表面上は優しい三人
期待して縋って、でもやっぱり無理だったと突き放されたら、それこそ私の人生は終わる。
そんな心の声が伝わったのか、先生たちも頷いてくれた。
「ごめんね、アンナさん。あんまりな話だったからつい激高しちゃった。あなたの許可なく勝手に動いたりしないから安心して」
「ベアトリスは心理カウンセラーのくせに感情的になりすぎだ。そんな有様じゃ安心できるわけないだろ」
「いえっ! ベアトリス先生が怒ってくれたのは嬉しかったです。でも今はそっとしておいていただけると……」
確かに心理カウンセラーという肩書きがあるにしては感情的すぎる人だなと私も思ったが、きっと心根が優しくて人に寄り添いすぎてしまうタイプなのだろう。
「じゃあ、話だけでも僕らに聞かせてくれないかい? 放課後の少しの時間でいいから。奉仕活動ってことにすればアンナさんも来やすいだろう?」
「え……」
「あっ、なるほど。マチアス賢いじゃない」
マチアス先生が話に割り込んで、そんな提案をしてきた。
奉仕活動ということにしておけば、保健室に通っていても不自然じゃないし変に疑われることもない。解決はしなくても、せめて一人で抱え込まず話をしてほしいと提案してくれて、不覚にも涙がでそうになる。
ベアトリス先生が立ち上がって私の肩をぎゅっと抱きしめる。
「現時点で私たちは何もできないけれど、できればあなたに孤独でいてほしくないの。お願いだから話だけでもしに来てくれないかな」
「……はい。ありがとうございます。でもそれならちゃんと活動のお仕事をさせてください。何もせず点数だけいただくわけにいきませんから」
「真面目だね。でもそうだね、実際ちゃんと活動実績があるほうが疑われないよね」
ベアトリス先生はさっそく奉仕活動の申請書類を作り始める。
名目は保健室の掃除や備品の補充という裏方の地味な仕事。さっそく私も申込み用紙に記入をして、先生に手渡す。
「じゃあ、来週からよろしくね。あ、マチアスも来るのよ?」
「来るよ。提案だけして放り投げるような真似はしないって」
肩を竦めるマチアス先生と目が合う。
そういえばこの人は薬草学の研究室を任されていると言っていた。アカデミーの客員教授だろう。高等部の生徒とは本来関わることがない教授に私の愚痴なんかに付き合わせていいのだろうか。
「僕の研究室でも奉仕活動の依頼を出そう。雑務は山ほどあるから、昼休みでも放課後でも来てくれたら助かる」
「あ、ありがとうございます。じゃあ、時々でいいのでお仕事させてください」
この先生も、気遣いの人だ。
私が昼休みの時間を苦痛に思っているのを感じ取ってくれたのだろう。
現状、何も変わっていないけれど、閉塞感で息ができなかったところに少しだけ風穴を開けてもらえた気持ちになった。
お礼を言って、保健室を出る。
手を振ってくれた二人の姿に心が温かくなる。
私のことをちゃんと見てくれる人がいるなら、まだ頑張れる気がした。
***
前日、セナに釘を刺されたこともあり、今日の朝はココと一緒に行ける時間に寮を出た。
ココたちの寮の前まで来ると、もうすでに三人が門の前に待っていた。
「あっ! おはようアンナ!」
「おはようココ。もしかして待っていてくれたの?」
「うん、もちろんそうだよ。アンナと一緒に行きたくて早い時間から待ってたんだから」
「そっか。えっと、ありがとうね。……嬉しいよ」
「ううんー私がアンナに会いたかっただけだもん」
そう言ってここは極上の笑顔を私に向けてくる。
この子は本当に私を好いてくれていると感じるのに、どうして四人でいる時私をのけ者にするのか分からない。
「おはようアンナ。昨日はごめんね」
セナに優しく声をかけられ、肩がビクッと跳ねる。
「なになに? セナってばアンナに何かしたの?」
「放課後に偶然会ったんだよ。忙しそうだったけど、アンナと話したくてつい引き留めちゃったから、悪いことしたかなって」
ね? と意味深に微笑まれ、あいまいに頷く。
「もー、セナってアンナのこと大好きよね! でもダメよ! アンナの一番の友達は私なんだから、たとえセナでもあげないわ!」
「あはは、そうだね。それよりさ、花祭りの件だけど……」
ココの興味はもう私から別の話題に移った、
いつもどおり、ココが私の前を歩きその隣にぴったりセナが寄り添う。
だが逆隣りにいるはずのルイがいない。
あれ? と周囲を見回すと、ルイが私の隣にいた。
「ど、どう、したの? 何か私に用事でもあった?」
「いや、そうじゃないけれど、アンナここ最近疲れてないか? 今日も顔色があんまりよくない」
「そ、そうかな? えっと、ちょっと忙しかっただけで大丈夫だよ」
「アンナは努力家だから、無理をし過ぎているんじゃないかって心配なんだよ」
まっすぐな瞳で見つめられ、つい顔が赤くなる。
「ルイ、心配してくれて、ありが……」
「あー! 二人で何を話してるのー? さては内緒の話だなー?」
くるりとココが振り返り、背伸びをして悪戯っぽい顔でルイをつつく。
「別に大したこと話してないって! ココが昨日アンナを心配してただろ。だから気になって訊いていただけだって」
「あっ、そうだった! アンナってば昨日具合悪くて清掃活動休んだんでしょ? セナから聞いてびっくりしたんだからー」
「なんで知って……」
セナを見ると、意味ありげに頷かれた。
奉仕活動を休んだことをどうやって知ったのか。
彼がどこまで何を把握しているのか分からない。保健室のこともすでに知られているのではないかと不安で震えが止まらなくなる。
「同じ奉仕活動に参加していたっていうコーブスから聞いたんだ。急な欠席だから彼も心配していたよ」
コーブス……確かその奉仕活動にいつも参加している男子にそんな子がいた気がする。セナたちと同じ寮らしい。
保健室での会話を聞かれていたわけではないようだ。
気づかれないようホッと息を吐く。
「点数を稼ぎたくてつい色々予定を入れすぎたかも。掃除は点数が高いけど体力勝負だから、疲れちゃったんだよね。清掃は少し減らそうかな」
「アンナは頑張りすぎだよ! 奉仕活動は一旦お休みにして、もっと私と遊ぼうよぉ」
「でも一緒に進級できなくなるかもしれないし、頑張らないと」
「ココ、あんまりアンナを困らせちゃ駄目だよ」
「むぅ。そっかあ」
セナが窘めたため、ココは渋々引き下がってくれた。その後はいつも通り、ココとセナとルイの三人で談笑しながら歩き始めた。
私は定位置となった彼らの後ろをそっとついて行く。
学校が見えてきたあたりで、少しずつ歩みを遅くして気づかれないように距離を取った。少しずつ、少しずつ。正門前に着くころには彼らは人込みに紛れて見えなくなっていた。




