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旅のしおり  作者: 大窟凱人


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12/14

問い

 店員さんの目が釘付けになった。


『私たち家族六人は、これから死にます』


 レジの奥で冷蔵庫が唸っていた。

 店員さんは私を見た。それから、もう一度便箋に目を落とした。値札の赤いインクがついた親指で、紙の端を押さえている。

 最後まで読んでほしかった。

 晴も悠も菜々も、そこに書かれている。

 お父さんが店員さんの手首をつかんだ。


「返してください」


 店員さんは顔を上げた。


「手を離してもらえますか」


「家の手紙なんですよ」


「離してください。痛いです」


 お父さんはしばらく店員さんを見ていた。

 それから手を離し、今度は私の腕をつかんだ。


「帰るぞ」


 私は引っ張られた。足元で、さっき落とした砂が靴底に擦れた。

 店員さんはまだ便箋を持っている。


「……待って」


 お父さんは聞かなかった。

 もう片方の手を伸ばし、便箋を取り返そうとした。

 私はその腕にしがみついた。


「読んで!」


 お父さんがこちらを見た。


「最後まで、読んでください!」


「やめろ!」


 腕を振り払われ、棚にぶつかった。菓子の袋が床に落ち、乾いた音を立てた。

 店員さんは便箋を持ったまま、レジの内側へ下がった。お父さんとの間にカウンターが入った。


「……これ、誰が書いたんですか」


「だから、娘が勝手に」


 店員さんはお父さんを見なかった。


「お嬢ちゃん。この手紙、お父さんが書いたの?」


 私は頷いた。


「どこにあったの?」


「車の中。今日、見つけたの」


 店員さんが紙に目を落とした。

 少し下まで読み進めたところで、指が止まった。


「……子どもたちは何も知らない、って」


 お父さんがカウンターに手をついた。


「娘が少し混乱してるんです。家庭のことですから、返していただけませんか」


 店員さんは顔を上げた。


「この子たちの名前も書いてありますね」


「それが何ですか」


「この子が、自分の名前の書かれた手紙を持って、わざわざここまで来たんですよ」


 お父さんは答えなかった。

 店員さんは便箋を折り畳んだ。赤いインクのついた親指が、折り目を強く押さえた。


「娘の言うことを、何でも信じるんですか」


「わかりません」


 店員さんの声は低かった。


「だから、お嬢ちゃんの話を聞かせてください」


 お父さんが私の腕を握り直した。


「もう十分でしょう。娘は怪我もしてるんですよ。早く帰してやりたいんです」


「その怪我ですけど」


 店員さんは私の膝を見た。


「この子、血を流して店に来たんです」


「トイレで転んだんですよ」


「そうおっしゃったのは、お父さんですよね」


 お父さんの口が閉じた。

 店員さんは私に目を向けた。

 私は何も言えなかった。


「ほら、怖がってるじゃないですか」


 お父さんが言った。


「知らない人にこんなこと聞かれたら、子どもだって困りますよ」


 店員さんは、今度は頷かなかった。


「だったら、少し離れてあげられませんか」


「どうしてですか」


「お父さんが答えてしまうからです」


 お父さんの顔から笑みが消えた。

 私は腕を引こうとした。お父さんの指が肘の内側に食い込み、動かなかった。

 店員さんの視線がそこへ落ちた。

 レジの横に電話がある。

 店員さんは一度そちらを見た。それから、お父さんの手に目を戻した。


「お嬢ちゃん」


 私は顔を上げた。

 店員さんはカウンターの向こうから、私だけを見ていた。


「お父さんと帰りたい?」

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