やっぱり話したい
風月が公園で女の子と会っていたという噂は広がったが、相手も分からないためそれ以上は膨らまなかった。
そして教室での風月の一言が効いたのか、その話題に触れることもなくなり、噂は一日で収まった。
その日以降も風月は変わらず公園のベンチを確かめる。
いつの間にか、泉水がベンチに座っているのを見るだけで嬉しく、いないと寂しく感じるように…そして別の人だとガッカリしている自分がいることに気付いた。
今まで絵を描くことが一番楽しいと思っていたのに、最近では泉水と公園で話をしたり、写真を撮ったりして過ごす時間が不思議と心地よく、楽しいと感じるようになっていた。
それなのに、騒がれたあの日以来、公園に行っても泉水を見ることがなくなった。
(やっぱ、気まずいかな…)
そのまま黙っていたほうが良かったかも、別の言い方があったかもと考えると、胸のあたりがズキッとした。
(もしかして、もう俺と話したくなくなった?)
そして、いつの間にか学校で泉水を目で追うように…
これまで放課後にしか通らなかった公園だったが、もしかしたらと思い、休日や夏休みの間も通った。
しかし、泉水がそこに座っていることはなかった…
…
泉水は、あの日の風月の言葉と声が頭に残ってしまい、意識せずにはいられなかった。
これからどんな顔をすればいいのか、どう接したらいいのかを考えると緊張で空回りしてしまいそうで、風月から距離をとることに…
自分から遠ざかっていたのに、いざ離れると余計に風月のことを考えていた。
本当は会って話をしたかったが、そんな勇気もなく…
そうしているうち夏休みに入ってしまい、歌詞を書いたりレコーディングに行くなどHaruとしての活動で忙しくなってしまった。
ー
夏休み明け、電車で久しぶりに泉水を見かける風月。
久しぶりに泉水の顔を見た瞬間、トクンと鼓動を感じる。
(桜樹くん、髪切ったんだ…)
ホームに着くと、真っ先に風月の姿が目に入った。
夏休み中、一度も会うことがなかった風月を久しぶりに見た瞬間、ドキッと胸が高鳴る。
久しぶりに風月の顔を見ると、話したくなってしまった。
(もしかしたら、桜樹くんはもう話してくれないかもしれないけど…)
―
夏休み明け、一番大きなイベントである文化祭。
「文化祭、うちのクラスはキャンバス作品を展示するってことで、よろしく」
「特に風月!頼んだぞ~」
「なんの絵描く?」「絵じゃなくて、文字描くのもありじゃね?」
「写真貼るとか!」「そしたらさ…」
クラスでの出し物も決まり、皆それぞれ何を作るか早速話し合い、盛り上がる。
「風月の絵はセンターに置く予定だから、頼むぞ~」
帰り支度をしている風月にクラスメイトが声をかける。
(前野はどんな作品を作るんだろう… どんな絵が好きかな…)
なぜかふと、そんなことを考えると、自然と視線が彼女に向いていた―…
(桜樹くんの作品か… 何を描くのかな…
というか私も作品考えないと。どうしようかな…レコーディングもあるから忙しくなりそうだし…)
高校卒業のタイミングで、これまでリリースした曲に新曲をプラスしてアルバムをリリースする予定になっていて、制作期間がちょうど文化祭期間と重なっている。
(ー…こんな状態じゃ、桜樹くんが好きなHaruとしてもよくない気がする…
やっぱり、本格的に忙しくなる前に一度でいいから、桜樹くんと公園で話したい!
よし、今日は公園に行こう!)
そう決心して、泉水は教室を飛び出した。
泉水が教室を出るのを見て、風月も追いかけるように教室を出る。
(避けられているかもしれない… でも…)
いつもは美術室で絵を描いてから帰るが、そのまま駅へ向かった。
ー
学校から駅まで走った泉水。
(家に帰って着替えてから行こう。そして、もし公園で会えたら私から声を掛けよう… あとは…)
決心が揺るがないように、心の準備を念入りにしようと、電車を待ちながらイメージしていると…
「前野」
後ろからずっと聞きたかった声で名前を呼ばれた。
(―…そのパターンは想定していなかった…)
―
隣で並んで歩く風月の顔をチラッと見ながら、さっきのことを思い出す。
…
「前野」
公園で話していたときと同じ、ずっと聞きたかった優しい声で名前を呼ばれた瞬間、胸が高鳴る―
振り向くと、今日一日遠くから見ていた顔が近くにあった。
「急にごめん。少し話したいんだけど、いい?」
これまで勢いで何か行動をすることは、あまり無かった。
(思わず追いかけて声かけたけど、迷惑じゃなかったかな…)
泉水は呼び止められたことも、風月から誘われたことも、夢なんじゃないかと思った…
頭が真っ白になりながらも、何とか「うん」とだけ返事をする。
電車が来て二人で乗る。周りに知り合いはいない。
あの公園は前に見られたので、どこか別のところにしようと、泉水の近所の公園に一緒に向かうことに。
(! 一緒に歩いてるの見られたら、また勘違いされて迷惑をかけるかも… とりあえず眼鏡は外して、髪は下ろしたままで大丈夫かな? あとは…)
電車で一緒の時は、急な展開に考えもしなかったが、泉水は風月と一緒に歩いている状況に、いきなり冷静になった。
風月が泉水が隣にいるのを確認するようにチラッと見ると、泉水は、さっきまで掛けていた眼鏡を外し、髪を触ったりしていた。
(何やってんだろう…?)
駅から公園まで無言になってしまったが、隣で考えごとをしながら表情を変え、謎の行動をしている泉水を見ていると、楽しかった。
泉水は気が付いていなかったが、風月の顔には自然と笑顔が浮かんでいた―




