いい気になっていた馬鹿な自分
最初の一年目は、全員基礎学習を受け、二年目から選択科目が増えていく。
私は領地の産業に関わる薬草学と薬学を学びたかった。
ただ、選択教科は各個人の能力を判定されて学校側で振り分けられるから、希望が通るわけではない。
私は適性検査を受けて、薬草学と調薬の『才能アリ』と判定された。自分でも希望していた科目だったから嬉しかった。
選択授業の初日、教室に行くと後ろのほうの席にココ・オベールの姿があった。
ぽつんと一人きりで座っている。
いつも一緒のルイとセナは、別の教科らしく彼女の隣には誰もいなかった。
彼女がひとりの光景は珍しいなと思ったが、それ以上何も思わず私は端のほうの席に座った。
あとで知ったが、ルイとセナは二人とも騎士科で、その他の選択授業も彼女とはひとつも被っていなかったらしい。
それから選択授業のたびに、ココがひとりでいる姿を見かけた。
その光景に少し違和感を覚えたが、私も授業についていくので精いっぱいで周りを見る余裕なんてなかった。
何かがおかしいと気づいたのは、選択授業が始まって数カ月も経ったころだった。
自分の作業が終わってふと見ると、いつもココがいつもひとりだけ作業が終わらずにオロオロしている。
彼女はいつもひとりで、見かねた先生が手伝うなんてこともしょっちゅうだった。周囲の人が誰も手を貸さないのもおかしい気がした。
授業では記録を取るため二人一組でおこなうことがあるが、なぜかココは組む相手がいない。そのせいで作業が大幅に遅れているようだった。
……あんなに人気者なのに、なんで授業ではひとりきりなんだろう?
可愛いココに気後れして、誰も声をかけられずに遠巻きにされているのかなと思っていた。
だが、よくよく観察してみると、周囲の女生徒たちがわざとココを遠ざけているように見えた。
限りある器具は生徒たちで融通しあうとか、待ち時間に手を貸すなど皆が当たり前にやっているのに、助けないどころか、周囲の人がココにわざと嫌がらせをしている。
通りすがりにわざとぶつかったり、声をかけられても無視したり。
人気者の彼女がそんな扱いを受けるなんて信じられなくて、最初は何かの見間違いかとすら思った。
だが何度もそんな光景を目にしていれば疑いようもない。
当時私は知らなかった。ココはその頃一部の女子たちから陰湿な嫌がらせを受けていたのだ。
――その理由は、ココに対する嫉妬。
男子生徒に神聖視されているココだったが、女生徒たちの一部からは「幼馴染の男二人を侍らしている女王様」と言われ嫌われていたのだ。
初めて知った時は驚いた。
「あの人たちは、自分がココと同じ土俵にいると思っているんだ……すごいなあ」
私からすると、ココは雲の上の存在だったから嫉妬するような対象じゃなかったから、彼女たちとの認識の違いに驚愕した。
友人曰く、嫌がらせをしているのは、ルイとセナとお近づきになりたい女生徒たちらしい。
ルイとセナもまた生徒たちから絶大な人気を得ていて、彼らと仲良くなりたいと願う女の子はたくさんいた。
ココに対しては、憧れの男子二人を侍らせている女王様気取りの女……と一部の女生徒たちからヘイトを向けられていたのだ。
普段は幼馴染二人ががっちり守っているから、ココに手出しできない。
だから選択授業でココがひとりになる機会を狙って、ここぞとばかりに嫌がらせをしているんだと友人たちは教えてくれた。
だからこの選択授業でココはぽつんと孤立していて、協力者が得られず困っていたのか……と話を聞いてようやく状況が理解できた。
嫌がらせをしている子たちは上位貴族の子ばかりで、周りの人たちも強く注意できないらしい。
美人っていうのも、色々大変なんだなあと何とも言えない気持ちになった。
そんなココと私が関わるきっかけができたのは、偶然座る席が隣り合った時のこと。
ひとりでできない作業に困っている彼女を、見るに見かねて、手を貸したのだ。
大したことをしたわけではないのに、ひとりで困っていた彼女には大げさなくらいに感謝してくれた。
手を貸す人がそれまでいなかったわけじゃないはずなのに……気づけばココは授業のたびに私を探して隣の席にくるようになってきた。
馬鹿な私は、頼ってくる彼女を無視できず授業のたびに手助けをして、いいことをした気になって調子に乗っていた。
私が手を貸したのをきっかけに、手伝いを申し出る人が他にもちらほらでてきた。
いいことをした……。
私の行動が、皆を良い方向に動かす結果になったと内心いい気になっていたんだと思う。
他の人が手を貸すようになったら、私はもうお役御免だろうとだんだんココから距離を置くようにしていたら、ココのほうから距離を詰めてくるようになった。
なぜかココは、私を見ると嬉しそうに近寄ってきて話しかけてくる。
その理由を後に訊いたことがある。
彼女が言うには、「本当に困っていて泣きそうになっていた時に、声をかけてくれた唯一の人」が私だった。だからアンナは特別な人なんだと言ってくれて、涙が出そうになった。
「あの時はアンナが天使に見えたわ」
「でも大した手助けしていないよ……」
「でもアンナは私が困っている時はいつも助けてくれるじゃない。だから私、もっとアンナと仲良くなりたい。お友達になってくれる?」
「え、わ、私と?」
彼女のほうから友達になりたいと懇願され、有頂天になった。
彼女と友達になることで何が起こるのかなんて、この時の私は何も考えていなかった。




