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24.ヴァルドの姿になってみました

 調合屋から出てきた僕達は、アツメル総合店の近くまで行き、テイニーと合流する。



「ごめん、待たせたね、テイニー」

「いえ、いいんです。そういえばこれからどうしますか? まだちょっとだけ時間があるようですけれど……?」



 一応今日やるべき事はやり終えたが、日没まではあと数時間ある。

 次の町に向かうには残された時間が少なすぎるし、正直微妙な時間だ。

 さて、どうしようかな?



「ギルドの依頼を受けるにも微妙な時間だよね……」

「そうですよね。それでは今日の所はもうこれで解散ということでしょうか?」

「……いや、出来ればちょっとだけ時間をもらってもいいかな? メル、この近くで人目につかない場所ってある?」

「なるほどな。アークはん、あれを使うつもりなんか。ええよ、ウチに心当たりがある。ついてきてや」



 メルはそう言ってどこかへ歩き出した。

 テイニーとレクは事情が分からない様子で困惑しているようだ。

 まあ、二人にはこの後で話そうか。

 ここじゃ人目につくからね。


 メルにしばらくついていくと、町を出て、南西方向へと向かう事になった。

 そしてしばらく歩くとメルは立ち止まる。



「うん、この辺りなら人目につかへんやろ」

「メル、この辺りって……」

「そうや。ウチとアークはんが初めて出会った場所であり、戦った場所でもある所やな」



 僕達が今いる場所は、フィラミルからレクレスに向かう通路にあたる場所だ。

 つまり、この辺りには弱いスライムとゴブリンしか生息していない。

 ちなみにフィラミルには魔物使いギルドがないので、フィラミルからレクレスに向かうような人はあまりおらず、その逆もまた然りだ。

 町から出る人は魔物使いがほとんどで、そんな魔物使いはギルドの依頼を受けて生活している人がほとんどだ。

 ギルドがなく、依頼を受けられないフィラミルに向かうだけのこの道を人が通る事はほとんどなく、故にここは人目につかない場所とも言えるだろう。



「ヴァルド、この周囲に人はいないよね?」

「……ああ、空から見た感じ見当たらない。心配しなくて良さそうだぞ」



 ヴァルドに空を飛んで見てもらった感じでも、人の姿は見当たらない。

 なら、この場所で大丈夫そうだね。


 僕はリュックをおろして、先程カオリさんからもらった緑色の瓶を取り出す。



「アーク、何をしようとしているんだニャ?」

「あっ、うん……。実はさっき調合のお店の人にもらったものがあってね。それを使うと一時的に魔物の姿に変えられるみたいなんだ。それを試しに使ってみようかと思って」

「魔物の姿に変えられる、ですか? でもそれを使って一体何を……?」



 不思議そうな顔をするテイニーとレク。

 対してニヤニヤと笑みを浮かべるメル。



「魔物変化の薬。これを使った場合、明確なイメージさえ浮かべる事が出来れば、どんな魔物の姿にも変えられる。まあ、人間の姿に変えようとしたり、魔物であっても曖昧なイメージしか出来ない場合は失敗するんだけどね」

「明確なイメージさえ出来ればどんな魔物にも変えられる……って事はまさか!?」

「うん。僕はこれからヴァルドの姿になってみようと思う。だけど、いきなりそんな姿を人がいる所で見せたらパニックになるよね? だから人目のつかない所まで来たって事さ」



 明確なイメージさえ出来れば、どんな魔物の姿にだってなる事が出来る。

 それはつまり、ヴァルドの姿になる事だって可能だという事だ。

 ここにいるみんなにはヴァルドの事を分かってもらえたとはいえ、実際に目で見て確認した訳ではないから、いまいち実感が湧かないと思うんだよね。

 だからこの薬を使ってヴァルドの姿を見せてあげようかと思ったんだ。


 まあ、多分その姿になったら全く身動きがとれなくなるんだろうけどね。



「なかなか面白い試みだニャ。それはつまり、魔王様の姿を近くで見る事が出来るという事だニャ!?」

「うん、そういう事になるね。ヴァルド、そういう訳だから協力してもらってもいい?」

「……面白い。つまりはアークが俺様になってみるという事だよな? もちろん構わないぞ。やってみせろ」



 そう言うとヴァルドは僕の目の前に立ってふんぞり返る。

 うん、目の前にいてくれれば嫌でも目につくし、簡単にイメージが出来て助かるよ。

 正直見たままの姿になればいいだけだから、イメージも何もないんだけど。


 ……さて、それじゃやってみますか。



「みんな、ちょっとの間、こっちを見ないでもらってもいい?」



 こくんとうなづくみんな。

 みんなが見ていない事を確認してから、僕は着ている服を脱いでおく。

 体の大きさが変わるんだから、服を着たまま薬を使ったら服が使い物にならなくなるのは容易に想像がつくよね。


 僕はそれからヴァルドのイメージを固める。

 それから緑色の瓶の蓋を開け、その中身を一気に飲み干す。


 すると瓶の中身を飲み干した瞬間から、僕の体に変化が。

 自分の体の感覚が段々となくなり、体がみるみる大きくなっていく様子が目に見える。


 そして数分後――



「……うむ。なかなか上手く俺様を表現出来ているじゃねえか。合格だ、アーク」



 そうヴァルドが言った時には、僕の目線はヴァルドの目と同じ高さにあった。

 目線を動かした感じだと、僕の体だと思われる部分には黒い鱗に覆われた部分が見える。

 その事からして多分、僕は変身に成功したんだと思う。


 ただここで問題が。

 目線は何とか動かせるのだが、顔は全く動かせないのだ。

 だから顔を動かして自身の姿を確認するという事すら出来ない。


 ……あれっ?

 これって声も出せないんじゃ……?



 テイニー達はまだこちらの方を見ていない。

 だから声をかける必要があるのだが、そもそも声帯も体の一部だし、うまく使えるのかどうか分からないという根本的な問題に突き当たった僕。

 まあ悩んでいても仕方ない。

 とりあえずやってみるしかないだろう。



「ミ……ンナ……オワ……タ……」



 うわっ、何とか声は出せたけど、酷い声だ。

 しかもミンナオワタって何だよ。

 「みんな、終わったよ」って言おうとしたのに。

 声はかすれている上に途切れ途切れになってるしさ……。


 ただ、その声はしっかりとみんなに届いたようで、テイニー達はこちらの方を見始める。



「……す、すごい迫力……です……!?」

「ひゃぁぁ、やっぱり半端ないのニャ、魔王様は!?」

「これはホンマに驚いたな。こんなど迫力なもんなんかいな、ヴァルドはんというのは!?」



 どうやら上手くヴァルドの姿を伝える事が出来たらしい。

 その姿を自分でも確認できれば良かったんだけどなぁ……。


 それからしばらく経つと、薬の効果が切れたようで、僕は元の姿に戻る。

 そして服をまた着てからみんなに話しかける事に。



「みんな、お待たせ」

「……もうええみたいやな。はぁ……ホンマにど迫力やったな、ヴァルドはん! アークはんはいつもあんな姿をこの目で見とるんか!? ビビらへんのか、あんさん!?」

「うーん、まあ確かに迫力ある姿だとは思うけど、さすがに毎日見ていたら慣れるというか……」

「そうですよね。毎日見ていれば、さすがに慣れますよね。でも、初めて見た時はどうだったんです? やっぱり怖かったんですか?」

「うーん、そうだなぁ……。正直ヴァルドの存在自体に現実味がなかったから、恐怖とかそんなんじゃなかったな。あの時は精神的にも弱っていたから余計にね」



 自分がこれから何をすればいいのか?

 そう途方に暮れていた時だったから、自暴自棄になっている感じもあったし、ヴァルドが怖いっていう認識はなかったな。

 まるで夢をみているような感じだったしさ。



「でも、こんな強い魔王様が同行してくれるって凄く心強いニャ! これならどんなに強い魔物が襲ってきても安心だニャ!」

「そうだね。ただ、ヴァルドは基本的に加減が出来ない。単純にヴァルドが力を振るえばいいって問題じゃない時もあるだろうから、僕達も自力をつけないとね」

「そやな。これからする旅はその為の旅や。ヴァルドはんにはウチらの守り神として見守る事だけしてくれれば良いように、ウチらは自分達で頑張らなあかんな!」

「ええ、そうです。わたし、一生懸命頑張ります! 頑張りましょうね、レク?」

「も、もちろんだニャ。決して、魔王様の力をアテにしてサボろうとしていた訳ではないニャ! ご、誤解しないで欲しいんだニャ!?」



 そう慌てたように言うレク。

 あっ……きっとレクはサボろうとしていたんだな。

 そんな事誰も聞いていないのに、自ら墓穴を掘っていってどうするんだか。

 まあ、別に強い人に頼ろうとする気持ちは理解出来なくもないし、容易に責められないんだけど。



「さて、明日の出発は朝早くになるんやろ? なら、今日の所は早めに帰って明日に備えた方がええんやないか?」

「うん、そうだね。みんな、早速町に戻ろうか?」



 僕の声にこくんとうなづくみんな。

 という事なので、僕達は町に戻る事にした。





 町に戻り、みんなと別れ、僕は宿屋にある自分の部屋へと入って寝っ転がる。


 ……いてて。

 どうやら先程の薬の影響で体が痛むようだ。

 流石にあれほどの体の変化があって、何も体にダメージがない訳はないよね。



「先程の変身、見事だったぞ、アーク」



 寝っ転がっている僕に対し、外から話しかけてくるヴァルド。



「そりゃどうも。その代わり今は全身筋肉痛みたいだけどね」

「フッ、情けないな。アークは所詮その程度の人間か」

「その程度って……そりゃあヴァルドに敵う人間なんている訳ないじゃないか。人間どころか、どんな魔物だってヴァルドには敵わない。だからこそ数十年も魔王をやっていたんだろう? ヴァルドは?」

「まあそうなんだけどな。だけど何となくだが、俺様の姿になったアークとなら面白い戦いが出来そうだと一瞬思ったのさ」

「面白い戦いって……戦いどころか日常生活すらまともに送れなさそうだったけど、あの姿じゃ!?」

「だから冗談だって。本気にするなよ? そんな事を思う訳ないだろ、あんな置物を見ただけではな」



 置物……。

 確かにそれはそうなんだけど。

 もうちょっと言い方っていうものがあると思うんだけどな。

 まあヴァルドにそんな気遣いを求めても無駄か。

 そういう所には鈍感だもんね、ヴァルドって。

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