問い
店員さんの目が釘付けになった。
『私たち家族六人は、これから死にます』
レジの奥で冷蔵庫が唸っていた。
店員さんは私を見た。それから、もう一度便箋に目を落とした。値札の赤いインクがついた親指で、紙の端を押さえている。
最後まで読んでほしかった。
晴も悠も菜々も、そこに書かれている。
お父さんが店員さんの手首をつかんだ。
「返してください」
店員さんは顔を上げた。
「手を離してもらえますか」
「家の手紙なんですよ」
「離してください。痛いです」
お父さんはしばらく店員さんを見ていた。
それから手を離し、今度は私の腕をつかんだ。
「帰るぞ」
私は引っ張られた。足元で、さっき落とした砂が靴底に擦れた。
店員さんはまだ便箋を持っている。
「……待って」
お父さんは聞かなかった。
もう片方の手を伸ばし、便箋を取り返そうとした。
私はその腕にしがみついた。
「読んで!」
お父さんがこちらを見た。
「最後まで、読んでください!」
「やめろ!」
腕を振り払われ、棚にぶつかった。菓子の袋が床に落ち、乾いた音を立てた。
店員さんは便箋を持ったまま、レジの内側へ下がった。お父さんとの間にカウンターが入った。
「……これ、誰が書いたんですか」
「だから、娘が勝手に」
店員さんはお父さんを見なかった。
「お嬢ちゃん。この手紙、お父さんが書いたの?」
私は頷いた。
「どこにあったの?」
「車の中。今日、見つけたの」
店員さんが紙に目を落とした。
少し下まで読み進めたところで、指が止まった。
「……子どもたちは何も知らない、って」
お父さんがカウンターに手をついた。
「娘が少し混乱してるんです。家庭のことですから、返していただけませんか」
店員さんは顔を上げた。
「この子たちの名前も書いてありますね」
「それが何ですか」
「この子が、自分の名前の書かれた手紙を持って、わざわざここまで来たんですよ」
お父さんは答えなかった。
店員さんは便箋を折り畳んだ。赤いインクのついた親指が、折り目を強く押さえた。
「娘の言うことを、何でも信じるんですか」
「わかりません」
店員さんの声は低かった。
「だから、お嬢ちゃんの話を聞かせてください」
お父さんが私の腕を握り直した。
「もう十分でしょう。娘は怪我もしてるんですよ。早く帰してやりたいんです」
「その怪我ですけど」
店員さんは私の膝を見た。
「この子、血を流して店に来たんです」
「トイレで転んだんですよ」
「そうおっしゃったのは、お父さんですよね」
お父さんの口が閉じた。
店員さんは私に目を向けた。
私は何も言えなかった。
「ほら、怖がってるじゃないですか」
お父さんが言った。
「知らない人にこんなこと聞かれたら、子どもだって困りますよ」
店員さんは、今度は頷かなかった。
「だったら、少し離れてあげられませんか」
「どうしてですか」
「お父さんが答えてしまうからです」
お父さんの顔から笑みが消えた。
私は腕を引こうとした。お父さんの指が肘の内側に食い込み、動かなかった。
店員さんの視線がそこへ落ちた。
レジの横に電話がある。
店員さんは一度そちらを見た。それから、お父さんの手に目を戻した。
「お嬢ちゃん」
私は顔を上げた。
店員さんはカウンターの向こうから、私だけを見ていた。
「お父さんと帰りたい?」




