気付いた時には何もかも手遅れ
友達宣言をしてからは、ココはいつも私を見つけて満面の笑みで嬉しそうに駆け寄ってきてくれるようになった。
最初はこんなキラキラした女の子と友達になれたことがとても嬉しかった。
「アンナ来て来て! この二人は私の幼馴染なの! ルイ、セナ! この子がアンナよ。私の新しいお友達!」
「へえ、薬草学の授業で仲良くなったんだ? よろしくね、アンナ。僕はセナ・ブランシェ」
「俺はルイ・ベッソン。ココが新しい友達なんて珍しいな」
「あ、アンナ・グレースです」
ココが幼馴染の二人と一緒にいる時に声をかけられ、その流れで二人を紹介された。
彼らにも「ココに親切にしてくれてありがとう」なんてお礼を言われて、あまりの嬉しさに天にも昇る気持ちだった。
友人たちにも羨ましがられ、私も「今年の運を全部使い果たしたかも」なんておどけていた。
可愛い子に懐かれて、周囲に羨ましがられて、完全に調子に乗っていた。
ココがいない時でも、ルイとセナは私と会えば挨拶をしてくれる。
彼らは本当の友人のような親しさで私に接してくる。
どうしてこんな仲良くしてくれるのか。不思議に思いながらも嬉しくて、この頃は本当に毎日が楽しくて仕方がなかった。
ココと、そして彼らと仲良くなるということがどういう意味を持つのか、私は本当に――――本当に何も分かっていなかったのだ。
ココ以外の人間を寄せ付けない彼らが、私にだけ愛想よく挨拶をしてくれる光景を見て、周囲の者がどう思うのかもっとよく考えるべきだった。
何かがおかしい、と気づいた時にはもう全てが遅かった。
ルイとセナは、ココに対しては砂糖菓子のように甘いのに、他の者には凍えるほど冷たい態度で付け入る隙がない。
会話すらしてもらえない女子たちがヤキモキしている横で、彼らが私に笑顔で挨拶をする。
この状況が何をもたらすのか、あの頃の私はどうして考えなかったんだろう。
友人たちはきっといち早く気づいていたんだ。周りが良く見えていた人たちは、きっと調子に乗っている私を見て呆れていただろう。
「悪いけど、アンナと話すなって言われているの。だからごめんね」
「え……」
ある日友人にそう告げられた。
代表して私に絶縁を告げた子と、その後ろで申し訳なさそうにしている友人たち。
ごめんねと重ねて謝られて、何も言えなかった。
権力を持つ女子たちにそう指示されれば、彼女たちは従うしかない。
私は友人たちから切り捨てられた。
ここでようやく自分が置かれている状況をはっきりと理解した。けれどこの時点でもうどうすることもできないところまで来ていた。
友人たちから絶縁されたあと、私に関する悪い噂が出回るようになった。
根も葉もない噂なのに、枯草に火がつくように学年中へ燃え広がりあっという間に私はクラス中の鼻つまみ者になってしまった。
過激な嫌がらせをしてくるのは、ルイとセナの熱烈なファンの子たち。
ココに対しては表立って嫌がらせできなかったけれど、身分も低く人望もない私には何をしてもいいと思われていたのだろう。
それまでのうっ憤を晴らすように、私への嫌がらせはどんどん悪化していった。
単なる罵倒に留まらず、足をかけられたり背中を押されたりなどの暴力を受けるようになった。
嫌がらせを主導する女生徒たちは高位貴族の令嬢がほとんどで、先生に相談しても対応してもらえない。むしろ「お前の態度が悪いと聞いている」と私が注意を受ける有様で、教師を頼るのは早々に諦めた。
そんななか、ココたちは変わらず私に話しかけてくれた。
ココだけでなくセナたちも私を見かけるとわざわざ近寄ってきて挨拶をしてくれる。だが彼らと関わるたびに、嫌がらせは悪化する。話しかけてくれるのは嬉しかったが、彼らの行動は嫌がらせを悪化させるだけだった。
――この状況から脱するには、三人と完全に縁を切らなくてはならない。
笑顔で話しかけてくれるココには申し訳ないが、そもそも地味でぱっとしないその他大勢に過ぎない私が彼らと関わるのが分不相応だったのだ。
身の程を思い知ってからは、できる限り彼らを避けて逃げ回っていた。
だが、どれだけ避けてもココのほうからわざわざ探して会いに来てくれる。ルイとセナも一緒についてくるから、余計に状況は悪くなる一方だった。
悩んだ結果、私はココに友達を辞めると告げる決断をした。
謝って、距離を置くことを許してもらおう。もう話しかけないでほしいと頼み込もう。
慕ってくれるココに対して罪悪感はあるけれど、それよりも我が身の安全を優先したかった。
……だが、ココに話をする前に、セナが私に接触してきたのだ。
「ココと友達を辞めるなんて言わないでよね」
「な、なんで、突然」
わざわざ誰も周囲にいない瞬間を狙って、セナが話しかけてきたと思ったら、私の意図を的確に言い当てられ死ぬほど驚いた。
ココに伝えようと決意して行動に移そうとした時だった。どうして私の行動が読まれたのか分からず、薄笑いを浮かべる彼がとても恐ろしくて背筋が寒くなった。
何か言い訳しようとする私を制して、セナは距離を詰めて威圧してくる。
「アンナが何を考えているか分かっているけれど、ココには何も言わないでほしいんだ。自分のせいでアンナがつらい思いをしているなんて知ったら、あの子はひどく悲しむから」
「何それ……? どういう意味?」
「現状維持でお願いってことだよアンナ。黙って飲み込んでくれればそれでいい」
彼は私が何を考えてこれから何をするつもりなのかを分かった上で、先回りして私に話をしにきたのだ。




