一緒にいても孤独なら、いっそひとりになりたい
――美形の三人に、とても釣り合わない地味な女が恥ずかし気もなく彼らにくっついている。
そんな陰口を叩かれているのをココは知っているのだろうか。いや、知らないからこうしていつも私に声をかけて行動を共にしようとするのだろう。
彼女の両隣に立つ男たちは、私に対して明確な線引きをしている。
ココを囲い込むようにルイとセナがぴったり彼女の両隣を固めて歩く。
私はいつも彼らの後ろに爪弾きされるのだ。
ココの意思を尊重しているから、私を拒否しない。けれど三人の輪に受け入れることはない。
――ああ、ひとりになりたい。
ゆっくり歩く彼らの後ろを、惨めな気持ちで歩く。
いっそひとりきりなら辛くないのに。
彼らの背中を見ながら歩くこの時間が苦痛でならない。
もし関わりのない他人だったら、この美しい三人組を眺めることができるこの立ち位置は眼福でありがたいと思うに違いない。
さらりと揺れるココの後ろ髪を眺める。
美しく儚げなココ。
その右側に優美な長身のセナ。左側にたくましいルイ。
後姿でさえも美しい。三人が並ぶと本当に絵になる。
そんな彼女を幼少期からずっと守り続けてきた幼馴染であるルイとセナ。彼らの存在そのものが、まるで物語の主人公のようだ。
彼らはきっと神々の寵愛を受けてこの世に生まれてきたのだ。
圧倒的な主人公感。彼らのそばにいると、いつも私は観客になる。
もしかしたらこの世界は、彼らのために作られたのかも。
恋愛小説なら、ピッタリの舞台だ。
彼らはあまりにも完璧すぎて現実味がなくなるから、本当にここが戯曲の世界なんじゃないかと錯覚してしまう。
ココがヒロインで、彼女を愛する幼馴染たち。複雑な恋模様を描く物語の世界だとすると、私はただの群衆。
登場人物紹介で名前も与えられてなくて、台本にはきっと『友人A』としか書かれていない。
いくらでも替えの利く名前のない存在。それが私。
彼らと一緒にいると、自分がその他大勢でしかないと自覚せざるを得ない。
楽しそうに談笑しながら話す彼らと、すぐ後ろを歩く私のあいだには透明で分厚い壁が存在していた。
***
昼休みのチャイムが鳴る。
昼食をどうしようかなと考えながら顔を上げると、廊下のドアからココがこちらに手を振っているのが目に入った。
一緒に食べるために誘いに来てくれたのだと分かり、ぎこちなく微笑んで手を振る。
教科書を片付けて廊下に向かうと、女子たちが私を睨みながらひそひそと話す声が聞こえてしまった。
「身の程知らずって怖いわ」
知っている、そんなことは。
でも何も聞こえないふりをして、ココに向かって笑顔を作り廊下へ出る。
「アンナ、今日は中庭でランチしない? ルイがみんなの分のサンドイッチを買ってきてくれるって」
「そうなんだ」
ニコニコと笑いながら私の手を引くココは、無邪気で天使のようだ。すれ違う人たちが夢見るような表情で彼女を目で追っている。
中庭の一番居心地がよいガゼボには、もうセナが座って待っていた。
ココが手を振るとパッと笑顔になり、自分の隣にハンカチを敷いてココを座らせる。私は彼らの向かい側にそっと腰かけた。
「おっと、遅れた。いやーカフェテリア混んでてさ。ごめんな」
走ってきたルイが笑いながらパンの入った袋をみんなの前に差し出す。いろんな種類のサンドイッチと、甘いドーナッツ。セナがココの好きなハムサンドとシナモンドーナッツを彼女の前に差し出す。残りを男二人が適当に分け合う。
全員がパンを手に取ったのを見計らって、私も余っているものに手を伸ばす。ちらりと皆の顔を窺い、誰も非難がましい目をしていないことを確認してから、包みを開けて食べ始めた。
三人は今日の授業で出た課題について話しながらパンを食べている。
成績優秀者の彼らは、そろって選抜のAクラスだ。Bクラスの私には話がわからないが、つまらなそうにしていると思われないように黙って聞いているふりをしていた。
彼らはいつも三人で会話をして、私は黙ってそれを聞いている。
分からない会話。誰とも目が合わない時間。
私はどうしてここにいるのか、いつも分からなくなる。
時間が過ぎるのを、じっと待つ。
ココは私を誘うくせに、いつも放っておく。
結局、三人で話すのが楽しいのだ。だから私は置物と化す。
ひとりぼっちでいるよりも、誰かと一緒にいるほうが孤独を感じるなんて知りたくなかった。
――ああ、ひとりになりたい。
たったひとりで外のベンチに腰掛け、木々のさざめきを聞きながらパンをかじっている自分を妄想して、この苦痛に満ちた時間を耐えた。
ゆっくりと咀嚼したパンを飲み下す。
彼らもあらかた食べ終わった。会話の合間を探して、一瞬話題が途切れたところで口を開く。
「ごちそうさま……じゃあ私、次の授業の予習をしたいからもう行くね」
「ええ~アンナもう行くの? 早いよぉ」
「うん、ごめんね」
ルイにパンのお金を渡し、席を立つ。
早くあの場から離れたくて走り出しそうな気持を抑えつつ、不自然にならない程度に急ぎ足で中庭を歩いた。
「アンナ」
中庭を抜ける直前で後ろから声をかけられた。驚いて振り向くと、ルイがいた。
「ど、どうしたの? 私、何か忘れ物でもしたかな?」
「いや、そうじゃなくて。なんかアンナが怒っているように見えたから、ちょっと心配になって」
「あ、ごめん。怒るなんてないよ。気を遣わせてごめんね」
思いがけないルイからの気遣い。嬉しくて顔が赤くなっているのが自分でも分かる。
だが次に彼が発した言葉で、一気に体温が下がった。
「ココが気にしていたからさ。何もないなら良かった。ココも安心するだろう」
ココが気にしていたから、彼女の憂いを払うためにルイは追いかけてきただけ。
……本当に心配してもらえたのかと期待してしまった。気にかけてもらえたと喜んでしまった分、気持ちがズンと重くなる。




