16.ヴァルドの力を見てみました
Aランク魔物、ジャイアント。
本で読んで特徴だけは知っていたけど、まさかこんな所で遭遇する事になるなんて。
体長は軽く10メートルは凌駕するであろうその巨体は、移動しただけでも大きな被害を及ぼす事は容易に想像がつく。
そんな奴が破壊を意識して行動した事を考えると恐ろしすぎる。
メルによれば、このジャイアントは封印されていたという事だが、僕達はこのジャイアントを再封印する術を持たない。
だけどこのまま野放しにしていたら、確実にこの周辺には甚大な被害が出るだろう。
となれば、僕達がやるべき事は決まっている。
「ヴァルド、そのジャイアントを倒して! できるだけ周辺に被害が出ないように!」
「ああ、了解だ! だがこれ程の奴を倒すとなれば、多少の被害は避けられないだろうが、構わないか!?」
「うん、最優先なのはジャイアントの撃破だから! 被害に関してはできるだけ抑えてくれたら嬉しいというだけだよ!」
「ふっ、久々にそれなりの奴と戦えそうで腕がなるぜ。まあ、三分で終わらせる! それまでそこでおとなしく待ってろよ!」
ヴァルドはそう言うと、ジャイアントの方を見据える。
ヴァルドも大きな体をしてはいるが、ジャイアントの体はその一回りも二回りも大きい。
ただヴァルドはそんな巨体相手でも全く臆するどころか、むしろ笑みを浮かべていた。
「それじゃ早速いくぜっ! ダークテイル!」
ヴァルドは尻尾に黒いオーラのようなものをまとわせ、そしてその尻尾でジャイアントをなぎ払った。
するとジャイアントは吹っ飛ばされて、地に伏せる。
倒れ込んだジャイアントは何が起きているのか分からず混乱しているようで、しばらく起き上がる事が出来なかった。
そしてそんな隙をヴァルドが見逃すはずもなく。
「隙だらけだ! フレアクロー!」
炎をまとったヴァルドの鉤爪はジャイアントにクリーンヒットし、ジャイアントはその場からさらに吹き飛ばされた。
このような形でヴァルドの怒涛の攻撃が続き、数分後、ジャイアントは為す術なく息絶える事になった。
……素で強いのに、さらにその相手の姿が見えないとなれば、そりゃあ対処のしようもないよね。
この一部始終を見ていたテイニー達は終始ぽかんと口を開けたままだった。
そして戦いが終わってメルがつぶやく。
「ま、魔王って半端ない存在やな……」
結局Aランク魔物のジャイアントが叩きのめされる一部始終を見ていた事もあって、テイニー達はヴァルドの存在を確信したようだった。
そして戦いが終わると同時にテイニーは座り込んで、その場でブルブル震えだした。
「えっ、えっと……わたし、何すればいいんでしょう? わたし、まだ生きたいです……」
「えっ、いや、いつも通りにしてくれていいんじゃないかな? だってほら、ヴァルドは今までだってずっと僕達の近くにいたんだよ?」
「そ、そういう事になりますよね……。わたし、怒らせるような事、言ってないでしょうか……?」
そう言って辺りをキョロキョロ見渡すテイニー。
きっと何か怒らせる事を言ったら自分の命はないという事を意識しているんだろう。
確かによくよく考えれば、ヴァルドは僕達全員を皆殺しにするだけの力を持っているんだよなぁ。
あまり考えた事なかったけど。
「大丈夫や、テイニーはん。ウチらはヴァルドはんが近くにおる事すら知らなかったし、悪口を言いようもないやろ?」
「あっ、確かに……」
「むしろ気をつけないといかんのはこれからや。おると分かっているのに悪口を言ったらどうなるか保証はできへんでー?」
「ひっ、ひぃぃ!?」
「メル、テイニーをこれ以上怖がらせるのはやめてくれニャ!」
「ああ、すまへんな。ついからかってみたくなってしもたんや。堪忍してな? まあ、実際そんな心配する必要はあらへんやろ。ずっと近くにおるということはウチらとアークはんの関係は分かっておるやろうし」
「うん、そうだよ。ヴァルドはそういう関係を理解しているし、多少イラつく事があっても、そんな感情的に誰かを殺すなんて事はしない。少なくとも今まで僕が見てきた感じだとそうだった」
ヴァルドは何か力を振るう時は僕に大体聞いてきたりするし、勝手に力を振るう事はなかった。
これからもそういう事がないと断言はできないけど、でも信じる事ができなければ、そもそも僕はこうやって魔物使いとして旅に出る事もできなかったし。
だから僕はヴァルドの事を信じてる。
もちろんテイニー達、他の人にも信じてもらう事を強制はできないんだけど。
「……アークさんがそう言うなら、きっと大丈夫なんでしょうね。すいません、だいぶ落ち着いてきました」
そう言うとふらふらとしながらもゆっくりと立ち上がるテイニー。
そんなテイニーをレクが支える。
「安心するニャ。いざとなったらテイニーの事はこのレクが責任を持って守るからニャ!」
「レク……ありがとうこざいます。わたし、レクのおかげで元気が出てきました!」
テイニーはそう言って笑みを浮かべる。
その表情からは強張りが消えていた。
「それより心配なのはウチの方や。ヴァルドはんは魔法使いによって呪いをかけられたんやろ? なら、同じ魔法使いであるウチも恨まれてもおかしくあらへん。ていうかウチ、よく今まで生きておったよな」
「確かに言われてみればそうだね。そこの所はどうなの、ヴァルド?」
人間の魔法使いがヴァルドに呪いをかけて、酷い目に合わせた。
ならばこんな目にあわせた、人間の魔法使い全員を皆殺しにしてやるとか言ってもおかしくはないよね。
魔王なら尚更さ。
そこの所はどうなんだろう?
「ハッ、そんな事は気にしてねーよ。そもそも呪いをかけた張本人をこの手で仕留めたんだ。ならそれ以外の魔法使いを殺める意味はねえ。そこまで俺様は分別がない訳じゃねえよ」
なるほどね。
ヴァルドには人間に対して大きな恨みを持っている様子は見られなかった。
それは、ヴァルドが敵視しているのは既に殺した魔法使いのみであり、他の人間や魔法使いを恨みの対象として見ていないからなんだろうな。
そのような分別をつけているとは、なかなか恐れ入るね……。
僕はその内容をメルに伝えた。
するとメルもほっと胸をなで下ろし、安心した様子だった。
そしてヴァルドの事を仲間だと受け入れたみんなは――
「魔王ヴァルドさん。ちょっとドジなわたしですけど、精一杯頑張りますので、どうぞよろしくお願いします!」
「あっし、魔王様の足下にも及ばなニャいけど、精一杯頑張るから、よろしく頼むニャ!」
「ヴァルドはん、ウチもアークはんと協力して呪いの手掛かり見つけたる。大船に乗った気で待っていてくれな!」
「ばるどー、よろしくー」
どこにいるか分からないヴァルドに向かってみんながそう口々に言う。
そっちの方向にヴァルドはいないんだけどなぁ……
ただ言葉を聞いてきたヴァルドは満更でもなさそうで、その表情には笑みが浮かんでいた。
そして――
「ふっ、俺様に挨拶とは良い度胸してんじゃねえか。でも悪くはねえな」
そうつぶやくとヴァルドは空に飛び立ち、しばらく空を飛んでいた。
きっとだいぶ嬉しかったんだろうな、ヴァルドは。
それにしても、みんながヴァルドの事を受け入れてくれたようで良かった。
ヴァルドとの旅が欠かせない僕にとっては、ヴァルドを受け入れてもらわないと一緒に旅ができなくなってしまうからね。
「でもそういえば、アークはんは大きさを変える道具をそのヴァルドはんに使う予定なんやろ? 魔王であるヴァルドはんがそういう事を許すものなのかいな?」
「そうだね。実はかなり嫌がられてる。でもそうしないと洞窟を通るルートが使えないから……」
「せやな……ヴァルドはんの協力が得られるのなら、正直西の荒野ルートを通るってのもアリなんちゃうか? そのルートならヴァルドはんの大きさを縮めなくても大丈夫やろ?」
「まあ確かにそうなんだけど……でもあまりヴァルドには頼りたくないんだよね。できるだけ自分の実力で旅をしたいんだ。ヴァルドがずっといるという保証はないからさ」
ヴァルドを信じていない訳ではないが、ヴァルドがある時ふらっといなくなってしまう可能性も否定はできない。
それにもし僕達が呪いを解く手掛かりを見つけ、ヴァルドが元に戻ったら、ヴァルドはもう僕達と一緒に行動をする理由がなくなるだろう。
そうしたら、僕は結局ヴァルドに頼ることなく生きていかなければならない。
だからさっきのジャイアントの時のように、どうしようもない時以外は自分達の力で頑張りたいんだ。
「そうか。分かった。なら後でウチも説得に協力したる。正直姿も見えんし、何言っているのかも分からんけど、アークはんが通訳してくれれば会話できない事もないやろ?」
「……メル。本当にありがとう!」
僕の気持ちを汲み取ってくれたメル。
ちなみにテイニーとレクも一緒に手伝ってくれると言ってくれた。
……さて、とりあえず一段落ついた所で、やるべき事をやるとしますか!
先程の戦いの影響でゴブリン達はどこかへ逃げてしまったようだけど、ちらほらと戻ってきているものもいるみたいだし。
きっと問題ないだろう。




