友達
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ココの休みが続いて、昼食も私はひとりきり。
さすがに混みあうカフェテリアで食事するのはキツイので、中庭や休憩所でひっそりと過ごしていた。
先生が外国で出版されている植物学の本を貸してくれたので、それを読みながら食事をして昼休みの時間を過ごすのが、私の至福の時となっている。
先日、先生から外国の話を教えてもらってから、自国との違いがもっと知りたいと言ったら色々と本を貸してくれたのだ。
これがもう、読めば読むほど面白い。
睡眠時間を削って借りた本を一気に読んでしまったのに、面白いところを書きだしたりして繰り返し読んでいる。
外国で仕事が見つけられなくても、いつか各国を巡る旅をしてみたい。
「卒業したらお金を貯めて……ううん、就職先を探すか、もしくは」
「アンナ、こんなところにいたんだ」
「ひえっ!」
名前を呼ばれ、驚いて飛び上がってしまった。
振り返ると、ルイがいた。慌てて本を閉じ、ベンチを占領していた荷物をかき集める。
「ひとりか? ごめんな、ココは今日も休みなんだ」
「えっ、あっ、うん。ルイは学校きたんだ。セナと交代で看病しているの?」
私が訊くとルイは少し隈の浮いた目を細めて頷いた。
「ココの枕元で自習してるんだけどな。さすがに実習とか全部休むわけにいかないから」
「そうだよね。騎士科は特に実習が大事だもんね」
「あ、ここ座っていいか? 俺、昼まだなんだ」
私が頷くと、ルイが隣に腰を下ろした。荷物のせいでベンチが狭く、足が触れ合う。
彼は持っていた紙袋からパンを取り出し、大きな口を開けて食べ始めた。
「あの、ル、ルイはなんで、ここに?」
「ん? ああ、ひょっとしてアンナがココを待っているんじゃないかと思って探しにきたんだ。カフェテリアにいなかったから、なかなか見つけられなくて」
「探して……くれたんだ? ありがとう」
「いや、アンナと話したかったし。あのさ、選択授業のノート、ココに届けてくれているだろ? 授業内容を丁寧にまとめてくれてあるから、すごく助かっている。ありがとうな」
「そんなの、復習のついでにまとめただけだから」
選択授業の日にココが休んだ時は、私が授業内容をノートにまとめたものを彼女に届けている。ココとは寮の棟が違うので、先日の分も彼女の寮部屋のポストに入れておいた。それをルイが見たのだろう。
「休み時はいつもアンナが届けてくれてるって聞いてな。アンナのそういう気遣い、すごくココの励みになっているんだ」
どうしてルイがわざわざ私を探しに来たのか不思議だった。ココの代わりにお礼を言いに来てくれたのだ。
私が昼休みにひとりきりになっているのを気にしてくれたのかと、一瞬勘違いしてしまった自分が恥ずかしい。
「ノートは別に大した手間でもないから、ココにも気にしないでって言っておいて」
「アンナはいい奴だよな。相手を思いやる親切をできるし、それを誇ったり感謝を強要したりしないじゃん。俺、アンナのそういうとこ尊敬してんだ」
ルイが距離を詰めてお互いの肩が触れる。顔が赤くなっているのを見られないよう下を向いて誤魔化す。彼はぐいぐい顔を近づけてくるので変な汗が出てきた。
「どうした? そうだ、セナもアンナに感謝してたぞ。なんかお礼しなきゃなってアイツとも言ってたんだよ」
お礼と言う言葉に、セナの言葉を思い出して顔が強張る。
〝両頬にキスしてもらおうね〟
ニヤッと笑うセナの顔が見えてきそうで、慌てて首を振った。
「いいいい、いらない! お礼とかホントにやめて! ホラ、えっと、友達なんだからそういうの他人行儀な感じがして、嫌? かなあって」
あわあわしながら拒否すると、ルイはぷっと噴き出した。
「そういうとこ、アンナらしいなあ。控えめっていうか、ホラ、いつも俺らが騒がしくしてても、アンナはニコニコ笑って見守ってるじゃん。ココもアンナのこと、同い年なのにお姉さんみたいだって言ってるんだよ」
「え、私そんなにふけて見える?」
「違う違う! そうじゃなくって、この学校って自己主張強くて声がでかい奴らばっかじゃん? ココも俺らも、グイグイ来る奴らが苦手だからさ。アンナの穏やかな感じに癒されるんだよ。そこにいるだけでホッとするっていうのかな……って、アンナ?」
ルイの口からそんな言葉が出たものだから、耳まで真っ赤になっていよいよ顔があげられなくなってしまった。
「もう……恥ずかしいから、見ないで」
「え、もしかしてアンナ、照れてるのか? そんな恥ずかしがるようなことあったか?」
「ホントもう、勘弁して」
大口を開けて笑うルイにつられて私も少し笑ってしまう。
まっすぐで明るいその笑顔を見ていると、やっぱりこの人はただただ真っすぐで裏表のない性格なんじゃないかなと思えてくる。
セナがあれだけ腹黒なのに、何も気づかないならちょっとのん気すぎる気もするけど、まあセナが幼馴染たちにも完璧に隠し通している可能性もある。
「おっと、もう昼休み終わるな。ココはもうしばらく休むんだ。セナも付き添って休むから、しばらくは俺だけで申し訳ないけど、昼飯は一緒に食おうな」
「……う、あっ、いやそれはちょっと難しいかも」
勢いに押されてつい頷きそうになった。慌てて首を横に振る。
せっかく目立たなく過ごせていたのに、ルイと二人きりでいたら余計に他の人の反感を買うことになる。ココのいない隙にルイに取り入る小狡い女と言われるのがおちだ。
「私、昼食はパパっと食べて後の時間は勉強したいんだ。セナもココのためにノートまとめたりして昼休みは忙しいだろうから、無理しなくていいよ。私がひとりだと思って気遣ってくれたんだよね。ありがとね」
「気を遣ったわけじゃないよ。なんだよ、友達なんだから昼飯くらい一緒に食おうぜ」
彼の口から、『友達』という単語が出て心臓が跳ねる。
友達って、思ってくれていたんだ……。
嬉しかった。
彼らとの関係は金魚のフンから変われないと思っていたが、ルイは意外にも私をちゃんと友達枠にいれてくれていた。
「んと、じゃあお昼に会えたら一緒に食べよ。ルイも忙しいだろうしさ、無理しないで」
「そうだな。俺もいつもこの辺で食べるようにするよ」
「うん、ありがとう。じゃあ、またね」
簡単に挨拶を交わしてルイは急ぎ足で校舎のほうへ戻っていった。
ルイと二人きりでこんなに長く話したのは初めてだった。彼が思ったより私に良い印象をもってくれていたと知って、少し意外だった。
いろんな意味でまっすぐなルイは、私のことは『ココの友達』という存在でしか認識していないと思っていた。
でもルイは私も友達のひとりにカウントしてくれていた。
「セナが何をしているか……ルイが知ったらどう思うかな……」
セナのやっていることを知ったうえで容認しているかもと疑った時もあったが、やっぱりルイが裏表の顔を使い分けるなんて想像がつかない。
これまで私の現状をルイに話したことはない。もし彼が知ったら……。
さっきの彼の言葉は、友達に対する気遣いが感じられた。
もし、話せる機会があるのなら、私が皆に嫌われている事実だけでも話してみようか。
正義感の強いルイなら黙殺はしないのでは、と期待する気持ちが湧いてくる。
セナのことも含め、何もかも暴露してしまいたい。
「……いや、ダメだ」
かぶり振って馬鹿な考えを振り払う。
そもそも彼が騎士を目指す理由はココを守るためだ。
ココのためになるなら、矜持を曲げてでも目を瞑る可能性のほうが高い。
ちょっと優しい言葉をかけられたからって、調子に乗りすぎだ。彼が私を友達と思ってくれていても、頼っていいほど仲がいいわけでもない。
ルイが友達と思ってくれていると知れただけで満足だ。
先生たちに会ってから、いいことばっかりだ。
八方ふさがりだって思って絶望していた頃が嘘みたいに、今はいろんなことが良い方向に向かっていると感じる。
この時、私はいつになく前向きで全てが上手くいくような気分でいた。
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