秘密にしていたこと
学校に着くと、生徒たちがなんとなくざわざわして落ち着かない雰囲気がした。
何かあったのだろうか……。
気になって周囲の声に耳を傾ける。
通りすがりに聞こえてくる声からは、休学やら違反行為なんて単語が飛び交っている。
「なんだろ……」
「ああ、女生徒四名が停学処分になったらしいね」
「ひっ!」
後ろから声がかけられ、飛び上がって驚く。
振り向くと、とっくに先に行ったと思っていたセナが私のすぐ後ろに立っていた。
「セナっ……」
「こっち」
ぐいと腕を引っ張られ、柱の裏へ連れ込まれる。
吐息がかかるほどの距離に追い詰められた。
「なっ、なに?」
「女生徒たちは、提出課題の不正行為や他生徒への恐喝をおこなった事実が発覚したんだってさ。違反行為が複数あるから無期限の停学らしいよ。怖い話だよね」
「無期限停学? ずいぶん重い処罰ね。どのクラスの子……?」
そこまで言ってから、セナの顔をみてハッとする。
昨日、彼は「ちゃんと釘を刺しておく」と言った。
先日私に詰め寄ってきた、名前も知らない女生徒たち。処分されたのはきっとあの女生徒たちで間違いない。
セナが手を回したんだ……。
私が気づいたと感じ取ったセナは、にっこりと笑う。
「その四人は高等部にあがってからずいぶんと傍若無人に振舞っていたらしいね。アンナもその子らの被害を受けたんでしょう? 怪我もさせられたって風の噂で聞いたよ、可哀そうに。でも色々と悪事が露見して停学になったから、これからは周りもおとなしくなるかな? アンナも安心したんじゃない?」
「ど、ど、どうやって……」
声が震える。
あの女生徒に髪を掴まれた件は、人気のない場所だったからマチアス先生しか目撃者はいないと思っていた。
他に人がいた気配もなかった。セナはあの事件を知るはずがないと油断していた。
どうやって女生徒たちを処分させたのだろう。
実家がどうあれ、学校内ではセナも一生徒にすぎないのに、校内全ての情報を把握して人々を動かしているみたいで恐ろしい。
「アンナは嫌がるだろうけど、僕はこれでも君のことを気に入っているし、大切に思っているんだよ。もっと僕を頼ってほしいんだけどな」
「分かっているわよ。ココの安寧のために私が必要なんでしょ」
「そうだね。でもそれだけじゃないよ。本当に君を気に入っているんだ」
すぐそばにあった彼の顔が近づいて、頬に唇がふれた。
ちゅ、とリップ音がしてようやくキスされたと気づき、小さく悲鳴をあげてセナを振り払った。
「っ、やめてっ」
「誤解しないでよ。親愛のキスだから」
「分かっているわよ! でも誰かに見られたらまた反感を買うから迷惑なの」
「あはは、アンナは僕のキスじゃ喜んでくれないか。自分で言うのもなんだけど、キスしてもらえたら死んでもいいとか女の子たちに言われるんだけどな」
「だったらその女の子たちにしてあげてよ。私は嬉しくないから」
「困ったな。頑張る君に喜んでもらいたかったんだけど。あ、じゃあ……大好きなルイからキスをしてもらえるよう頼んであげようか」
「…………えっ?」
突然ルイの名前を出され、心臓が跳ね上がる。
動揺が顔に出てしまった。それを見たセナがしてやったりとばかりにクスクスと笑う。
「本当にアンナは分かりやすくて可愛いね。いいよ、ルイは単純だから、親愛のキスをしてあげてと僕が言えば喜んでしてくれるよ。じゃあ両頬にしてもらおうね。君は本当によく頑張っているから、ご褒美だよ」
「い、いらない! ほしくない!」
「遠慮しなくていいってば。それともルイと二人きりになる機会を増やしてあげようか? 手をつないでもらうほうがいい?」
「だから違うって! 好きとかそんなんじゃない!」
その時、がやがやと声がして、生徒たちが近づいてくる気配がした。
セナが私から離れる。
「ふふふ。心配しなくてもルイには君の気持ちを言わないから安心してよ。じゃあ、また昼休みに」
くるりと背を向け、何事もなかったようにセナは歩いていった。
私はしばらく柱の陰で頭を抱えてうずくまっていた。
「最悪……! どうしよう……!」
もう駄目だ。みすみす弱みを握らせるようなことをして、もう後悔しかない。
セナの誘導にまんまと乗っかってしまった自分が馬鹿すぎる。
「好きとか、そんなんじゃ……ないのに」
ほんの少し、憧れているだけだ。
恋なんて大それた感情じゃない。ただ彼を見ていると心がざわめいてしまう。
ただそれだけだったのに。
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