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N.O.AH  作者: トマト


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4/9

境界の運び屋

下層港区は、

いつ来ても空気が悪い。


蒸気。


排熱。


油。


違法燃料。


全部混ざって、

肺が汚れる感じがする。


リオは人混みをかき分けながら歩いていた。


隣にはミラ。


フードを深く被り、

ずっと周囲を警戒している。


「……視線痛ぇ」


リオが小声で言う。


「お前目立つんだよ」


「あなたも」


「なんで?」


「挙動が田舎者」


「傷つく」



保安局ドローンが頭上を飛ぶ。


ミラの肩が一瞬だけ強張る。


リオはそれに気づく。


この子、

ずっと緊張してる。


たぶん昨日から一度も安心してない。



「で、どうすんだよ」


リオが聞く。


「逃げるって言っても」


「船とか金とか」


「俺らほぼ詰んでるだろ」


ミラは即答。


「境界宙域へ行く」


「だからその行き方を――」


その時だった。


横から声。


「諦めろ」


低い。


重い。


振り向く。


デカい男。


軍用コート。


片目義眼。


無精髭。


傷だらけ。


壁にもたれて煙草を吸っていた。


周囲のチンピラですら、

微妙に距離を取っている。


ヤバい人だ。


リオの直感が言っていた。



「密航したい顔してる」


男が言う。


ミラが即座にナイフへ手を伸ばす。


反応が速い。


だが男は動かない。


「殺気強ぇなガキ」


「誰」


ミラの声は冷たい。


男は煙を吐く。


「ガルド」


短い。


それだけ。



リオはガルドを見る。


なんか怖い。


でも。


妙に“慣れてる”。


こういう危険な空気に。



ガルドは二人を観察する。


まずミラ。


セパラ系改造。


未登録。


逃亡中。


目つきが完全に追われる側。


そして。


リオ。


こっちは変だった。


普通の下層整備員に見える。


でも。


“空気”がズレている。


ユニオン人特有の同期感が薄い。


感情共有社会で育った人間特有の、

あの“同調圧”がない。


昔見た。


ああいう目を。



燃える村。


同期拒否区域。


泣き叫ぶ子供。


逃げる住民。


部隊全員が同じ空気だった。


『危険思想区域を処理します』


誰も疑問を持たない。


感情が同期していたから。


“正しい空気”が完成していた。


ガルドだけが、

その空気に馴染めなかった。


だから気づいた。


これが虐殺だと。



目の前のリオは、

あの時の自分に少し似ていた。


空気から浮いている。


感情同期に馴染みきれていない。


ユニオンじゃ、

そういう人間は珍しい。



「……お前」


ガルドがリオへ言う。


「ユニオン育ちか?」


「え? そうだけど」


「珍しいな」


「何が?」


「その目」


リオは困惑する。


「目?」


ガルドはそれ以上言わない。



ミラはまだ警戒している。


「何が目的」


ガルドは煙草を捨てる。


「別に」


「ただ」


数秒。


ほんの少しだけ、

彼の表情が変わる。


「ガキ追い回す連中が嫌いなだけだ」


その言葉だけ、

妙に本音だった。



リオは聞く。


「じゃあ助けてくれんの?」


「タダじゃねえ」


「やっぱり」


「働け」


現実的。


でも、

通報されるより百倍マシだった。



ガルドは歩き出す。


「来い」


リオとミラは顔を見合わせる。


「……信用していいと思う?」


リオが小声で聞く。


ミラは少し考える。


「半分くらい」


「低くね?」


「でも今はそれで十分」



港の奥。


ボロい貨物船。


《ストレイ・ドッグ》。


見た瞬間、

リオは顔をしかめた。


「え、これ?」


「飛ぶ」


「今“飛べる”じゃなくて“飛ぶ”って言った?」


ガルドは無視。



船内へ入った瞬間。


天井から女が降ってきた。


逆さまで。


「お、新入り?」


ピンク髪。


ゴーグル。


六本腕。


ニヤニヤ顔。


情報量が多い。


「うわっ!?」


リオがビビる。


女はケラケラ笑う。


「いい反応〜」


「私はエナ!」


「技師!」


「ハッカー!」


「借金王!」


「最後誇るな」



エナはミラを見る。


次にリオを見る。


その瞬間。


彼女の目が一瞬だけ止まる。


“R系列”。


昔の研究資料。


感情同期耐性個体。


脳波異常。


適合者。


あり得ない。


なんでこんな所にいる?


でも。


エナは笑う。


全部隠して。


「……面白そう」


リオは嫌な予感しかしなかった。



その頃。


港上空。


保安局ドローン。


《対象反応確認》


《未登録改造体を検知》


警報が鳴り始める。


エナが笑顔で言った。


「はい逃げるよ新入り〜」


リオは叫ぶ。


「急すぎんだろぉぉぉ!?」

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