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第一話 懐かしき学友

第二章 旅路編スタートします。

こちらも週1ペースで更新していきたいと思っていますが、途中止まることもあるかも知れません。

よろしくお願いします。


「天幕の方で魔獣が暴れているらしい!誰か!加勢してくれ!」

 ソニアたちがお茶をしていた喫茶店に慌てて駆け込んできた中年の男性がそう叫んだ。


(何が起きたの?)

 ソニアたちが男性についてサーカス団の天幕に大急ぎで駆けつけた。入り口の幕をまくり、中に入ればサーカス団で飼い慣らしているはずの魔獣フェンリルの子どもが激しく暴れていた。


 その時その場にいたソニアとラウルとテー、そしてソニアの学友イルマの三人と一匹はフェンリルの子どもと対峙した。


 フェンリルの子どもは、子どもと言えどかなり凶暴そうでグルルとこちらを威嚇している。


 このアンドレアサーカス団は国内最大級のサーカスで国内を巡回していて、ここアクリュの街にも毎年この時期に来る為、名物として有名になっている。


(このサーカス団が飼っている魔獣が暴れるなんて。何かおかしい)

 ソニアは他の都市でこのサーカス団の公演を観覧したことがある。

 このサーカス団の魔獣を使った曲芸は沢山あって、どれも丁寧に魔獣を仕込んでいることが分かるし、とても細部まで拘っていた。飼育方法にも何かここ特有のやり方があるんだろうと。

 だからソニアは不審に思った。それはラウルも同様のようでチラリと彼女を見、頷く。


 フェンリルの子どもには首輪がついていて、それにはロープが付いている。飼育係はそのロープを掴んでいたが、フェンリルの子どもが咆哮を上げるとその勢いで彼は吹き飛ばされた。

 ソニアたちも踏ん張って耐える。


(そもそもどうしてこんなことになったのかしら。何か引っ掛かるのよね。何だったかしら。よく考えてみて?)

ソニアは丁寧に自分の記憶を手繰った。


***

 

 ソニアとラウル、テーの二人と一匹はテット村を出発した後、街道沿いを歩き、サクロの森で一晩の野宿を経て、アクリュの街を訪れていた。

 

 サクロの森は、魔獣が出現しないと言われている神聖な森である。

 ここでの野宿は「皆んなが安心して一緒に眠れるだろ?」というラウルの提案により実現した。

 

 この提案、ソニアが『未婚の男女が二人っきり(二人と一匹だが)で一緒に眠るという事自体がよろしくないことだ』ということに全く気づいていないから成立している。

 一応貴族の出であるソニアだったが、エルアリア王国では社交界デビューは十五歳。ソニアは十三歳になる年にクトール国に留学した為エルアリアではデビューしていないし、クトールでも諸事情によりデビューはしていない。その為、貴族としての常識をあまり学んでおらず、この手の知識に疎かったのである。


 まぁラウル自身もソニアと二人っきり(しつこいようだが二人と一匹)で旅をする以上は無闇矢鱈に手を出そう等とは思っていないし、手を出して気まずくなるのも憚られるので全くと言っていいほどその手のことに興味を示さないようにしている。

 が、ソニアを女性として意識していないかと言われれば答えは否なのである。


 こうして二人と一匹でいても、テーはソニアの肩に乗って白いもふもふのしっぽを彼女の首に巻き、静かに耳を澄ましている。

 

 アクリュはこの辺りでは比較的大きな街で、定期的にサーカス団が訪れるという賑やかな都市として有名だ。


「わぁ!人が多いですね」

 人混みが苦手な人は多いが、類に漏れずその一人であるソニアは少し困った表情をしながらラウルを見上げる。

「そうだな。ここは壁で囲まれているから、サーカス団が来ていなくても人は多いな。いつもの事なんだろう」

 

 街を取り囲み農村地帯と切り分けるように聳える市壁は、攻撃魔法が扱えない人々にとっては安心安全の象徴だ。

 北と南に二つある門のうち南門を九時ごろに潜り、西側にある広場にあるサーカス団の天幕の入り口前を通り過ぎる。

 入り口前にはサーカス団を一目見ようと行列が出来ている。

 

「え……ソニア?」

 見ていた行列から自分を呼ぶ声がする。

 ソニアがキョロキョロとその声の方を探せば行列の中に見知った顔を見つけた。

「イ、イルマ?」

 学生時代の友人、イルマ・コッポラである。彼女とは学生寮の同室でお互いの事をよく知っている。

 彼女は平民だが、学園で貴族の令嬢や令息に失礼な態度を取る事があってもあまり咎められる事がない。

 それはもちろん彼女が優秀であるからに他ならないのだが、多分彼女に愛嬌があって屈託のない態度に皆好感を持っている所為もあるだろう。

 にしてもだ。

 

(うわぁ。こんなところで遭うなんて!)

 

 この場合の「うわぁ」は、嬉しい悲鳴ではない。やばいと言う意味を含んだ「うわぁ」だ。

 イルマは口から先に生まれてきたかのような口達者な友人で、ソニアは彼女に口で勝った事はない。


「ひ……久しぶ……」

「ちょっとソニア、こんなイケメンと一緒だなんて!あんたも隅に置けないじゃない?あなた名前は?それにソニアのどこが好きで一緒にいるわけ?」

「え、待って待って!わ、わ、何言ってんの!違うから!」

 矢継ぎ早に問いかけてくるイルマに、慌ててたソニアは彼女の口を両手で塞いで静止する。手に持っていた杖なんてそっちのけ。杖はラウルの足元に転がっている。

 ラウルはその杖をしゃがんで拾うと、立ち上がってから穏やかに微笑んだ。

 

 そういえば彼は平民なんだろうか。彼は貴族とのような態度を露骨にはしてはいなかったが、逆に感情を露わにする事もなかったので貴族だと言われれば素直にそう思える、とソニアは思う。

 

「彼はラウル。行き先が同じ方向だったから同行してただけなのよ?」

 ソニアがそう言えば、言われたイルマも紹介されたラウルも何だか不満げだ。


 だって彼の呪いを解く方法を見つけたいという本当の理由を、彼の許可を得ずに言う訳にはいかない。

 本当の理由を言わないまでも出来るだけ嘘はつかないようにして、ラウルが私に好意を持っているかのような誤解を解かなくては。


 ソニアは自分で自分に気合を入れ、再び口を開く。


「そう、なの。ラウルはラウルで旅をする理由があるのよ」

「へぇ」

 イルマは胡乱げな視線をこちらに送り、にこやかにラウルに微笑んだ。


「で、こちらがイルマ。学生時代の同級生で寮で同室だったの。こう見えてすごく優秀で、」

「こう見えて?」

「あぅ、だってよくしゃべ」

「あんたねぇ」

 口を開けば途中で遮られて最後まで言わせて貰えない。

「イルマぁ」

 イルマには勝てないのだ。


「ふふ。ソニアも彼女の前では形無しなんだな?」

「そうかも」

 ソニアは肩を竦めた。



 イルマはサーカス団の一員である恋人と約束があると言う事だったので、午後の二時頃にここで落ち合う約束をしてその場を離れた。


 この街を経由して、国境まではあと二週間くらいかかるだろうか。

 ここで一日過ごしたところで大きく影響はしないだろう。


「イルマと午後会う事になったから、今日はここで泊まる事にした方がいいかしら?」

「そうだな。いくらサクロの森は魔獣が出にくいとは言え、安全とは言えないしな。人間だって悪い奴はいる。……確かここには宿屋が二件あったはず。安いのと高いのどっちがいい?」


 ソニアは少し考えてから眉を顰めた。

「高いのっていくらよ?」

「一万ルー」

「!ちなみに安いのは?」

「一千ルー」

「やっす」

「ただ安い方は部屋のドアに鍵が付いていない。空き部屋にシングルベッドが置いてあるだけだ。鍵をかけるような生活魔術や結界の魔術を使えば問題ないが、使わないなら止めておいた方がいいよ」

「そう?」

「正直なところここは賑やかでいいが、治安はあまりよくない。もしかしたら安い方にする位ならサクロの森にした方がましかもしれないな」


 そうかーと思いながら、ソニアは考える。

(確かに宿に泊まるとなればラウルと部屋は別室だろう。そうなると私の部屋に物取り等が押し入ってきた時に私は防戦できるだろうか。まぁ、結界の詩を詠えるからそもそも物取りが押し入る事ができないだろうが。たぶん、ラウルは自分がそばにいない事を心配しているんではないだろうか。うん、優しいな)


 そう考えたところで、あれっとソニアは思う。

(結界の詩を詠えることラウルに話したっけ?どうだったかな。でもまぁこれが詠えるんだから――)

 

「安い方でいいんでは?」

「は?」

「えぇっと、私結界張れます」

「……あぁ、そうなのか」

 彼は少しホッとした表情をして安宿への宿泊を了承してくれた。


 だが実はこの決断、ラウルは後々反省することになる。

 今はまだ全く気づいてはいないのだが。


 その後ソニアはその安宿をとり、部屋に荷物を置いてくるとそこにしっかり結界を張る為ラウルに詩を披露した。

 

 そしてラウルと昼食を食べる為にサーカス団の天幕近くの食堂に入った。その食堂はサーカス団の団員もよく来るようで、変わった衣装の客が賑やかに食事を楽しんでいる。

 

 テーブルについて二人も周りの客と同じように食事を注文することにした。ラウルが任せてくれたのでソニアはメニューを確認する。この店は大皿料理が自慢の店らしい。

 ソニアはホールの女性店員に皆んなで取り分けて食べられるように前菜の盛り合わせの他にペスカトーレとビステッカを注文した。

 

「?」

「どうした?」

 ソニアが不意にキョロリと周りを見渡したのを不審に思ったのかラウルが尋ねる。


「いえ。イルマの名前を呼ぶ声が聞こえた気がしたから……」


 確かに後ろのテーブルで談笑するあまり柄の良くない男性たちは会話の中でイルマの名前を度々口にしていた。

 

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