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第七話 出会い編の舞台裏 策士コリンの憂鬱 ④

第七話の四つ目のお話です。


 翌朝、コリンはソニアとラウルの為にお弁当を作り、近くの道具屋でポーションを購入した。

(まだ兄ちゃんはソニアさんに話はしてないみたいだったけど、お弁当は兄ちゃんの分も渡しておいて問題ないよね)

 

 今日の昼用のお弁当と保存食。そして体力回復用と魔力回復用のポーションをそれぞれ纏めて置く。

(結構な量になったけど、兄ちゃんと二人なら大丈夫かな)


 コリンはソニアにこれらを渡してお礼とお願いをするつもりだ。

(兄ちゃんみたいなお荷物、ソニアさんにとっては本当に荷物でしかないかも知れないけど、僕にとってはもう一人の兄のような気持ちで接していた。リョカ兄たちとは違って僕とは歳は十五も離れているのに僕よりよっぽど手が掛かって幼い時がある。それはきっとあの左手の呪いのせいだ)

 そう今ならわかる。


 呪いは成長を遅らせる、とコリンは何かの絵本で読んだことがあった。

 それは身長であったり、心であったり、人それぞれだ。

(兄ちゃんは二十五歳だけど、呪いの所為で心の成長がまだ体の成長に追いついていないんだ)

 確信はないけど。でもソニアから聞いた話だけでその結論に達することはできた。


(やっぱり兄ちゃんはソニアさんと共に旅に出るべきだ)

 ラウル自身にその思いがなくともコリンはラウルを送り出すつもりだった。

 

 それはもちろん呪いのことを知った所為もあるがそれより以前から考えていたのだ。

 兄ちゃんはずっとここにいていい人ではないと。

 元々冒険者であった訳だし、いずれはいなくなってしまう存在だと。

 

 けれど同行者がいれば、その同行者が現役の旅人であったら、それはすぐに現実のものとなる。


(寂しいけど、仕方ないよね。兄ちゃんはずっとこの村にいるような人じゃなかったんだ。だから――)


 コリンがお弁当やポーションを纏めた袋をキッチンから持って出るとちょうどソニアと鉢合わせた。


「あぁソニアさん。ちょうど話したいことがあったんです」

 コリンはソニアを自室に引き入れるとソファに座らせる。

 

 そして向かいにコリンも座り、テーブルの上に置いた袋をソニアに差し出した。

「ソニアさん。これ僕の作ったお弁当なんだけど、良かったら持ってって?」

「コリンが作ったの!こんなに?!すごいですね」

「ラウル兄ちゃんのこと、報酬もなにも準備してなかったので。ただのお願いに色々とありがとうございました」

「えぇぇ?ただのなんて――。ラウルさんにとってはもちろん大変なことだし、コリンにとっても大事なことだったはず。でも私がしたことは大したことではないんですよ?」

 ソニアは吃驚して狼狽えるがコリンからのお礼の言葉にひとまず納得して手渡されたものを素直に受け取る。


 そしてコリンは気になっていた昨日のことをソニアに尋ねた。

「……昨日兄ちゃんとは何か話した?」

 聞いてはいたが敢えてそこには触れず、ソニアに尋ねる。

 それはコリンがソニアの言葉でソニアがどう感じたのか聞きたかったからだ。

 

 するとソニアは、「あ、はい」と応えた後、少しゴニョゴニョと歯切れが悪そうに応えた。

「えぇっと。お祝いの最中に話をしたんです。……今日ここを発つことを伝えたんですけど。気分を悪くしたようで。それしか話せてないんですよね。もう少し話せたら良かったんですけど……」

 落ち着かなそうにソワソワと髪をいじっている様子は少し緊張しているように見える。

 それは話している相手である僕がそこまで親しい間柄ではないからだろうか。それとも話している内容の所為だろうか。

 どちらにしてもコリンには、ソニアがラウルとちゃんと話せていないことを少し残念に思っているように見えた。

(少し彼女に期待してもいいのかな?)

 

「もし、ラウル兄ちゃんが一緒に行きたいと言ったら旅に同行してあげて欲しい」

 コリンは必死にソニアを見つめる。

 

 ソニアは驚いた表情をしたが、笑みをこぼして言う。

「そんなことある訳ないと思うけど。もしね、もし彼がそう言ったら」

 ソニアはしっかりと頷いた。

 

 ソニアは一旦部屋に戻り荷物を纏めて来ると言うのでソニアのことは後で玄関で見送ることを約束した。

(ひとまず、兄ちゃんの様子を見に行くか)

 

 走って兄ちゃんの家を尋ねると、兄ちゃんの荷物は既に纏っていた。

「へぇ!やるじゃん」

 見直した!とラウルを褒めると「まぁな」と得意げな表情。

 昨日の情けない様が嘘のようだ。

 もしかして同行させてもらえるようにソニアさんを説得する方法もちゃんと考えてあるんだろうか。


「兄ちゃんはどうやってソニアさんを説得するつもりなの?やだって言われたらどうする?」

 コリンは心配を口にする。

「言わせないよ。彼女にはとても感謝しているけど、俺には俺なりに旅をする理由がある。もし彼女に嫌だと言われたらすごく残念だけど、一緒に行かないだけで旅には出ようと思ってる、だから」


「僕とはここでお別れって訳だ」

 コリンはわかっていたから素直にそう応える。

「あぁ」

 ラウルの寂しそうな表情にコリンは何かを堪え、さも今思い出したかのように「あぁ」と言った。

「そうだ、兄ちゃん。僕渡すものがあったんだよね」


 コリンは懐から深青色の塊を取り出す。

「これはね、兄ちゃんがこの村に来る前、そうだな……二年位かな?それくらい前に旅の魔術師がくれた魔石なんだけど。きっと兄ちゃんに渡すのがいいと思って」

(その魔術師は『変化する者』に渡すように言い置いて行ったけど、僕には『変化する者』がどういう者かはわからない。だけど)

 コリンはラウルに渡すのが適切だと思って持ってきたのだ。


 コリンがその魔石をラウルに差し出すとラウルは大事そうに受け取ってコリンを見る。

「エルアリアで採れる鉱石に魔力を込めた物だな」

「見ただけで分かるもん?」

「分かるさ」

 隣国エルアリアで採れる魔石は魔力を込めると色が変わる。

 この深青も魔力が込められた時の色だ。

 

 ラウルはそのことをよく知っているようだったが、コリンはそれを不思議に思いながらも、特に深追いしなかった。

 それはこの村を訪れる旅人は滅多にいないが、たまに訪れても彼らは皆、村民と深く関わることを快く感じていないようだったから。ラウルもまたそうなんだろうとコリンは思っていた。

 

 エルアリア王国で採れる魔石について詳しい冒険者。


(訳ありの匂いがプンプンするよね)

 呪いの所為で左手が熱くなったり、わかりにくい痣があったり。訳ありじゃない訳がないんだが。

 

「じゃあそれは兄ちゃんが持ってて。きっと兄ちゃんを守ってくれるよ」

「……ありがとう。大事に使わせてもらうよ」

 ラウルは申し訳なさそうに頷くと穏やかな眼差しで魔石を見つめる。


「……じゃあ、兄ちゃんは門のところでソニアさんを待っててね。僕は玄関で彼女を送り出すから!」

 コリンは駆け出す。

(そろそろ玄関に行かないと、ソニアさんとすれ違っちゃう)


「じゃあまた!元気で」

 ラウルは走り出すコリンに向かって大きな声を投げかける。

「あぁ!兄ちゃんもね!」

 コリンも軽く振り向き、大きく手を振ってそのまま走って行く。


 走るコリンは自宅の玄関先でソニアとちょうどいいタンミングで遭遇することができた。

 

「ソニアさんはどの道を通って行く予定ですか?」

「国境に行くには街道を通って行くのが安心なんですけど。一旦アクリュの街に向かおうと思っているの。テットの森を抜けた後サクロの森を通ればそこへは近道なので。とりあえずそうしようと思って」


 アクリュは定期的に訪れるサーカス団が有名だ。魔術を使った曲芸はとても奇抜で繊細。

 そういう街の話を昔訪れた旅人に聞いたことがある。


「またこちらに来られた時には立ち寄ってくださいね。旅の話を聞かせてください」

 この村に旅人が訪れることはあまりない。村民が冒険者になることもまずない。

 だからコリンが旅の話を聞きたいと言うのはおかしなことではないだろう。


「えぇ。ではまた。コリンも元気でね」

 ソニアはコリンに背を向ける。


(きっとソニアさんはもうここには来ない)

 それはコリン自身もわかっている。

 ただの社交辞令だ。

(二度と会うことはないだろうけど)

「また」

(兄ちゃんをよろしくお願いします)


 玄関口から見える門に一つの影と近づくソニアの影。

 

 コリンはそんな二人の影を静かに見つめていた。

 

次回からは第二章旅路編となります。

週一更新の予定ですが、思ったほど書けておらず3・4話辺りで一度止まるかも知れません。

気長にお待ちいただければ幸いです。

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