできたようだな。
実に良かった。
「アークさん、本当、このお礼は何をしたら良いのでしょうか……? 本当に危ない思いをされたでしょうに……」
「いや、これは僕が勝手にやった事だよ。別にレクを助けて欲しいなんてテイニーは一言も言ってない。だから気にしないで」
「で、でも……!」
「テイニーはん。アークはんがそう言ってくれてるんや。ここは言葉通りに受け止めておくのがええ。それよりも、早く体調を治す事や。でないと、何をしたくても出来なくなってまうで!」
メルの言葉を聞き、少しうなだれた様子を見せるテイニー。
恩を返したくても返せない。
そのもどかしさに苦しんでいるんだろうか?
別にそんなに気にしなくてもいいのにね。
結局メルの言葉が効いたようで、それ以降テイニーはあれこれ言う事はなくなった。
レクに会えたとはいえ、すぐに体調が戻る訳でもあるまい。
ゆっくりと休んで、体調を戻してもらわないとね。
僕達はまっすぐ宿屋に戻り、そしてそれぞれの部屋に入っていく。
うん、今日は色々あって疲れたな。
さっきの戦いは本当にギリギリだったし。
あんなヒヤヒヤする思いはもうしたくないものだ。
とりあえず今日の所は早く寝よう。
もうだいぶ夜遅いから早くない時間ではあるけれども。
こうして僕は疲れきっている事もあって、間もなく深い眠りへとつくのだった。
そして翌日。
起きた時には時計が12時を表示していた。
……うん、寝すぎたな。
これじゃ前にテイニー達が遅く起きた事を責められないよ。
まあ、昨日の今日だから仕方ないんだけど。
今日差し迫って何かしないといけない訳でもないし、別にいいか。
僕は出掛ける準備をして、そして宿屋の外へ出る。
すると、そこにはみんなが待っていた。
「おはようございます、アークさん。よく眠れましたか?」
「おはよう、テイニー。まあ、もう昼だから正しくはこんにちはなんだろうけど。……もしかしてずっと僕を待っていたりしたの?」
「えっ、いやっ、そんな事ないですよ!? わたしもついさっき起きたばかりですから!」
そう必死になって言うテイニー。
僕に気を遣わせまいとしているんだろうか?
そんなテイニーを見ている僕に、そっと近付いてきたメルが僕にささやいてきた。
「ここだけの話、テイニーはんはずっと早くに起きてたんや。アークはんの為にという事でさっきからずっと頑張ってたんよ。まあ、そういう事やから、あまり突っ込まんであげてくれな」
ふーん、やっぱりそうなんだ。
昨日のあの感じからしたら、そういう事をしそうだとも思ってはいたけど。
でもあんな事があった次の日なんだから、あまり無理はして欲しくなかったんだけどなぁ。
テイニーって、平気で無理するからさ。
「それより、今日はどこへ出かけるんですか?」
「そうだね……ひとまずは前に僕が話した、4つのギルドに行ってみようと思ってる」
「それは良いですね! どこから行きますか?」
「まずはブレイブ・ディスターかな。父さんが所属しているギルドだし、一回は見ておきたいなと思うんだ」
「なるほど、それは良いですね! それでは、早速行きましょう!」
そう言うとリザと一緒に張り切って前を歩くテイニー。
あれっ?
テイニーが先導しようとするなんて、何か嫌な予感がするんだけど……。
そう思った僕がテイニーを止める為に話しかけようとしたら、僕の近くにいるレクに止められる。
「アーク、テイニーを信じてあげて欲しいのニャ。テイニー、アークの役に立ちたいという事で、ずっと昨日から地図の勉強をしていたんだニャ。まあ正直それでも全然進歩していないけど、リザがいるから迷う事はないはずだニャ!」
確かにそうだったね。
昨日、僕は長時間に渡って様々な本を読んでいたけど、その間、テイニー達はずっと地図の本を読み続けていたんだもんね。
普通そんなに読んでいたら飽きると思うんだけど、テイニー達は買った本を宿屋に持ち込んでまで熱心に勉強していたよな。
どうしてそんな事をしているのかと思ったら、この為だったのか。
「そういえば、レク。レクは街中で話してもいいの? いくらケットシーとはいっても、喋ると目立つし、黙っていた方が良いんじゃない?」
「まあ本当はそうかもしれないけどニャ。正直レクレスにいる時に散々喋ってきたから、今更黙っていても遅いと思うニャ」
「遅い、か。でもテイニーが心配するんじゃないの? あんな事があった後だし」
「テイニーも今まで通りで良いって言ってくれたニャ。だからあっしはその言葉に従って今まで通り過ごすニャ。あっしがしっかりしないと、テイニーが心配だからニャ!」
レクはそう言うと、テイニーの方に駆け寄っていく。
そして先頭に立って案内役をしようとするのだが。
「レク、そっちじゃないですよ。こっちですよ! え、どうしたんですか、リザ? えっ、あっち? わ、分かっていますよ、それ位は!」
レクに道を教えようとしたテイニーは、リザにクイックイッと服を引っ張られ、間違いを正される。
どうやら正しい方向はテイニーの方向でもレクの方向でもなかったようだ。
やっぱりテイニーとレクの方向オンチは努力で何とかなるものじゃなさそうだな……。
それからしばらくテイニーが先頭を行ってはリザに訂正されること数十回。
ようやく目的地へとたどり着く。
「ここが赤のギルド、ブレイブ・ディスターの建物ですか……。真っ赤ですごく目立ちますね……」
僕達は今、ブレイブ・ディスターの建物の前にいる。
赤一色の建物は周囲の建物とは当然全く異なり、異様な雰囲気が漂っている。
そして中から人の騒がしい声が聞こえてくる。
それも喜ぶ声、怒った声、悲しむ声、楽しむ声など様々な声だ。
「随分と騒がしい所だニャ……。外にいるのに騒がしさが分かるってどういう事なんだニャ……」
「うん。僕も話には聞いていたけど、これほどとは思ってなかったよ。父さん、よくこういうギルドでやっていけているよなぁ」
父さんはそんなに騒がしい人ではない。
だからこそ、父さんが所属するギルドも、父さんのような人が集まった所なのだと思っていたんだけど、どうやら違うようだ。
これは、違うギルドに行くべきかな……。
「おっ、アークじゃねえか! どうしたんだよ、こんな所で!?」
建物の前でしばらく立っていると、そう呼びかけてくる声が。
この声はまさか――
「に、兄さん!?」
「やっぱりアークだよな! まさかこんな所で会えるとは思わなかったぞ! それにどうした、この魔物達は!? リザードマン、ケットシーにスライム、ゴブリンまでいるじゃないか!」
「うん、僕もだよ、兄さん。まさかこうして会えるとは思ってなかった!」
「だよな! せっかくこうして会えた事だし、これまでの事を話してくれよ! ちょっと中で話さないか!?」
兄はとても嬉しそうに、そう話しかけてくる。
兄の腕には赤いリボンがつけられている事からして、兄はブレイブ・ディスターに所属しているんだろうな。
僕はそんな兄に押されるようにして、建物の中に連れていかれようとするのだが。
「ちょっ、ちょっと待ってや!? 急過ぎるやろ! もう少しウチらにも分かるように説明してくれないと困るで!?」
「ん? どうしたんだ、この元気な姉ちゃんは? アークの知り合いか?」
「うん。この人はメルというんだ。僕の仲間で、商人をやってる」
「そや。ウチはメルというねん。よろしゅうな。お二人さんの話を聞いた感じ、あんさんはアークの兄ちゃんって所やな?」
「ああ、そうだ。オレはアークの兄のザンというんだ。よろしくな、メルさん!」
メルは初対面のはずの兄に臆する事なく、接している。
流石は商売人をやっているメルだ。
実に人慣れしている。
対するテイニーはリザの体につかまりながら、オロオロしているようだ。
まあいきなり知らない人が親しげに近付いて来たら困惑するよね。




