第七話 出会い編の舞台裏 策士コリンの憂鬱 ①
次の章を考えていて出会い編の情報不足を感じたので、追加で七話をコリン視点で書いてみました。週一位のペースで四・五回に分けて投稿していきたいと考えています。
(僕はテット村のコリン。
テット村は僕の父さんが村長をしている小さな村だ。
三角屋根が多いこの村は、魔獣の襲撃が比較的少ないと言われている。
それは昔聖女によって浄化された三角屋根の教会を模して作られた家々によって護られているからだと言う。
この村の一番大きな三角屋根の家に住んでいる僕。
そりゃぁ村長の息子だし?恵まれていると思っている。
魔術は使えないけど、父さん似で顔はかなり整っているし。
今でもモテるけど、十五も過ぎればきっとこの村の女たちは僕のこと放っておかないと思う。
……欠点があるとすれば、……この性格と思ったことをそのまま言ってしまうこの口だろうか)
コリンはそんなことを思いながら村近くの森を歩く。
(兄ちゃんは弟のように接してくれる)
時に優しく。時に厳しく。
村長の三男坊であるコリンに、村の者は皆優しい。
流石のコリンも年嵩の者や目上の者がいれば発言には多少気を遣うが、村の年寄りはコリンが上から目線で発言しても孫と接するように優しく往なす為、コリンは反省しないのである。
たまに領主様や他の領地からお貴族様が視察に来たりすることもあるが、彼らへの対応は主に村長であるコリンの父や兄たちが行う。
彼らは末っ子であるコリンのことを兎に角甘やかし、そういう対応をさせるようなことは全くなかった。
父や兄と比べてコリンに厳しく接していた母は三年前に流行病で亡くなった。
そこからコリンは箍が外れたように村の者たちに偉そうな態度をするようになったのである。
一年前、冒険者としてこの村を訪れたラウルは初対面のコリンを一喝した。
その時コリンは同い年で大人しい村の少年を躾と称して虐めていた。
井戸で水汲みをしていた少年から桶ごと井戸水を奪い、彼にかけたのだ。
びしょ濡れの少年は怯えたようにコリンを見上げていた。
「君は友だちの作り方から勉強するべきだな!」
ラウルにそう言われて初めてコリンは気づいた。
その時のコリンは無自覚だったのだ。
その大人しい少年が、すごく勉強ができること。
彼の周りにはいつも人が溢れていること。
彼がとても優しくて、コリンに対しても他の人に接するのと変わりなく接してくれること。
そして自分自身がそんな彼に嫉妬していることに。
「コリンはコリンだろ。お前にはお前にしかできないことがある。他と比べる必要なんてないんだ」
ラウルの言葉に僕は目が覚めたような気がした。
そこに気付いてからコリンの行動は早かった。
少年にはすぐに謝罪して友だちになってほしいとお願いした。彼も快く受け入れてくれた。
そして村の人たちへの接し方も気を付けるようにした。最初のうちは皆驚いていたけど、今まで通り優しく接してくれている。たまに悪態もついてくれたりすることもちょっと嬉しい。
そういうことに気づかせてくれたラウルとはこの一年ちょっとの間にコリンにとっては身内以上に親しい間柄になっていた。
だからこそ彼の体質を気遣い、いつか助けてあげたいと思っていたのである。
*
コリンは近くの森にいた。
暇つぶしに得意の毒キノコ取りをしようと思って森に入ったが、今朝取ったばかりで夕方にそう沢山は取れる訳もなく。
毒キノコは、村で最年長のお婆婆に浄化薬で煮てもらうと毒がなくなって食用になる。
他では毒キノコをそんな風に使わないらしいけど、この村ではよく食卓に登るからきっとお婆婆にしかできないことなんだとコリンは思っている。
この毒がなくなって食用にしたキノコを僕は小遣い稼ぎに市場に卸していた。
遊ぶには金がいる。
村長の息子であるコリンも、あまり自由になる小遣いは多くない。
(流石お婆婆。ほんと有難いよな)
そんなことを思いながら毒キノコを探していたら、ものすごい音が聞こえた。
ぐぎゅるぎゅるぎゅるる
獣が唸るような音。
コリンが探るように茂みの中を進むと、茂みを抜けた先に気配を感じる。
(魔物?……じゃないといいんだけど……)
懐に隠してある『爆風玉』にソッと触れ、ちゃんとそこにあることを確認した後、茂みからそろりと顔を出す。視線を上げれば人が棒状のものを構える影が見えた。
(人だ!わ、殴られる?!)
魔物じゃなくてよかったと思う反面、殴られそうになっている状況に慌てるが、あれ?とある疑問がコリンの頭を過ぎる。
(さっきの音は何の音だったんだろう?)
だがそんな疑問を口にする間はなかった。
コリンはそれを口にすることなく飲み込む。
そして咄嗟に後退りして叫んだ。
「ぷはぁ。はっ、やめて!僕何もしないから!」
そして草むらから飛び出して、目の前で杖を構えている女性に手を突き出す。
目の前の女性はローブを羽織り、杖を持って身構えている。
(この人……この人絶対魔術師だ!)
女性が杖を下ろしたのを見て、ホッと地面にしゃがみ込みながらも、笑みが漏れる。
それはそう。コリンは一目見て思ったのだ。
この人を兄ちゃんに合わせたらきっと色々と考えてくれるんじゃないか。
彼の体質についても何か知っているかも知れないし、知らなかったとしても励ましてくれるかも知れない。
そう感じさせる何かをコリンは女性に感じていた。
(こうなったらすぐにでも連れて行かなきゃ。でもどうしたら……)
ふとコリンはラウルのことを思い浮かべる。
火傷するほどの熱を左手に持ち、誰も触れる事が出来ない。
自分でも上手く扱う事が出来ず、初めてこの村を訪ねて来た時にも困ったようにしていたことがよくあった。
(兄ちゃん自身はこの体質は治らないものと諦めているけど……。治らないなら仕方がない。でも体質自体が治らなくても、楽しい人生を兄ちゃんには歩んでほしい)
なんだかんだ言って、人のいいラウルは、左手を庇いながら村を魔物や魔獣から守り、村の年寄りの手伝いを進んでやっていた。
そんなラウルを上手く使ってる村人がいるのもコリンは知ってる。
(でも僕はそんなのいやなんだ。兄ちゃんには自身が思うように生きてほしい。彼女ならこの兄ちゃんの状態を何とかしてくれるかも知れない!)
コリンは決心した。
だけど、その決心を悟られてはいけない。
あくまでも偶然そういう状況になったかのように連れて行かなければ。
(兄ちゃんにそれがバレれば変に遠慮してしまうかも知れないし、彼女にも避けられてしまうかも知れない)
「はぁあ。びっくりしたぁ。……その杖……お姉ちゃん、魔術師なの?」
確信を持って彼女を魔術師だと思っているコリンだったが、ここはすっ惚けて尋ねる。
「……私は……ソニア。……まぁそう魔術師よ。君は?こんなところで何してたの?」
(へぇ、ソニアさんって言うんだ。思ったよりも女性的な名前だったな)
と思いながら、
「僕はコリン。おつかいで隣ん家まで届け物した帰りだよ」
なんてさらりと嘘を吐く。
真面目ないい子の印象を持たれれば、僕のお願いもすんなり聞いてくれるかも知れない。
そんな打算から毒キノコ取りがおつかいになった。
(そろそろ兄ちゃんを何とかしてあげたくて。ソニアさん、上手く騙されてくださいね)
コリンは人好きのする笑みを浮かべた。
暫く二人で話せば、作戦通りの言葉が彼女の口から導き出される。
「とりあえずさ、君一人だと心配だから。村まで一緒に行くよ?」
(そう!その言葉、待ってたよー)
コリンは心の中でガッツポーズをする。
そして無邪気な笑顔を作り、
「ありがとう!大丈夫とは言ったけど、実はちょっと不安だったんだ!」
と、無邪気にはしゃいだ。




