不穏な三人
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一ヶ月近く学校を休んでいたココが、ようやく登校していいと医者から許可が下りたと、ルイが嬉しそうに教えてくれた。
昼食を一緒に食べている時にその話をされ、翌日から登校するから一緒に行こうと言われ少し不安になった。
それでもここ最近いろんなことが上手くいっていたから、私が頑張ればココともいい関係を築いていけるんじゃないかという希望をいだいていた。
ココが元気になったのがよっぽど嬉しかったのか、ルイは目に見えて浮かれており、「朝一緒に登校するの楽しみだな!」とはしゃいでいる。この人は、本当にココが好きなんだなあと思える笑顔だった。
その顔を見て、私ももっとココの復帰を喜ばなきゃといけないと内心反省していた。
翌日、私は彼女の寮の前で待ち合わせすべく早めに部屋を出た。
約束の時間より少し早めに来たのに、寮の門の前にココたちの姿がある。
――久しぶりに会うココ。
遠くから見える彼女のシルエットは、以前より細くなった気がする。元から細い手足が、折れそうな小枝に見えて痛ましい。
「ココ、おはよう」
「あっ! アンナ! おはよう~!」
声をかけると、ココはぱあっと花が咲くように笑顔になる。
「久しぶりだね。体調は大丈夫?」
「うん、もうずいぶん前から元気になってたのに、セナがまだダメって言うから休んでただけなの。暇でしょうがなかったよー」
ニコニコと笑うココはいつもと変わらず可愛らしい。
「僕とも久しぶりだね、アンナ」
「あ、セナ……」
ココと一緒に休むことが多かったセナとも、顔を合わせるのは久しぶりだ。
「選択授業のノートありがとう。アンナのおかげで、ココの勉強が遅れないで済みそうだよ」
セナにお礼を言われて曖昧に頷く。これまでもココが選択授業の日に休んだ時はノートの写しを渡していたのに、今更お礼を言われても……とひねくれたことを考える。
「セナにお礼を言われることじゃないよ。いつもしてることだし」
私の返答にセナは作り笑顔を浮かべるだけで、それ以上何も言わなかった。
日常に戻っただけのことだが、相変わらず三人は仲睦まじく並んで歩き私は後ろから従者のようについていく。
はしゃいでいるココは二人と話が盛り上がっていて、後ろを振り向く様子もない。それをいいことに、三人から不自然にならないくらいの距離を取って歩く。
離れると、周囲の生徒はもう私の存在が見えなくなるみたいに、誰も目を向けない。
「やっぱり、ココたちと一緒にいないと見つからないんだ」
一メートル以上離れると、とたんに私は透明人間になったように誰からも注目されなくなる。
多分、ココたちが目立ちすぎるから皆そっちに目が行って、私は離れていれば皆の視界に入らないんだろう。
遠くから聞こえるように悪口を言われていた頃が嘘みたいだ。こんな簡単なことなら、もっと早く離れて歩くようにすればよかった。
ゆっくりとちょっとずつ距離を取って歩いていると、後ろからポンと肩を叩かれた。
「あれー? アンナじゃん、おはよー! お前いっつもこんな早いの?」
「おっ、おは、よう?」
誰かと思えば、コーブスだった。
朝に彼とかち合うのは初めてだ。驚いて声がひっくり返る。
「コーブス君も早いね」
「俺は朝勉強しようと思ってさ。自室だと寝落ちするし」
「試験近いしね。私も頑張らないと……」
「そーだ、こないだありがとな。やっぱあの奉仕活動参加しといて良かったよ。コースの確認ができたおかげで、俺も友達もA評価もらったし」
コーブスはぐっと親指を立てて歯を見せて笑う。
「あっ、訓練場の? ちゃんと予習になったんだ、良かったね」
「そうなんだよ。実技試験の内容とかも活動中に教えてもらえたから、もう完璧。俺の友達もめっちゃ感謝してた。そんで、他の奉仕活動の話も聞きたいって」
「どの活動かな? でも私、人気のない活動ばっかりやってるから、あんまり参考になんないかも」
「予習になるやつがいいとか贅沢言ってたけどな。俺は点数高い活動やりたい。定期考査いっつも点数低くて先生に怒られんだよ。アンナは頭良さそうだよなー。今度勉強教えてくれよ」
「私? あんまり成績良くないよ。だから奉仕活動で点数足してるんだし」
明るくて話しやすい彼につられて会話が続き、なんとなくそのまま一緒に歩いていると、少し前にいたココが立ち止まった。
「アンナ、その人誰?」
ココに呼びかけられ、ハッとして顔を上げる。三人が振り返ってこちらを見ていた。無表情で。
「あ……えっと? コーブス君のこと? 奉仕活動でよく一緒になる人だよ。そのことでちょっと話を……」
質問に答えるが、いつも微笑んでいるココが無表情のままなので、だんだん不安になって来て言葉に詰まる。
詰問するような言い方も、いつもと違って何か変だった。
気まずくなって、隣にいるコーブスに話を振る。
「えっと、コーブス君はセナとは知り合いだよね? 寮が一緒なんだっけ?」
「うん。でもクラス違うし、顔見知り程度だけどなー。でも食堂とかで一緒になったら普通に話すよ」
おはよーとコーブスはセナに向けて手を振る。
セナは口角をわずかに上げて手を振り返した。
「それよりさ、アンナってマジでココ・ブランシェさんと友達だったんだな。すげーな、羨ましい」
声をひそめてコーブスが耳打ちしてくる。
びっくりするほどかわいいな! とニコニコ笑う。
呑気そうに話しかけてくるコーブスとは対照的に、なぜかココたちは凍えるような表情でこちらを見ている。
……なんだろう、何かおかしい。
いつもと違う雰囲気に私は背筋が寒くなった。
「……コーブス君、あのさ」
「じゃあ俺先に行くわ。またなー」
何か変だと思っているのは私だけのようで、コーブスは何も気づかず軽く挨拶をして別れた。
残された私とココたちのあいだに気まずい沈黙が落ちる。
だがすぐにココがパッといつもの笑顔になって手を伸ばしてきた。
「どうしたのアンナ? ホラ、いこっ」
「う、うん」
袖を引っ張られて、私はココの斜め後ろを歩く形になる。両隣にいるルイとセナをチラリと見るが、もういつも通りで授業のことなど話している。
さっき雰囲気がおかしいと思ったのは、気のせいだったのだろうか……。
違和感を覚えつつ、私はいつもどおり彼らの後ろをついて学校までの道のりを歩いた。
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