同じ気持ち
風月(何て切り出そう…)
泉水(何から話そう…)
お互い口を閉ざしたまま、ただベンチに座る。
話したいことはあるのに、言葉が喉の奥に引っかかって出てこない。
話はしたいが、ただまた一緒に座っているだけでも嬉しかった。
((このまま時間が止まればいいのに…))
そう思い、お互い隣に座る相手に目線を向けると目が合う。
泉水はドクンと胸が大きく高鳴るのを感じ、恥ずかしさから思わず目を逸らす。
風月はそんな泉水から目を逸らすことなく、真っ直ぐ見つめながら口を開く。
「…夏休み、忙しかった?」
無言だった二人の間に、ボソッと風月が切り出した。
俯いていた泉水は、もう一度風月の方を見る。
風月の顔には、少し寂しそうな笑顔が浮かんでいて、泉水はズキッと胸が痛んだ。
「…うん。ちょっと忙しかったかな…」
苦笑いをしながら言うと、
「そっか…」と風月が顔を下に向ける。
「あの…勘違いかもしれないけど、もしかして俺のこと避けてた?」
顔を下に向け、消えそうな声で言う風月を見て、泉水は胸がギュッと締め付けられた。
「え?」
下を向いているので泉水の顔は見えないが、動揺したような声に、胸がギュッと締められるような感覚があり、その次に続く言葉が少し怖くなった。
(やっぱ、聞かない方がよかったかな…)
風月が後悔していると、横から軽く深呼吸をする音が聞こえ、泉水が申し訳なさそうな声で話し始めた。
「その… 正直言うと、学校で噂になった日から少し気まずくて公園に行かなくなってたけど、やっぱり桜樹くんと会って話したいなと思って… 夏休みも何度か行ったんだけど、夜だったから…」
泉水、レコーディングのあとや子供がいないであろう夜に何度か公園に行っていた。
ポツリポツリと言う泉水の言葉を聞いていると、ギュッと締められていた感覚が、ゆっくりと緩んでいった。
(俺と話したいと思ってくれてた? 夏休みも来てた?)
「それに今日、あの公園に行く予定で…」
泉水の声を聞きながら、風月はゆっくりと顔を上げる。
泉水の顔は俯いていて見えないが、長い髪の間から見える耳は赤くなっていた。
そんな泉水を見ると、今度はふわっと温かいもので胸が満たされる。
「よかった。俺も夏休み公園行ったけど、すれ違いだったみたいだね…」
そう言う風月の柔らかい笑顔には、避けられていなかったという安心と、泉水も同じ気持ちでいたという嬉しさで溢れていた。
「これからも、こうして話したいんだけど―」
「わ、私も桜樹くんと話したい!……です」
バッと顔を上げ、風月の言葉にかぶせるように言う泉水の瞳は、真っ直ぐ風月の顔を見ている。
そんな泉水の顔を見て、風月の心臓がトクンと跳ねた―
会うことは出来なかったものの、お互い同じ気持ちでいたということを知った二人。
無言の中、どう切り出そうと躊躇っていたことが嘘のように、二人は時間が経つことも忘れるほど会話が弾み、気づけば辺りは薄暗くなっていた。
ー
「…暗くなってきたね。そろそろ帰ろうか―」
名残惜しいが、ベンチから立ち上がり「また明日ね」と手を振り、泉水が歩き出そうと前を向くと、ベンチに座っていた風月が立ち上がり、
「…あのさ、今度から俺がこの公園に来るよ。 美術室寄る時は遅いかもしれないけど…
それで、行くときは連絡するからさ… 連絡先交換しない?」
「うん!」
風月の思わぬ提案と連絡先交換で、泉水は緊張と嬉しさで胸がいっぱいになり、顔には自然と笑顔が浮かんでいた。
そんな泉水の笑顔を見ながら(言ってよかった)と思う風月。
「ありがと!」
パッと明るく笑う泉水の顔を見て、風月は苦しいとは少し違う、なんだか心地良いような、気恥ずかしいような胸の締め付けを感じた。
(?ー今のは何だ…?)
泉水と一緒にいると、今まで感じたことのない感覚を胸のあたりを襲う。
風月は、泉水の後ろ姿を見送りながら、スマホに映し出されている『前野泉水』の文字を見つめた。




