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N.O.AH  作者: トマト


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5/9

検閲都市

「臭っっっ」


リオは顔をしかめた。


貨物船ストレイ・ドッグ船内。


油。


機械熱。


煙草。


あとエナが作った謎の激辛麺。


全部混ざって、

地獄みたいな匂いになっている。


「人が飯食ってる時に失礼だなぁ」


エナが箸を振る。


「それ飯だったの!?」


「栄養は完璧」


「人類は味覚を捨てるべきじゃないと思う」



ミラは隅で端末解析。


ガルドは操縦席。


会話がない。


気まずい。


リオは耐えきれず言う。


「……お前らもっと喋れよ」


「必要ない」


ミラ即答。


「冷たっ」


ガルドは煙草を咥えたまま言う。


「運び屋は長生きしたきゃ詮索しない」


「この船、全員秘密多すぎるんだよ」


エナがニヤニヤする。


「じゃあリオくんから話す?」


「普通の整備員です」


「今それ信じてるの君だけだよ」


「やめろぉ!」



数時間後。


船はユニオン辺境都市イースト・バレルへ到着する。


巨大都市ではない。


だが。


空気は完全にユニオンだった。


白い建物。


整然とした街路。


静かな人々。


“乱れない空気”。



入港直後。


巨大モニター点灯。


白銀の制服。


穏やかな笑顔。


アメリア・ヴァイス。


ユニオン中央管理局の象徴。


《市民の皆様》


《共感は、人類を争いから救いました》


街の人々が自然に足を止める。


誰も騒がない。


誰も茶化さない。


ただ静かに聞いている。


リオは鳥肌が立った。


「……宗教みたい」


エナが笑う。


「国家って大体宗教だよ」


ガルドがボソッと付け足す。


「ここは特にな」



補給市場。


船用品を買い込む四人。


エナは既に三回値切りで喧嘩していた。


「高い高い!」


「ぼったくり!」


「その義腕売れば払えるだろ」


「命なんですけど!?」


店主と普通に言い合っている。


リオは思う。


この人、

緊張感がない。


でも。


その軽さのおかげで、

船の空気がギリギリ保たれてる気もした。



その時。


人混みが割れる。


保安局。


中央には拘束された男。


痩せた配信者風の青年だった。


顔がボコボコに腫れている。


周囲の市民は静かに見ていた。


誰も止めない。



モニター音声。


《市民番号E-44291》


《感情扇動罪》


《社会不安誘発》


《同期阻害行為を確認》


リオが顔をしかめる。


「何したんだよ」


近くの市民が当然みたいに答える。


「虚偽情報です」


「危険思想を流した」


「みんなが不安になる」


その声に怒りはない。


ただ“常識”を語っていた。



拘束された男は笑っていた。


血を吐きながら。


「お前らさぁ……」


「本当にそれ、自分の考えか?」


空気が変わる。


市民たちがざわつく。


不快感。


怒り。


居心地の悪さ。


エンパシアによる感情同期が乱れている。


リオは分かってしまう。


この街では、

“空気を乱す”こと自体が罪なんだ。



保安局員が冷たく言う。


「最後に言い残すことは」


男は笑ったまま呟く。


「ノアは生きてる」


その瞬間。


空気が凍る。


ミラの顔色が変わる。


エナの笑みも消える。


ガルドだけが静かに舌打ちした。


リオだけ話についていけない。


「……ノア?」


次の瞬間。


男へ電流。


身体が跳ねる。


モニターが即座に切り替わる。


《危険情報を検知》


《市民は不安を共有しないでください》


数秒後。


人々は何事もなかったように歩き始める。


リオは寒気がした。


「……怖」



その夜。


安宿。


エナはベッドへダイブ。


「文明最高〜〜〜!!」


「船床硬いんだよね」


ガルドは酒。


ミラは窓際。


リオは昼のことを考えていた。


「ノアってなんなんだ」


沈黙。


エナが珍しく茶化さない。


ミラは小さく言う。


「知らない方がいい」


「なんで」


「知った人、消えるから」


冗談に聞こえなかった。



その時。


リオの頭痛。


ズキン。


視界が揺れる。


白い部屋。


ガラス。


機械音。


『R-09、同期率異常低下』


『感情接続不能』


知らない記憶。


でも妙にリアル。


リオが頭を押さえる。


「っ……!」


ミラが即座に振り向く。


「また?」


「またってなんだよ……!」


息が乱れる。


夢じゃない。


記憶でもない。


誰かの人生が混ざる感じ。



エナが珍しく真面目な顔になる。


リオを見る。


脳波。


呼吸。


目の動き。


昔、

研究施設で見た反応と似ていた。


“R系列”。


N.O.AH適合個体。


あり得ないはずの存在。


エナは笑顔を作る。


「大丈夫?」


「……全然」


「そっか」


軽く返す。


でも。


義腕の指先だけが、

わずかに震えていた。



同時刻。


ユニオン中央同期塔。


暗い演算室。


無数の感情波形。


その中央。


《R-09》


研究員が報告する。


「自己回帰を確認」


奥の人物が静かに言う。


「なら時間がない」


モニターには、

リオたちの現在位置。


そして。


《N.O.AH再接続予測:37%》


青白い光が、

静かに脈動していた。

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