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34.とんでもない人が悪事に加担していたようです

 魔の森の中へと入っていく僕達。

 現在は夜という事もあって、辺りは深い闇に包まれており、中の様子が全く分からない。

 ラスが僕とゴンの体に分体をひものようにして連結してくれているから、進む方向がかろうじて分かっている状態だ。


 今の所、進んでいても何も起きていない。

 静かすぎて不気味な位だ。


 森の中をしばらく歩いているうちに、僕もだんだんと目が慣れてくると……。



「……えっ!?」



 森の中を進んでいても僕達は無事だった。

 ただ、それはその森の生物にとって、とるに足りない生物だと判断されているから。

 そう僕には思えたのだ。


 あらゆる所に魔物はいた。

 大地にはアラクネ。

 木の上にはペガサスやユニコーン。

 木の影にはヒッポグリフの姿があった。


 彼らは僕達の方に見向きもしない。

 僕達の存在に気付いているにも関わらず。


 どうして僕達がそう思われていると感じられたのかは分からない。

 でも何となく、そう魔物達が思っているような感じがしたのだ。

 どうしてだろう?

 僕は弱気になっているからだろうか?

 そうだとしたら、しっかりと気を持たないとな。


 ……とにかく、襲って来ないのなら好都合だ。

 下手に刺激をしないように、このまま進んでいくとしよう。



 体を小さくしたヴァルドは僕達の周囲にいるはずなのだが、その姿はよく分からない。

 目が暗闇に慣れてきたとはいえ、全てが見える訳でないのだから無理もないんだけど。

 まあヴァルドはきっと彼なりに状況を判断しているんだろう。

 僕達が取り返しのつかない状態に陥らないようにするための全体のサポート。

 そんな重大な任務をきっと遂行してくれているに違いない。

 ここは彼を信じよう。



 こうして僕達が魔の森をしばらく進んでいくと、ラスが突然立ち止まる。



「……あーく、あそこからにおいがするよ」



 僕達が進む先に見えたのは一筋の赤色の灯り。

 あの灯りは恐らく携帯発光石による灯りだろう。

 そしてその近くには荷車みたいなものがある。

 あとその荷車を引いているヒッポグリフの姿も見えた。


 発光石といい、荷車といい、明らかな人工物がそこにあるという事は、もちろん近くに人がいる訳で。



「ヒヒヒ、おやっさん。喋るケットシー、どうですかい?」

「……喋るケットシーか。未だ一言も喋ってはいないみたいだが?」

「……きっ、きっと緊張しているだけですよ!? ほ、ほらっ、お前、さっさとおやっさんに挨拶をするんだ!」



 どうやら荷車の近くには二人の人がいるようで、その奥には手足を縄でしばられたケットシーが。


 恐らく、あのケットシーがレクで間違いないだろう。

 あの姿勢の低い男が言う事から判断するに、レクはさらわれてから一言も喋っていないらしい。

 まあ、その方が賢明だろうな。

 喋ってしまったら、その価値を認めてしまう事になるし、この交渉もすぐに成立してしまうだろうから。


 もう一人の男は低姿勢の男の恐らくは交渉相手。

 そいつの手に渡ってしまったら、レクがどんな扱いを受ける事になるのか想像もしたくはない。

 早く、助けてあげないとな……。


 僕はそっと茂みと茂みを使って隠れながら移動をし、レクに少しずつ近付いていく。



「ほらっ、早く何か話さないと、一緒にいた女もここに連れてきて売り渡しちまうぞ!?」

「………………」

「黙れ」

「……っへ? おやっさん、今なんて?」

「黙れと言っている! 目障りだ!」



 交渉相手の男がそう怒鳴ると、途端に低姿勢男の体が足下から発生した大量のツタにがんじがらめにされる事になった!?

 そのいきなりの行動には、レクも驚きの表情を浮かべている。



「お、おやっ……さん……なん、で……」

「喋るつもりがないのなら喋らせればいい。おい、お前、喋れるんだろ? 黙り込んでも無駄だぞ?」

「………………」

「ああ、そうかい。そっちがそのつもりなら、こちらにだって考えってモンがあるんだ。アラクネ……殺れ」



 交渉相手の男がそう言うと、僕がいる地面の辺りが少しぐらついた。

 あの男、僕達の事に気付いてる!



「させねーよ!」



 突然ヴァルドの声がどこかから聞こえてきた。


 交渉相手の男は恐らく、アラクネに僕達を殺すように指示をした。

 だが、そうはならなかった。



 ギィ……ギィアアァァァ!?



「アラクネ、おい、何してんだよ、おいっ!?」



 自身の企みが実行できず、狼狽える交渉相手の男。

 そもそも何が起こっているのか分からずに戸惑う低姿勢の男。

 先程のヴァルドの声とアラクネの悲鳴から判断して、きっとヴァルドがアラクネを倒したんだろうな。

 さて、僕達はそろそろ出るとしますか。


 僕達は茂みから出て、一気にレクのもとへと駆け寄る!



「アーク!? それにラスにゴン!? どうしてここに来たんだニャ!?」

「ほら、結局喋れるんじゃねえかよ!」



 僕達がレクを手に取ろうとした時、交渉相手の男は持っているムチを使ってレクを取り上げる。

 なんてリーチの長いムチなんだ。

 ここまでは届かないと思っていたのに!



「フン、残念だったな。そう簡単に渡すつもりはねえよ? 何の小細工をしたか分からんが、俺のアラクネを一体駄目にしやがって! その対価は高くつくぞ!?」



 そう怒鳴って僕を睨みつけてくる交渉相手の男。

 そういえばこの男、どこかで見たような……。

 あっ、もしかして、ディーラスじゃないか!?



 ディーラス。

 魔物使いでは知らぬ者はいない、超有名人。

 Aランクの魔物使いで、その実力は僕の父親に並ぶ。

 豊富なカリスマ力を持ち、森のあらゆる魔物を支配していたり、自らに刃向かう者に対する容赦のなさとその傍若無人な振る舞い、そしてそれが許される程の圧倒的な力を持つ事から皇帝とも呼ばれている人だ。

 本でその特徴を読んだ時から気に入らない性格をしているとは思ってはいたが、まさか悪事にまで染めているとは!



「ディーラスさん、ですよね……? あなたのような有名人がどうしてこんな悪事を……!?」

「……悪事だって? はぁ? 俺は何もしてねーぜ? 俺はただ喋るケットシーを売りたいって奴の相手をしていただけだ。つまり俺は何も悪くねぇ」

「事情を知らなかったという事ですか。なら話しますけど、そのケットシーは僕の仲間の子の従魔なんです。つまり盗まれた魔物なんです。ですから返してはもらえませんか!?」

「はっ、そんな事知った事か。俺は何も聞いてねぇ。このケットシーは野生の魔物。かつては誰かに従っていようと、今は誰の手にも属さないただの野生の魔物に違いない」

「そんなの身勝手すぎますよ!?」

「黙れ! ここは俺の森だ。つまりこの森に入った以上、ただで帰れるとは思うなよ? 俺に恥かかせた分、しっかりと罪を償ってもらうから、覚悟しておけよ、ヒヨッ子風情が!」



 ディーラスは指を鳴らす。

 すると森のある地点から多数の棘みたいなものが飛んできた!


 しかし、その棘の進行方向に立ちはだかったヴァルドが翼によって暴風を巻き起こし、棘を寄せ付けない!



「……チッ、いきなり暴風かよ! どうなってやがる!? まあ、いい、次だ!」



 ディーラスは再び指を鳴らす。

 すると今度は別の方向から大量の棘が!

 さすがのヴァルドも二方向からの攻撃を防ぐ事はできない!



「ラス、檻をお願い!」

「うん、まかせてー」



 ラスは僕とゴンを入れた状態で、檻を作る。

 そしてこちらに向かってきた棘を全て弾き返していく!



「つ、つらいよおー」



 ラスは棘を弾き飛ばしてはいるが、一撃を食らうごとにみるみるうちに体が削られていっている。

 あの棘は恐らくだが、アラクネが出している棘だ。

 Aランク魔物の攻撃とあれば、いくらラスでも長く耐え続ける事なんて不可能だろう。

 むしろここまで耐えているのが驚異的な位だ。

 このままじゃそう遠くないうちに檻を維持できなくなる。

 何か良い手は……。



「す、スライムがアラクネの攻撃に耐えているだとっ!? ありえねえ、ありえねえ、ありえねえ!? おい、一体どうなってやがる!? 何の細工をしたんだ、貴様!?」



 ラスが棘を防いでいる現状を理解できずに混乱しているディーラス。

 まあ、どんな魔物からも蹂躙される最弱の魔物であるスライムが、最強ランクの魔物の攻撃を耐えているんだもんね。

 それは驚くのも無理はないだろうな。


 ディーラスが混乱したからか、アラクネの攻撃が一旦止まった。

 その隙に僕はバッグから薬草や回復瓶を取り出し、ラスに薬草や回復瓶の中身を取り込ませ、ラスの体力を回復させる。

 さて、これでちょっとは息を吹き返したか。


 少し落ち着いたおかげで、対抗策も一つ思いつく事ができた。



「ゴン、先程の棘の動き、目で追う事ができた?」

「…………ぎりぎり」

「うん、なら問題ないね。それじゃ、今から少し速度の落ちた棘を撃ち落としてほしいんだけど、任せてもいいかな」

「…………問題ない」



 ゴンはやる気十分のようだ。

 さて、もう少しあがかせてもらうとしますかね!

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