自覚する
―打ち上げのカラオケに着くと…
「風月~ こっちこっち」クラスメイトが手を振り合図する。
風月は集まっていたクラスメイトの中に泉水を探すが、その姿は見当たらない。
(まだ来ていないのかな…)
いつも一緒にいる泉水の友人は来ているので、遅れてくるのかなと思っていると、その二人の話し声が聞こえてきた。
「泉水も来れたらよかったけどね~」
「ホント。 そういえば、泉水とカラオケって行ったことないね」
「たしかに! 今度誘ってみよ!」
(前野、来ないんだ…)
そう思った瞬間、朝から高鳴っていた胸がスッと静まった。
昨日考えた洋服も、いつもより長く鏡の前に立って整えた髪も…
(何でこんなにガッカリしているんだろう… 別に来てたって話せる訳でもないのに)
歌ったり、話したりして打ち上げが盛り上がる中、泉水に送ろうと二人が写真を撮っていた。
写真を撮る二人を見て、風月はスマホを取り出す。
(―…今日会えないか、連絡してみようかな…)
―
レコーディングの合間にスマホをチェックすると、友だちから打ち上げの写真が送られてきていた。
(楽しそう。 打ち上げカラオケだったんだ…レコーディング入っててよかったかも。
あれ?桜樹くんからも連絡来てる…)
『今日、公園で会えない?』
ドキッ 学校が休みの日に初めて風月に誘われて、胸が高鳴る。
(会いたい……)
風月の気が変わらない内に!と文字を打ち込む。
『行けます! 19時でもいいかな?
その頃には用事終わって行けると思うんだけど、何かあったらまた連絡します。』
送信。(早く返信しないとと思ったから、変な文になっちゃったかも…… って、もう既読付いてる)
少しドキドキしながら返信を待つと、
『よかった。無理はしなくていいから、遅れそうだったら連絡して。待ってるから』
風月からの返信を見て、嬉しさで胸が苦しくなった。
『うん。ありがとう。 じゃあ、公園で』
(さっき送られて来た写真にチラッと映ってたけど…風月くんの私服姿か… 楽しみだな)
「Haruちゃん、レコーディング再開するよ」
「はい」
―
「ありがとうございます。お疲れ様でした。」「お疲れ様。またよろしくね」
「はい!よろしくお願いします。では、お先に失礼します」
(これなら19時に間に合うかも!)
スタジオを出て、駆け足で駅に向かう。
(15分前、少し早く着いたか。 …前野はまだ来てないな)
街頭に照らされたベンチに腰掛け、スケッチをしながら泉水を待つ。
少しでも早く着きたくて、駅の階段を駆け足で上がり、公園まで軽く走る。
(間に合った…)
公園に着いてベンチを見ると、楽しそうに、でも真剣な表情でスケッチをしている風月がいた。
(やっぱり、かっこいいなぁ…)
息を整え、ベンチに向かうが風月はスケッチに夢中で気が付かない。
(スケッチってこうやってしてるんだ… ……どうやって声かけよう)
―
スケッチをしていた風月の手が止まったところで声をかける泉水。
「桜樹くん…」
スケッチに集中していて泉水が後ろにいることに全く気が付いていなかった風月は、軽く肩を動かし振り向く。
「待たせちゃってごめんね。 スケッチ集中してたから、邪魔しないようにタイミング伺ってて…」
「…いや、気付かなくてごめん。 つい描くのに夢中になってた… あっ」
隣に置いていたカバンを持ち、泉水に座るように促しながら、スケッチブックと鉛筆をカバンに入れる。
「ありがとう。 その…打ち上げどうだった?」
風月の隣にそっと座り、打ち上げの様子を聞く。
「盛り上がってたよ」
「写真送られて来たんだけど、みんな本当に楽しそうだったね。 そういえば、桜樹くんの私服、初めて見た。」
ブラウンで統一されているゆるめなファッションは、風月の柔らかい雰囲気に合っている。
「似合ってる」(私服かっこいいなぁ)
泉水のニコッと笑う顔を見て、心臓が跳ねた。
(これは…)
泉水の笑顔を見た瞬間、風月は、どうしてこんなに泉水のことが気になるのか、今まで感じていた胸のざわめきや、胸の締め付けは何だったのか、その理由が分かった―。




