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13/13

13.釣りをするのだ

「アラタ様ー」

「今行く」

 折りたたみ椅子を二脚持ち、えっちらおっちらと川辺に置く。折りたたみ椅子はキャンプ用だけでなく、バルコニーや庭で使ってもよいものだ。

 もっとも、俺の住むワンルームのバルコニーは狭すぎて折りたたんだ状態の椅子じゃないと置けないという。

 ……。あんな家でも戻れなくなるかもと思うと恋しくなるものだ。もし帰宅できたら引っ越そうかな。今度はバルコニーで折りたたみ椅子に座り缶ビールで祝杯をあげる夢を叶えることにしよう。

 キャンプ用の折りたたみ椅子だが、安物である。カーキ色のビニール製で手置きが左右についていて、右手側にドリンクホルダーがついているものだ。

 お値段は一脚二千円以下とお買い得である。二脚セットで売っていたので一脚は予備にと思って持って来ていたんだよね。お値段的に壊れても惜しくない。耐久性もお値段相当だけど、二脚持っていたら安心である。

「釣り、しないのですか?」

「するよ。これを楽しみにしていたからね」

 椅子を設置して川から背を向けた俺を覗き込むようにして彼女が尋ねてきた。こうして外で釣りができるのも彼女の索敵能力があってのもの、とても感謝している。

 釣りの後は汚れた服を洗ったりもしたいなあ。俺の回答に何を思ったのか、彼女は両手をギュッと握りしめふんすと鼻を鳴らす。

「わたし、いい感じの枝を拾ってきますね」

「いやいや、釣り具はあるよ」

「空間魔法の中にあるんですね!」

「そそ、釣り具の前にやりたいことがあってさ」

 釣りは長期戦になる。稀に秒で釣れることもあるけど、それはそれ。釣り堀じゃないんだから、ゆったりと構えないとね。

 折りたたみ椅子にはドリンクホルダーがついているだろ。釣りをするなら、こいつをちゃんと使えってことさ。

 俺は針を垂らしたらしばらく気になる方なので先に飲み物を準備するスタイルである。

 焦らず、騒がず、余裕をもって。これが大人のスタイルだよ。もし釣れなかったとしたら、岩をぶつけて魚を気絶させる方法もあるが、それじゃあ楽しくないからなるべく避けたい。

「あっつ!」

「だ、大丈夫ですか」

 屋外なのでカセットコンロではなく、固形燃料でお湯を沸かしていた。そんでまあ、コーヒー粉を入れたフィルターへお湯を注いでいたらなかなかお湯が流れていかなくて、つい勢いをつけてしまったら……。お湯が跳ねて手にかかってしまった。

 二人分のコーヒーを淹れ、彼女の分を手渡す。ドリンクホルダーに置いてもこぼれないようにステンレス製のトラベルカップを使った。

 蓋がついていて、飲む時はスライドさせ蓋を開くタイプのものだ。保温能力も高いので、仕事の時に使うにもオススメだ。

 彼女が注がれたコーヒーの香りに目を細めている。

「俺もコーヒーの香りは好きだよ」

「コーヒーというのですか。アラタ様のお国ではよく飲まれているのですか?」

「一般的に飲まれているよ。フォイエ村ではどんなものを飲んでいるの?」

「チャノキの葉を乾燥させて発酵したものをよく飲みます。発酵の具合によって味が変わるんです。わたしは完全発酵させたものが好きです」

 説明をしつつコーヒーに口をつけ、熱かったらしく眉根を寄せるキララ。 

 熱さが分かっている二度目はちょびちょびと舐めるようにして飲んでいた。コーヒーを初めて飲むと苦味で飲めたものじゃない、とか聞くけど彼女の場合は特段問題なさそうだ。

 俺はいつも無糖で飲むので砂糖の用意がない。彼女がこのままでも飲めそうでよかったよ。

 チャノキというやつの葉も同じように苦いんだろうか。

「チャノキってどんな木なんだろ」

「これくらいの緑の葉で、白い花が咲きます」

「う、うーん、わからん」

「一枚でもあればお見せできたのですが」

 キララがゴソゴソと腰のポーチをあさるも、お目当てのものはない様子。彼女は崖から転落したときにムラモの実を入れた袋を紛失している。

 その中にチャノキの葉が入っていたのかも。袋に村から持ってきた食べ物も入っていたみたいだからさ。

 今の彼女が持っているものは腰のポーチの中のものと同じく腰に装着していたダガーだけだ。

 喉に小骨が刺さったようにチャノキのことでしっくりこない俺は、手持ちのお茶や紅茶の葉を出してみた。

「細かく砕いたものだけど、香りでわからないかな?」

「こっちがチャノキを発酵させたものに近いと思います。飲んでみないと……ですが」

「お、おお。紅茶に近いんだ。あとで淹れるよ」

「楽しみです!」

 コーヒーを淹れたばかりなので、飲み終わった後に事実確認のお楽しみってことで。

 葉を完全発酵させたものが紅茶に近いってことでほぼ確定した。地球にあるものと同じならチャノキは茶ノ木のことだ。

 発酵させないものはお茶になって、半発酵でウーロン茶、完全発酵で紅茶だっけか。記憶があいまいなので間違っているかも。

 茶ノ木と一言でいっても長い歴史の中で様々な品種があり、品種によって紅茶に向くものがウーロン茶に向くものがある。

 そもそも、どのように茶葉を発酵させるのかも知らないしなあ……。

「他にもよく飲むものってあるの?」

「お水か白湯が多いです。他は果実を絞って風味をつけたりもします」

 などと飲み物談義をしつつ、釣り竿をウエストポーチから取り出す。

 手に持ち様子を確かめるように軽く振るう。うん、問題なし。釣り具もチート化しているんだろうけど、見た目からじゃ分からないな。

 とんでもなく耐久が強化されていて大物でも釣り上げることができるようになっていたりするのかも。持ってきていた釣り具は湖での30センチくらいまでの魚を釣るためのものだ。

 通常この釣り具でメートル級の魚を釣り上げることは難しい。下手したら釣り竿が折れる。

「それは釣り竿ですか?」

「うん、仕掛けを作るから待っててね」

「このような釣り竿があるんですね、ツルツルしていてしなる、のですが木じゃないんですよね?」

「木を加工したもの……だったような」

 釣り竿はカーボン製だったと思う。カーボンって炭素繊維のことだっけ。

 化学繊維ぽいやつなら、石油な気がする。石油は元が木だったとか聞くので当たらずとも遠からず、か。

 ウキを付けて、針と錘をセットしてっと。あとは餌だな。

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