36.父親とじっくり話してみました
「サイガル……貴様、どうしてこんな所に!?」
「それは俺のセリフだ、ディーラス。そのケットシーはどうした? 嫌がるケットシーを無理やり捕まえているように見えるんだが?」
そう父さんが言うと、ぐぬぬ……とした表情を浮かべるディーラス。
やはり、この状況を父さんに見られるのはまずいんだろう。
そこに僕が追い打ちをかけてみる。
「父さん、そのケットシーは僕の仲間の子の従魔なんだ! さらわれちゃったから、追いかけてきて、それで――」
「なに? ディーラス、それはどういう事だ!?」
「ぐ、ぐぅぅ……お、おのれ、覚えていろ、少年! いつか叩きのめしてやるんだからな!」
そう言ったディーラスはレクを放り投げて、退散していく。
また、いつの間にかツタから解放されていた低姿勢の男もその様子を見て、一目散に逃げていった。
ラスが檻状態を解除し、そして投げられたレクをキャッチする。
ラスがそのままレクを縛っている縄も溶かしてあげた事により、レクは自由の身となった。
「たすかってよかったねーれくー」
「うんニャ。本当、死ぬかと思ったニャ……。みんな、本当にありがとうニャ……」
レクはそういうとラスに顔をうずめて泣いていた。
やはり相当怖い思いをしたんだろう。
よく我慢したものだ。
僕がそんな言葉の掛け合いを見てなごんでいると――
「ん? スライムが、喋ったのか?」
あっ……。
そういえばさっきから普通にラスやゴンと話しちゃっていたよね。
この戦いの間、ずっと。
父さんはともかく、これじゃディーラスにも聞かれていたよなぁ。
でも今回ばかりは、声かけがなければうまく連携ができなかったし、仕方ないだろう。
みんなの命があるだけ上出来と考えておくか。
「う、うん……色々あってね。僕の従魔も仲間の従魔も話せるんだ」
「そ、そうなのか……ケットシーが話すだけでも珍しいが、スライムが話すなど聞いた事がないな。良かったらアークのこれまでの事について話してくれないか?」
「うん、分かった。それじゃあ何から話せばいいかな――」
僕は今までの冒険をかいつまんで父親に話した。
テイニー、レク、メルのこと。
ギルドに加入して、Eランクになった事。
洞窟を通って首都デコラーダに来た事などをだ。
すると父親は――
「なるほど。アークにも仲間ができたのか。その仲間と一緒にいて楽しいか?」
「うん。とっても楽しい。みんな個性的で一緒にいて飽きないんだ」
「それは良かった。その様子だと、俺がついていなくても大丈夫そうで安心したぞ」
「……うん、一応これでも一人前の魔物使いだからね。まだEランクだけど」
そう言うと少し照れくさくなった僕は頭をかく。
その様子を見た父親はうんうんとうなづいていた。
何かこの感じ、久しぶりだな。
これがいつもの優しい父さんっていうか。
前に会った時の父さんは無表情でちょっと怖かったから。
「そういえば父さん、どうして前に会った時、あんなに僕に厳しかったの?」
「……ああ、あれか。あれはアークが生半可の気持ちで魔物使いを目指さないように釘を差したつもりだったんだ」
「そうなの?」
「ああ。正直俺はあの時とても嬉しかったさ。まさかアークが魔物を使役する時が来るなんて思っていなかったからな。だけどスライムを使役できるだけではこの先魔物使いとしてはやっていけない。今後もやっていく為に成長する覚悟はあるか試す為の課題だったという訳だ」
「なるほどね……。正直あの課題は随分辛かったよ。でも、確かに僕の成長につながったと思う。ありがとう、父さん」
「いや、いいんだ。そういえばすまなかったな。日が沈むまで待てなくて。そこにゴブリンがいる事からして、しっかりと課題はクリアしたようだが」
「うん、本当にギリギリだったけどね。でもその課題のおかげでメルと出会えた。このゴブリン――ゴンを使役する為にメルと戦ったからね」
なるほど。
まあ、何となく分かってはいたんだけどね。
父さんがただ僕を突き放すはずはないって。
覚悟を見せなければいけない場面があの時だった。
その僕の読みは合っていたという事だ。
それからしばらく父親と話し込んだ僕とラスとゴンとレク。
魔物が話す事に対して父親は興味津々で、色々とラス達とも話していた。
その間、僕はその様子を聞いて楽しんだ。
そして、楽しい時間はあっという間に過ぎ去ってしまうもので――
「おっと、もうこんな時間か。早くしないと寝不足になってしまうな。アーク、それにラス達も、ヴェルに乗っていけ。ヴェルなら街までひとっとびだからな」
「えっ、いいの、父さん?」
「ああ。むしろここまですまなかったな。一人で戦わせて。よくディーラス相手にあそこまで持ちこたえていた。さすがは俺の息子だ」
そう言って僕の髪をくしゃくしゃにしてくる父さん。
こうされると後で髪を整えるのが大変なんだよなぁ。
でも、この感じ、悪くない。
「そういえば、アークはまだ首都のギルドに所属していないようだが、もう所属先は決めたのか?」
「あっ、いや、まだ決めてないかな」
「そうか。好きな所に決めるといいぞ。俺と同じ所でも良し。違う所でも良し。とりあえずどこかに所属していれば、今度は大会で会えるだろうからな。その時を楽しみにしているぞ」
「……うん、そうだね。その時までにはもっと強くなって、父さんに負けない魔物使いになってみせるよ!」
「ハッハッハッ! 言ってくれるな、アーク? だが、現時点でディーラスの猛攻を耐える程の実力なんだ。俺もうかうかしていられないな。もっと頑張っていくとしよう」
父さんはそう言うと、真剣な顔をする。
ヴァルドの助けがあったとはいえ、ディーラスの猛攻を犠牲なくやり過ごす事ができた。
その事実はとても大きい。
それは僕にとっても。
そして恐らくは父さんにとっても。
父さんが言っている大会とは、首都デコラーダの4つのギルドの魔物使いが最強をめぐって争う大会の事である。
その大会の成績によって、毎回ギルドの新規入会希望者の数に影響が出るので、個人戦とはいえ、ギルドが力を入れて取り組んでいるイベントでもある。
大会に出場する人はもちろん、出場しない人も、出場する人の魔物の世話をしたり、対戦相手の情報を調べたり、ギルド全体でバックアップをしているほどだ。
確かその大会が開催されるのは一ヶ月後だったはず。
まだちょっと期間があるけど、うかうかもしていられないだろうな。
ヴェルが空を飛び始めてからそれほど経たない内に、僕達はあっという間に森を抜け、首都デコラーダの北門にたどり着いた。
「それじゃアーク、達者でな」
「うん、父さんも元気で」
「……ああ、そうだ。念の為、アークにはこれを渡しておこう」
父親はそう言って僕に青い石を渡してきた。
今僕が持っている石は壊れちゃって使い物にならなくなっちゃったから、くれたんだろうな。
「青い石か……ありがとう、父さん」
「アークはだいぶ強くなったから心配ないとは思うが、念の為な。また危なくなったら、俺を呼ぶといい。すぐに駆けつける」
「うん、ありがとう。でもできるだけ頼らないように頑張るから心配しないで」
「そうだな、そうならない事を祈っている。それじゃ、また会おう、アーク!」
僕はヴェルに乗って飛び去っていく父親を見上げていた。
ヴェル……というかフレーズヴェルグってかっこいいな。
僕もいつかはあんな感じに空の旅をしてみたいものだ。
「アークの父さん、とてもかっこ良かったニャ。それにしてもアークの父さんがサイガルさんだとは驚いたニャ」
「そういえばその事は話していなかったっけ。まあ、そういう事だよ。僕の憧れの人さ」
「……ふむ。あんな人が間近にいるのに、その人を超えようとするなんて、アークもなかなか大物だニャ」
……確かに、結構すごい事を言っちゃったかな?
でも、それ位の気概がないとやっていけないよね。
僕がここまでの意識を持つようになったのも、きっとヴァルドのおかげなんだろう。
世界最強の魔物であるヴァルドはその名に恥じぬ程の圧倒的な力を僕に見せつけてきた。
ジャイアント戦なんかも圧巻の攻撃だったし。
そしてそんな攻撃を目の当たりにしてしまっているから、いつかは僕達もそれ位強くなりたい。
そう思ってしまっているのかもしれないね。




