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第二話 昔語り


 確かに後ろのテーブルで談笑するあまり柄の良くない男性たちが会話の中でイルマの名前を度々口にしていた。


「イルマってお前の女だろ?いい女だよなぁ?」

「そうだろ?今回のことで手柄立てたら一緒になろうと思ってんだ」

「じゃああの子どももさっさと売っちまわないとな」

 彼らは昼間から酒盛りして大騒ぎだ。


(イルマの付き合っている人かしら?あまり彼女のタイプではなさそうなんだけど?)

 イルマはとにかく顔がいい男性が好きだ。顔さえ良ければ、男気なんて全くなくてもいいらしい。


 だが今ソニアの後ろにいる男たちは溢れ出るほどの男気はあるが、いわゆるイイ男ではない。

 そして学生時代にイルマから聞いていた彼女のタイプでは全くないのだ。


(好みが変わったとか?)

 そう思っている間に先ほど注文した料理が次々に運ばれて来てテーブルに載せられていく。

 ソニアはとりあえず彼らのことを気にしないことにして料理を堪能することにした。

 まずは前菜の盛り合わせ。チーズと生ハム、ブラックオリーブや薄切りにされた野菜が小分けにして盛られている。

 ソニアは小分けにされた一つを自分の皿に載せ、すぐに口に運んだ。

「んーっ!美味しい!生ハム最高」

「ソニアは本当に食べるのが好きだな。確かコリンのところでもローストビーフ齧り付いてた」

「一番は肉です!肉が好きなんですよ」

 ただ、好きなだけではない。ソニアの体に必要だから食べている。今はまだラウルにそこまでのことは伝える必要がないから言わないが。

 

 ソニアはテーブルに載ったビステッカ――骨付きの塊肉――を切り分け、ラウルと自分の皿に盛っていく。

 そして自分の皿に盛られたそれを少し小さめに切り分け、テーの口に運ぶ。

 テーブルの上でテーは両方の前足で器用に切り分けられた肉塊を押さえ、齧り付いて引きちぎる。そうして口に入った肉をクッチャクッチャと小さな咀嚼音を立てながら食べている。


 その様子を一通り見ていたラウルは少しずつビステッカを口にするソニアを一瞥すると、ペスカトーレを頬張った。


「そう言えばソニアは学校を卒業したばかりだと言っていたが、何歳なんだ?あ、こういうことを女性に聞くのは失礼なんだろうが……」

「いえ?大丈夫ですよ。十七歳です。でもラウルも同じくらいでしょう?」

「は?俺、二十五だよ。君から見たらもうオジサンだろ?」

 その言葉にソニアは吃驚する。

「えぇ?!……童顔ですねぇ」


 初対面で同い年くらいの印象を持っていたのでソニアは内心衝撃を受けていた。

 ここに来るまで、いやコリンから紹介された時から同い年くらいだと思っていた。

(若い……いや、若すぎる。肌艶がいい所為かしら?無精髭が生えていないから?清潔感がある所為かしら?初々しく見えてしまうのは)

 ラウルがペスカトーレを頬張る姿を見つめながら、ソニアは恨めしそうに前菜の生ハムをチーズに巻いて口に放り込んだ。

 

 気がつけば、後ろのテーブルにいた男性たちは店の外に出てしまっていたようで姿は見えなくなっていた。



 食堂を出てサーカスの天幕の傍まで来ると、イルマの姿が視界に入ってきた。

 イルマはサーカスの天幕からちょうど出てきたところだった。

「あら。相変わらず時間には正確ねー」

「数字の正確さは魔術でも必要ですので」

 ソニアが澄まして言うとイルマはニヤリと笑った。


 

 サーカス団の天幕の傍近く、イルマに連れられて小さな喫茶店に入ると窓際の四人がけの席へ案内された。ソニア、ラウル、そしてラウルの膝の上にテーが座り、ソニアの向かいにイルマが座った。

 

 注文した飲み物と茶菓子が運ばれてくる。

 イルマは昔からコテコテに甘く濃い珈琲をよく飲んでいて、今日もそれだ。ソニアも甘い珈琲は飲むが珈琲自体は薄めが好みだし、今日は紅茶にした。扉のところに今日のおすすめとして貼ってあった茶葉で入れてもらった。

 ラウルは何を注文したのかと言えば、運ばれてきた飲み物は意外にも果実水だった。

(へぇ?意外!)

 心の中でソニアは思わず突っ込んだが、きっとラウルはあまり細かいことに拘らないタイプなんだろうと納得した。


 それが表情に出ていたのだろうか。

「あんたはほんと相変わらずみたいね」

 イルマは薄笑いを浮かべ、ため息を吐いた。

「え?どういうところが?」

 ソニアがキョトンとすると

「その自分で勝手に決め付けて、それが正しいと思い込むところかな?」

 とイルマはふふっと笑った。

 その笑みはイルマお得意の笑みだ。

 バレてるよとか、バレちゃったかという意味合いの。


 茶菓子はアマレッティだった。甘くて苦い。

「懐かしいわね」

 イルマがそれを手に取り口にした。

 ソニアも、そうねと呟く。

 

 果実水を手にしていたラウルは暫くそれを見つめていた後、二人のやりとりを静かに聞いていた。

 

 この二人の間には何か不思議な()があるな。ラウルはそう思った。

 余程親しい、己の内面をお互いに隅々まで理解しているかのような。


「二人は学園時代の友人だと聞いたけど、どう言う間柄なんだ?ただのクラスメイトの割にはだいぶ親しそうだけど」

 ラウルが問いかけると、二人は顔を見合わせてアッハハと大きな声で笑った。


「そうね。戦友で心友で……ライバル?」

「ふふ。そうね。私が作ってきたアマレッティを二人で学園の屋上に上がる階段の隅で食べたわ。虐められっ子同士ってところかしら」

「あと私が愛読してる魔術書の著者だから作者と読者……よね?」

 にこにこと微笑むソニアに、イルマはムッとして応える。

「あれは!……ソニアの為だけに書いたものだから作者って訳じゃ……」

 イルマは勢いよく口を開いたが、途中からその勢いも衰え口籠り俯いた。その表情は拗ねた子どものようだ。

 それにソニアも照れたようにはにかんでいる。

「ソニアの為?」

 二人の様子にたまらずラウルが尋ねた。

 それに応えたのはソニアだった。

「私たち本当に虐められっ子で……」

 ソニアがそう話し始めた時だった。


 喫茶店の外がザワザワと賑やかになり、悲鳴も聞こえる。

「天幕の方で魔獣が暴れているらしい!誰か!加勢してくれ!」

 喫茶店に駆け込んできた中年の男性が叫んだ。

 

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