12.昨日はお楽しみでしたね
※第11話がありませんが、こちらが10話の続きとなります。元々第一話がプロローグになっており、投稿ミスを防ぐため、本話以降話数がズレます。ご了承ください!では、本編をどうぞ。
キララに魔物の警戒をしてもらいつつ隘路を進むも、思った以上に隘路が長く、ようやく隘路を抜けた頃には夕焼け空となっていた。
怪我をした彼女をポップアップテントに入れた時から彼女の前で無防備に寝ることは覚悟している。可愛いウサギ耳の女の子と一つ屋根の下なんて羨ましい、と思うかもしれないが、男女は関係ないのだ。ポップアップテントの中にいれば外からのあらゆる攻撃から守ってくれる。しかし、中はそうじゃないだろ?
寝ている間にポーチを盗まれたり、最悪刺されたりってこともあるんだ。異世界の治安が不明で、見知らぬ人と夜を過ごす危険性は高い。
といっても、疑い始めたらキリがない。怪我をした彼女を助けた時から、すぐに動くことができるようになるなんて思ってなかったし。疑うくらいなら完全に信じることを決めたのだ。そうじゃなきゃ、治療をしようなんて思わないぞ。いくら俺がお人よしだといえども……。
そんなこんなで三日目の朝を迎えた。さんざ警戒だ、なんて考えていながら横になったら考え事をするまでもなく寝てしまった。キララも俺に襲われる、みたいな警戒した様子は微塵たりともない様子。それどころか、俺より先に横になってスヤスヤ寝息を立て始めたくらいである。
彼女の様子を見るに案外治安が良いのかもな、異世界。いや、フォイエ村辺りは。
この辺りは警戒すべき魔物や猛獣が多いとかで村人が協力し合う風習が根付いているのかも。キララだけが特別な可能性もあるが、その時はその時である。他の人については彼女の反応を見ながらどうするか決めればいい。
「んー」
起きたあと伸びをするこの瞬間は生きてるって感じがして好きだ。
「ふああ」
あ、起こしてしまったかも。キララがモゾモゾと寝袋から出てきた。
寝袋は一つしかないのだけど、怪我をしているからと彼女に寝袋を使ってもらったんだ。俺は予備の毛布があるので、特に問題はない。
ほら、俺は真冬のキャンプを慣行していたわけだろ。それで朝起きたら異世界に来ていたから追加の毛布をもっていたんだよね。
とんでもなく寒くて毛布一枚追加するだけじゃ足らないかも、と心配していたが、意外や意外、寝袋だけで事足りた。ポップアップテントの窓を開けたままにしていてどの口が言うだけど。
そんな毛布が日の目を見たのだから、何が起こるか分からないよな。
「おはようございます!」
キララは畳んだウサギ耳をピンとさせ、元気よく朝の挨拶をする。俺と違って目覚めが早い。採集で夜営をすることがあるからなのかな?
ポップアップテントなしで外で寝る……のは怖すぎだろ。それで彼女は今まで無事なのだから、彼女の索敵能力は信じるに値するってものだ。
「おはよう。怪我の様子はどう?」
「ずっと痛みはないです。膝もちゃんと力が入ります!」
座ったまま脚を伸ばし、折り曲げコンコンと自分の膝を叩くキララ。
ウサギ族って高く跳べちゃったりするのかなあ。耳がウサギなだけでウサギのようにぴょんぴょん跳ねる、と考えるのは安易すぎか。
「怪我を治療した初日からずっと、痛みもないんだよね?」
はい、と両手を握りしめ笑顔を浮かべる彼女に向け俺もつられて笑う。
朝はフルーツ味とメープル味の栄養補助食品を食べて済ました。料理するのって茹でるだけ、とかでも案外めんどくさいんだよね。
そうそう、キララはフルーツ味がお好みだった様子。フォイエ村ではを採取に出かける時に保存食としてクッキーを持つことが多いのだって。栄養補助食品はクッキーに似ているのもだったので彼女のお口にも合った。村のクッキーはもっと硬いらしいけどね。
「よし、出発しよう」
「はい!」
ポップアップテントをウエストポーチに収納し、リュックを背負い出発する。
収納のたびにひっくり返りそうなほど驚いていた彼女もさすがに麻痺してきたようでなにより。
途中水分補給を挟みながら歩くこと1時間半くらいで川の流れる音が聞こえてきた。
遠いのか近いのか微妙な距離だけど、昨日は川まで行かず休んでいて正解だったと思う。というのは、この辺りはうっそうとしていて周囲を警戒するのが難しいんだよね。
木の後ろや藪の中に潜まれて待ち伏せされたら厳しいんだよな。素人じゃ隠れている猛獣の発見は困難だ。
危険度が高くなる場所は明るいうちに通った方がよい。明るい方が暗いよりよく見えるからね。当たり前のことを自慢気に説明するもんじゃないな……。
さあ、川が見えてきたぞ。今日は川のほとりでポップアップテントを張ろうじゃあないか。といっても、ウエストポーチからポップアップテントを取り出すだけの簡単なお仕事だけどね。
ポップアップテントを置きながら傍らにいるキララに問いかける。
「ここから村までも距離があるの?」
「幌があっという間に! 何度見ても凄いです!」
俺の問いかけと彼女の驚く声はほぼ同時だった。あれ、もう驚きが麻痺してたんじゃなかったのか。
よおし、待望の川傍でのキャンプだ。楽しむぞお。
◇◇◇
川のほとりでキャンプ。なんて贅沢な場所なのだ。
ここまで歩んできた道と同じく、人の手は全く入っていない。川幅はだいたい10メートルほどで渡ろうと思えば向こう岸に行くことができるくらいだった。
流れはそれなりで、山間の川でよく見るくらいの流量である。一番深いところまでは実際に入ってみなきゃわからないけど、腰上まではくることがないくらいだと思う。
俺のいる側は川原になっている部分があって、煮炊きをするによさそうだ。向こう岸は大きな岩がゴロゴロしていて草木に飲み込まれそうになっている。
ポップアップテントは細かい砂利の川原と雑草が生える土の境目あたりに設置した。
砂利の上にポップアップテントを置くと床が硬くて居心地が悪くなる、と思うだろ? このチート化したポップアップテントはそうじゃあない。
地面がどのような状態であってもポップアップテントの床は一定の硬さになる。尖った箇所があっても、ポップアップテントの床が破けたりすることもなく、座った時にはまっ平になっているのだ。
細かいことだが、寝っ転がったりしているとすぐに気が付く。
常に床が一定の固さで平になる機能は非常にありがたいものだ。ポップアップテントの居住性能が各段にあがる。どのキャンプ道具も使い勝手が格段によくなっているのだ。
コッヘルとかも気が付かないだけで、何らかの便利機能が追加されている……たぶん。




