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N.O.AH  作者: トマト


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6/9

深海都市

「海底都市ぃ?」


リオは嫌そうな声を出した。


貨物船ストレイ・ドッグ食堂。


安定のボロさ。


安定の臭さ。


そして安定のエナの変な飯。


「はい今日の朝食〜」


紫色のスープ。


発光している。


リオが真顔になる。


「なんで光ってんの」


「栄養」


「栄養は発光しねえんだよ」


ガルドが普通に飲んでいる。


「慣れろ」


「慣れたくねえ」



今回の依頼は、

海底都市ネレイアへの医療物資輸送。


ネレイス。


深海適応人類。


地上人類とは半ば別種扱いされている存在。


リオは端末資料を見ながら顔をしかめる。


「なんか普通に怖いんだけど」


エナが笑う。


「差別ですよ〜」


「いやだって写真怖ぇもん!」


「お前それ本人の前で言うなよ」



数時間後。


地球圏海上。


ストレイ・ドッグは海へ降下していた。


黒い海。


荒れる波。


そして。


深海へ沈んでいく巨大光。


リオは窓へ張り付く。


「うお……」


海底。


そこには都市があった。


巨大ドーム。


青白い光。


まるで深海そのものが文明になったみたいだった。



《ネレイア》。


深海適応人類居住区。


通称、

“沈んだ都市”。



入港ゲート。


気圧調整。


水流制御。


特殊空気循環。


全部普通じゃない。


リオの耳が痛くなる。


「うわ気持ち悪っ」


エナがケラケラ笑う。


「初心者だ〜」


「お前平気なの?」


「昔いろんな環境区行ったからね」


「何者だよほんと」


エナはニヤッと笑う。


「天才技師」


「胡散臭ぇ」



ゲートが開く。


冷たい空気。


湿気。


薄暗い青色照明。


そして。


ネレイスたち。


半透明に近い肌。


大きな黒い瞳。


首元の発光器官。


静かな視線。


人間に似てる。


でも、

確実に違う。


リオは無意識に立ち止まった。


ネレイス側もこちらを見ている。


興味。


警戒。


嫌悪。


全部混ざった目。



その時。


小さなネレイスの子供が、

ミラを見るなり母親の後ろへ隠れた。


「……地上人」


母親が慌てて口を塞ぐ。


気まずい空気。


リオは苦笑する。


「俺らめっちゃ嫌われてね?」


ガルドが短く答える。


「歴史がある」



昔。


地上国家は海底資源開発を進めた。


環境破壊。


強制移住。


深海労働。


その結果、

適応した人々は深海へ追いやられた。


ネレイス側は今でも地上を信用していない。


逆に地上側は、

彼らを“人類じゃないもの”扱いする。


つまり。


どっちも互いを怖がってる。



市場。


発光魚。


浮遊水槽。


海藻建築。


知らない文化。


リオはちょっと楽しくなっていた。


「なんかゲームの街みてえ」


エナは既に屋台飯を食っている。


「これ美味いよ〜」


「いやお前何でも食うな」


「失礼な」


その直後、

エナの口から煙。


「辛っっっ!!!」


「めちゃくちゃ辛い!!!」


リオが爆笑する。


「ざまぁ!!」


「水!! 水!!」


ミラが無言で差し出す。


エナが感動する。


「ミラ優しい……結婚する?」


「しない」


「即答ぉ」


少しだけ、

空気が柔らかくなる。



その時。


都市警報。


赤い光。


《外壁区画損傷》


《避難警告》


爆発。


海が揺れる。


ネレイスたちがざわつく。


ガルドが即座に立ち上がる。


「テロか」


エナが端末確認。


「地上排斥派っぽい」


「また思想かよ……」


リオはうんざりする。


どこ行ってもこれだ。



避難路。


パニック。


海水漏れ警報。


その途中。


昼間のネレイス少女が転倒する。


周囲は気づかない。


リオは咄嗟に走る。


「危ねぇ!」


少女を抱えて飛び込む。


直後。


天井崩落。


海水噴出。


ギリギリだった。



少女は震えていた。


「……なんで助けるの」


またその質問。


リオは苦笑する。


「最近それ流行ってんの?」


少女は困惑している。


たぶん、

地上人へ助けられると思ってなかった。


リオは頭を掻く。


「別に、人助けに理由いる?」


その言葉に、

後ろのネレイス老人が複雑そうな顔をした。


「……優しいだけでは、歴史は変わらん」


重い声だった。



その夜。


宿泊区画。


窓の外には深海。


暗い海の中を、

無数の発光体が泳いでいる。


綺麗だった。


リオは少し見入る。


そこへエナ。


缶ジュース片手。


「青春してる?」


「うるせえ」


エナは隣へ座る。


珍しく静かだった。


「ねぇリオ」


「ん?」


「もしさ」


「人類が本当に別種になったらどうする?」


突然だった。


リオは少し考える。


ネレイス。


火星人類。


機械化種。


確かに、

もう同じ“人間”じゃなくなり始めてる。


でも。


「……それでも人間じゃね?」


エナは笑う。


「甘いなぁ」


でも。


その笑顔は少し寂しそうだった。



同時刻。


深海都市外壁。


暗い海。


そこに、

黒い潜行装甲の集団。


赤いセンサー光。


通信。


《R-09確認》


《対象ミラ確認》


《回収作戦を開始する》


深海の闇が、

静かに動き始めていた。

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