沈む都市、別れる道
「最初は密航だったんだがな」
ガルドの一言で、
全員が数秒黙った。
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海底都市。
現在進行形で半壊中。
宿は水浸し。
特殊部隊襲来。
国家機密。
兄妹喧嘩。
もう何が普通なのか分からない。
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「……帰りたい」
リオが呟く。
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「どこに?」
エナが聞く。
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リオは考える。
軌道都市。
整備工場。
ボロいアパート。
普通の日常。
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でも。
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「……あれ?」
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もう戻れる気がしなかった。
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その時。
都市全域へ緊急放送。
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《外壁損傷率17%》
《全市民は避難準備を開始してください》
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ネレイスたちが慌ただしく動き始める。
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ガルドが立ち上がる。
「船へ戻る」
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その時だった。
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昼間に助けたネレイスの少女が走ってくる。
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「お願い!」
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息を切らしている。
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「お母さんがまだ外壁区画にいるの!」
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リオは顔をしかめた。
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嫌な予感。
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めちゃくちゃ嫌な予感。
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エナも同じ顔だった。
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「リオ」
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「なんだ」
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「絶対助けるって言う顔してる」
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「言う」
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「知ってた」
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ガルドが盛大にため息をつく。
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「船を失ったら終わりだ」
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正論だった。
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でも。
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少女の目を見る。
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泣きそうだった。
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リオは昔からこういうのに弱い。
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「……行く」
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ガルドが目を閉じる。
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「チッ」
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これは了承の意味だった。
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エナが笑う。
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「はいはい」
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「善人御一行様出発〜」
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ミラは何も言わず付いてくる。
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こういう所だった。
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この船の連中は。
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全員面倒臭い。
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なのに見捨てられない。
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外壁区画
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海水侵入。
崩落。
警報。
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完全に地獄だった。
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ネレイス救助隊が動いている。
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リオたちは少女の母親を探す。
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その途中。
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エナがふと立ち止まる。
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「……おかしい」
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「何が?」
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「爆破跡」
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義眼でスキャン。
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エナの顔色が変わる。
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「これ排斥派じゃない」
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全員が見る。
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爆発の痕跡。
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異常に正確。
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軍事レベル。
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「どういうことだ」
ガルドが聞く。
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エナは嫌そうな顔をする。
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「誰かが排斥派に偽装した」
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空気が変わる。
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つまり。
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今回の事件そのものが、
誰かの作戦。
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リオが嫌な予感を覚える。
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最近ずっとだ。
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事件の裏にN.O.AH。
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全部繋がっている気がする。
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その時。
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ミラが崩れた壁の向こうを見る。
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「いた」
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少女の母親。
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瓦礫に挟まれている。
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まだ生きている。
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リオが駆け寄る。
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「大丈夫か!?」
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だが。
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瓦礫が重い。
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びくともしない。
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ガルドも加わる。
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それでも厳しい。
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その時。
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エナが笑った。
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「どいて」
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六本の義腕展開。
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最大出力。
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「こういう時のための機械です」
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バキバキバキ!!
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瓦礫が持ち上がる。
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リオが引く。
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「お前人間か?」
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「たぶん」
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「たぶん!?」
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少女の母親を救出。
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間に合った。
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少女が泣きながら抱きつく。
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その光景を見て。
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ガルドは少しだけ目を逸らした。
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燃える村。
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泣く子供。
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助けられなかった人たち。
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今でも夢に出る。
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だから。
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こういう光景を見ると苦しい。
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その時だった。
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都市全域停電。
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真っ暗。
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「またかよ!」
リオが叫ぶ。
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だが。
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今回は違った。
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都市中央から光が上がる。
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青白い光柱。
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ネレイスたちがざわめく。
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ミラの顔色が消える。
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「……嘘」
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「何だ?」
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ミラは震える声で言う。
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「N.O.AHの信号」
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全員が固まる。
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エナも。
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ガルドも。
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「なんで海底都市にある」
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ミラの声がかすれる。
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それは本来、
ユニオン最高機密のはずだった。
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なのに。
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ネレイアの中心から発信されている。
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その頃。
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都市最深部。
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封鎖研究区画。
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誰もいないはずの施設。
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暗闇。
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古い実験装置。
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そして。
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巨大なカプセル。
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表面には番号。
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《R-01》
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機械音声が響く。
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《接続率上昇》
《N.O.AH起動シーケンス開始》
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長い眠りについていた何かが、
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ゆっくりと目を開いた。




