兄と妹
海水が吹き荒れる。
警報。
崩れる宿泊区画。
特殊部隊。
そして。
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「……兄さん」
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ミラのその一言で、
リオの脳が完全に止まった。
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「兄!?」
「お前兄いたの!?」
「今そこ!?」
エナがツッコむ。
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「いや気になるだろ!!」
「わかるけど今じゃない!!」
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ガルドは頭を抱えた。
「お前ら集中しろ」
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仮面の男は静かに立っていた。
銃も構えない。
焦りもない。
まるで勝利を確信しているように。
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「ミラ」
男が言う。
「父上がお待ちだ」
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ミラの顔色が変わる。
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父上。
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その言葉を聞いた瞬間、
彼女の表情から感情が消えた。
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リオは初めて見る顔だった。
恐怖。
怒り。
嫌悪。
全部混ざった顔。
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「……黙れ」
ミラが言う。
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男は少しだけ悲しそうに笑う。
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「まだ憎んでいるのか」
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「当たり前」
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空気が張り詰める。
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その時。
エナが小声で言う。
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「家族問題って大体面倒なんだよね」
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「今言うな」
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「でもだいたい当たる」
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当たっていた。
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男の名前はゼノ。
ミラの実兄。
そして。
ユニオン中央研究局所属。
N.O.AH計画の中核人物。
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リオは嫌な予感しかしなかった。
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「待て」
「つまり」
「お前の兄貴が敵?」
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「そう」
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「しかも研究者?」
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「そう」
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「しかも国家側?」
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「そう」
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「めちゃくちゃ面倒じゃねぇか!!」
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エナが親指を立てる。
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「家族問題ランキング上位」
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ガルドが無視して射撃。
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ドン。
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特殊部隊一名転倒。
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「雑談終わりだ」
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戦闘再開。
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ゼノは動かない。
ただミラだけを見ている。
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「帰れ」
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「嫌」
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「君は間違っている」
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「あなた達が間違ってる」
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兄妹の会話なのに、
まるで思想戦争だった。
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リオは気づき始める。
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これ、
ただの家族喧嘩じゃない。
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N.O.AHを巡る戦争だ。
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その時。
ゼノが視線を移した。
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初めて。
リオを見る。
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その瞬間。
表情が変わった。
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驚き。
困惑。
そして。
興味。
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「……なるほど」
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ゼノが呟く。
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「父上が執着するわけだ」
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リオが嫌な汗をかく。
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「やめろ」
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「その目で見るな」
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ゼノは微笑む。
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「R-09」
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またその名前。
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「君は完成品に最も近い」
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リオの心臓が止まりそうになる。
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完成品。
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何の?
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聞こうとした瞬間。
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ミラがゼノへ飛び込む。
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ナイフ。
高速。
殺意。
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ガキィン!!
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ゼノが片手で受け止める。
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リオが目を見開く。
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「は?」
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機械化。
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ゼノの腕は、
ほぼ機械だった。
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「セパラ技術……?」
エナが驚く。
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ユニオン研究者が。
セパラの技術を使っている。
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本来ならありえない。
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ゼノは静かに言う。
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「思想など手段だ」
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「人類が生き残るなら何でも使う」
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その言葉に。
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ガルドが初めて反応した。
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「その理屈で何万人死んだ」
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ゼノが見る。
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二人の視線がぶつかる。
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元兵士。
研究者。
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どちらも国家の中枢を見た人間。
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ゼノは言う。
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「必要だった」
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ガルドは笑った。
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冷たい笑いだった。
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「そう言う奴は大体ろくでもねえ」
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その瞬間。
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ゼノの表情も消える。
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「……そうか」
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次の瞬間。
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宿泊区画全体が揺れた。
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爆発。
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外壁崩壊。
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海水流入。
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都市そのものが危険域へ入る。
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「チッ」
ゼノが舌打ちした。
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予定外だったらしい。
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通信が入る。
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「隊長」
「排斥派が別区画で爆破」
「都市崩壊リスク上昇」
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ゼノは数秒考えた。
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そして。
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撤退命令。
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「回収は次回だ」
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特殊部隊が下がり始める。
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ミラは追おうとする。
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だが。
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ゼノは最後に言った。
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「ミラ」
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彼女が止まる。
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「父上は君を捨てていない」
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沈黙。
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ミラの目に、
ほんの一瞬だけ感情が揺れた。
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だが。
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「私は捨てた」
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そう返した。
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ゼノは何も言わず去っていく。
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静寂。
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崩壊しかけた宿。
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海水。
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疲労。
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そして。
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リオが一言。
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「……俺たちさ」
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エナ。
「うん」
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「毎回事件の規模大きくなってない?」
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エナが真顔で答える。
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「なってる」
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ガルド。
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「最初は密航だったんだがな」
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全員黙った。
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本当にその通りだった。




