23.調合屋の店員は不思議な雰囲気を持っているようです
メルと一緒にとある建物に入っていく僕。
すると建物の中からはスッと穏やかな気分になる爽やかな香りが広がっていた。
「メル、この香りって……?」
「気付きよったか。この香りは調合で作られた道具によって出しているものやで。確か”渓流のせせらぎ”みたいな名前の道具やったかな?」
渓流のせせらぎか。
全然香りとは全く関係なさそうな名前だけど、でも確かにそういう自然の中にいるかのような気分になるかもしれない。
こういう感じを再現できるなんて、調合の技術はスゴいんだな……。
「……あらっ、メルさん。まだ頼まれているものは出来てませんよ。もう少しお待ち下さいね」
店の奥の方にいた店員らしき女性がメルを見ると、微笑みながらそう言っていた。
「そんな事は分かっとるって。ちょっと先程話した少年を連れてきただけや」
「そのお方がメルさんのお気に入りなのですね。なるほど……」
店員はそう言うと、僕の近くにやってきて、じっと僕の事を見つめてきた。
な、何をしているんだ、この人は?
「このお方からとても良い香りがしますね。メルさんが気に入るのも分かる気がします」
「せやろ? ウチは人を見る目には自信があるねん!」
ふふんと自慢気な様子を見せるメル。
そしてフフフと微笑まし気な様子を見せる店員。
「あっ、そういえばアークはん、まだ紹介してなかったな。この人はカオリはんや。その名の通り、香りのスペシャリストであるだけでなく、調合全般、この人に任せとけば何とかなる程すごいお方や!」
「こんにちは、僕はアークと申します。どうぞよろしくお願いします」
「私はカオリと申します。以後よろしくお願い致します。まだお若いのに、随分としっかりとしていらっしゃるんですね」
……若い?
あっ、確かにカオリさんって僕よりもだいぶ年上なように見えなくもない。
おしとやかで落ち着いた雰囲気のお姉さんっていうか……。
「そんな事ないです。結構みんなに迷惑かける事もありますし……」
「ふふっ、そんな控えめな所も私好きですよ? 魔物さんも大事に育てていらっしゃるようですし」
そう言ったカオリさんはラスとゴンに近付いて、二人をなでなでしていた。
なでられた二人はとても嬉しそうだ。
「まあ魔物使いですからね」
「魔物使いさんには魔物をないがしろにしている人が多いんですよ。ですけどアークさんはそうでない事がこの子達を見ていると感じられます。この子達からとても良い香りがしますし、アークさんを慕ってる様子が感じられますから」
「カオリはんはな、立場上、多くの魔物使いと接する事があるねん。それだけ人や魔物を見る目には長けているんや。気に入られたようで良かったな、アークはん!」
なるほどね。
薬草など、比較的安価で、直接手に入るようなものは普通の店で買う事ができる。
だけど回復効果の高いものだと、調合の技術は必須で、それ故、戦いが避けられない人達は調合のお店にはよくお世話になるのだ。
それは魔物使いでも例外ではない。
だからこそ調合屋であるカオリさんは多くの魔物使いと接してきているんだろうな。
僕はお金の都合上、そういう物をまだ買ってなかったけど。
「そういえばアークはん、せっかくやし、何か道具を買っていったらどうや? カオリはんが調合した物はどれも一級品や。なかなかこんなに高品質なものは買えへんで?」
「……そうだね。少しお金に余裕がある事だし、買っていく事にするよ」
「ふふっ、お買い上げありがとうございます」
「その代わり、何かまけてや、カオリはん? ウチに紹介してもらった紹介料は安くないで?」
「まあ、相変わらずですね、メルさん。良いですよ。少しお安くしておきますので、ごゆっくりご覧下さい」
僕はお店のものをゆっくりと眺める。
そして必要になりそうなものをいくつか購入する事にした。
この店の物には何故か値札が付いていないようだったけど、果たしてお金は足りるだろうか?
「合計で3000Fになります」
「おや、随分とまけてくれるんやな、カオリはん? これ位買ったら倍以上してもおかしくあらへんのに? 言い出したウチが言うのもなんやけど、大丈夫なんか?」
「それだけ気に入ったという事ですよ。良い子にはやっぱり良い事があってほしいですし。それにその分、悪い子からはたくさんもらう事にしてますから、心配なされないで下さい」
そう優しく微笑むカオリさん。
なんか今、カオリさんの闇を垣間見たような気がするのは気のせいだろうか?
このおしとやかな感じで30000Fになりますとかしれっと言う事もあるんだろうなぁ……。
僕が3000Fを支払うと、カオリさんは僕のリュックに品物をつめてくれた。
そしてそのリュックに僕が買った覚えのない瓶みたいなものをカオリさんが二つ入れていた様子が見える。
「あっ、カオリさん、その緑色の瓶は買った覚えがないですよ?」
「あらっ、そうでしたっけ? それなら、これらはアークさんにサービスしておきます。これ、魔物さんの気持ちを理解するのに役立つ面白い道具ですから。きっと魔物さんと仲良くしているアークさんならうまく活用できるはずですよ?」
そう言ったカオリさんは微笑みながら、その瓶も一緒に入れた状態でリュックをそのまま渡してくる。
どんな道具か分からないけど、せっかくの好意なのでお言葉に甘えてもらっておくことに。
「カオリはん、随分と珍しいものをくれはるんやな」
「ふふっ、そうですね。何となく、アークさんならこれを役立てられる気がしたんです」
「役立てる、なぁ……。でもこの道具、そんなに役立つ要素あったかいな? ……ああ、あれに使えるかもしれん!」
そう言って納得した様子を見せるメル。
一人で納得してないで説明してほしいんだけど。
「メル、その道具ってどういうものなの?」
「ああ、それはな。自分の姿を一時的に魔物そっくりに変える事ができる代物やねん」
「姿を魔物そっくりに変える……?」
「せや。それだけでなく、変えた後の体は本物の魔物の体と同等の性能を持つんよ。つまりは翼がついている魔物になれば、空を飛ぶ事もできるんやで」
……そういえば、僕も本でちょっと読んだ事がある。
姿を魔物そっくりに変える道具。
確かその名前は魔物変化の薬というものだったか。
メルの言う通り、この薬を使えば自分の体は魔物の体に変わり、本物の魔物と同性能の体を操る事ができる代物だ。
ただ、これには欠点があって……。
「姿を変える事ができても、戦闘力というか、素の能力自体は変わる事がない。つまりは自分の力に見合わない性能の体を持つ魔物に姿を変えると、まともに体を動かす事すらできなくなるんだよね?」
「そういう事や。せやから、戦闘で役に立つ事はほとんどないねん。この道具の主な用途としては、空を飛べる弱い魔物に姿を変えて、空の旅を楽しむっていうものやからな」
そう、戦闘ではまともに使えないのだ。
まあ大抵の魔物の体は人間よりも相当強力なものであるからして、よほど弱い魔物の体に変化しないと自由に体を動かせなくなるだろうな。
どんなに強い体に変化した所で、全くその体を動かせなければ、ただの置物だし、全く意味がない。
だから魔物変化の薬はその効果が面白い割には実用性に乏しい事から、そんなにメジャーな道具ではないのだ。
むしろ作成が難しく、値段も張る事からして、持っている人の方が珍しい、相当マイナーな道具と言ってもいい。
「ただこれはすごく高いんやで? 確か一つ100000Fはしたよな、カオリはん?」
「そうですね。ただその分、日持ちがしますし、だいぶ頑丈な瓶に入っています。ですから長期間保管しておいても効果の保証はできますよ?」
「一つ100000Fという事は、二つで200000Fもすると言う事じゃないですか!? いいんですか、こんなものをもらって!?」
「気にしないで下さい。何しろそれは余りも……いえ、なんでもないです。なかなかこの道具を活かせるお方が現れなかったので、この道具も悲しんでいましたから。きっと持ち主が現れて喜んでいますよ、その子達」
そう言って微笑むカオリさん。
なんだろう、貴重な物のはずなのにこの余り物を押し付けられた感……。
思わずその言葉がカオリさんの口から出かかっていたし……。
まあ、貴重な物には違いないし、用途はともかく、持っていて損はないだろう。
それに、一つはあの事に使えそうな気もするからね。
「ありがとうございます、カオリさん」
「いえ、喜んでいただけたようで何よりです。……あっ、そろそろ混ぜないといけない時間ですね。アークさん、メルさん、もう少しで頼まれていた物ができますから、ちょっとだけお待ち下さいね」
カオリさんはそう言うと店の奥の方へと引っ込んでいった。
カオリさんって親切で優しい人だけど、何か少し黒いものを感じるよね……。
とても不思議な人だ。
それから数分ほど待っていると、カオリさんが表に出てきて、多くの瓶を持って来た。
メルが代金を払った後、僕がそれらを受け取る事に。
何回も使う事を想定してか、複数回分のものをメルは注文してくれていたようだ。
「それではカオリはん、これにて失礼するでー」
「ええ、またお待ちしておりますよ。アークさんもお元気で」
「はい、カオリさんこそ。今日は色々とありがとうございました!」
こうして用事を済ませた僕はカオリさんに感謝の言葉を伝え、メルと一緒にテイニーが待っている所まで戻る事にした。




