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N.O.AH  作者: トマト


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8/9

兄と妹

海水が吹き荒れる。


警報。


崩れる宿泊区画。


特殊部隊。


そして。



「……兄さん」



ミラのその一言で、

リオの脳が完全に止まった。



「兄!?」


「お前兄いたの!?」


「今そこ!?」


エナがツッコむ。



「いや気になるだろ!!」


「わかるけど今じゃない!!」



ガルドは頭を抱えた。


「お前ら集中しろ」



仮面の男は静かに立っていた。


銃も構えない。


焦りもない。


まるで勝利を確信しているように。



「ミラ」


男が言う。


「父上がお待ちだ」



ミラの顔色が変わる。



父上。



その言葉を聞いた瞬間、

彼女の表情から感情が消えた。



リオは初めて見る顔だった。


恐怖。


怒り。


嫌悪。


全部混ざった顔。



「……黙れ」


ミラが言う。



男は少しだけ悲しそうに笑う。



「まだ憎んでいるのか」



「当たり前」



空気が張り詰める。



その時。


エナが小声で言う。



「家族問題って大体面倒なんだよね」



「今言うな」



「でもだいたい当たる」



当たっていた。



男の名前はゼノ。


ミラの実兄。


そして。


ユニオン中央研究局所属。


N.O.AH計画の中核人物。



リオは嫌な予感しかしなかった。



「待て」


「つまり」


「お前の兄貴が敵?」



「そう」



「しかも研究者?」



「そう」



「しかも国家側?」



「そう」



「めちゃくちゃ面倒じゃねぇか!!」



エナが親指を立てる。



「家族問題ランキング上位」



ガルドが無視して射撃。



ドン。



特殊部隊一名転倒。



「雑談終わりだ」



戦闘再開。



ゼノは動かない。


ただミラだけを見ている。



「帰れ」



「嫌」



「君は間違っている」



「あなた達が間違ってる」



兄妹の会話なのに、

まるで思想戦争だった。



リオは気づき始める。



これ、

ただの家族喧嘩じゃない。



N.O.AHを巡る戦争だ。



その時。


ゼノが視線を移した。



初めて。


リオを見る。



その瞬間。


表情が変わった。



驚き。


困惑。


そして。


興味。



「……なるほど」



ゼノが呟く。



「父上が執着するわけだ」



リオが嫌な汗をかく。



「やめろ」



「その目で見るな」



ゼノは微笑む。



「R-09」



またその名前。



「君は完成品に最も近い」



リオの心臓が止まりそうになる。



完成品。



何の?



聞こうとした瞬間。



ミラがゼノへ飛び込む。



ナイフ。


高速。


殺意。



ガキィン!!



ゼノが片手で受け止める。



リオが目を見開く。



「は?」



機械化。



ゼノの腕は、

ほぼ機械だった。



「セパラ技術……?」


エナが驚く。



ユニオン研究者が。


セパラの技術を使っている。



本来ならありえない。



ゼノは静かに言う。



「思想など手段だ」



「人類が生き残るなら何でも使う」



その言葉に。



ガルドが初めて反応した。



「その理屈で何万人死んだ」



ゼノが見る。



二人の視線がぶつかる。



元兵士。


研究者。



どちらも国家の中枢を見た人間。



ゼノは言う。



「必要だった」



ガルドは笑った。



冷たい笑いだった。



「そう言う奴は大体ろくでもねえ」



その瞬間。



ゼノの表情も消える。



「……そうか」



次の瞬間。



宿泊区画全体が揺れた。



爆発。



外壁崩壊。



海水流入。



都市そのものが危険域へ入る。



「チッ」


ゼノが舌打ちした。



予定外だったらしい。



通信が入る。



「隊長」


「排斥派が別区画で爆破」


「都市崩壊リスク上昇」



ゼノは数秒考えた。



そして。



撤退命令。



「回収は次回だ」



特殊部隊が下がり始める。



ミラは追おうとする。



だが。



ゼノは最後に言った。



「ミラ」



彼女が止まる。



「父上は君を捨てていない」



沈黙。



ミラの目に、

ほんの一瞬だけ感情が揺れた。



だが。



「私は捨てた」



そう返した。



ゼノは何も言わず去っていく。



静寂。



崩壊しかけた宿。



海水。



疲労。



そして。



リオが一言。



「……俺たちさ」



エナ。


「うん」



「毎回事件の規模大きくなってない?」



エナが真顔で答える。



「なってる」



ガルド。



「最初は密航だったんだがな」



全員黙った。



本当にその通りだった。

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