5章 遊園地(7)
結局、午前中の殆どは絶叫系アトラクションで過ごした。急流すべりで飛び散る水をシートで弾いたり、フリーフォールで半分自由落下したり、円周上にクルクル回る空中ブランコで振り回されたり、そこそこよかったとは言える。が、まあずっと激しいアトラクションでは飽きが来るというので次は絶叫系以外のアトラクション、ということになった。セレナはもう少し叫んだり振り回されたりしたかったようだが、特に文句は言わなかった。恐らく、一回ごとに髪を整えるのも面倒だったのだろう。奈々城に限っては眼鏡を仕舞う必要もあったしな。
「それと、あと一つくらい乗ったらお昼にしようかしら」
「さんせーの反対の反対なのだ! ちょっとお腹すいてきたしね」
「もうそんな時間ですの。なんか早いですわね」
俺のGショックによると12時に近い。早いな、さっきまでまだ11時だと思っていたんだが見込みが甘かったようだ。時間の流れとは恐ろしい。
「あー、クレープ屋さんだ! 食べよーかなー」
「ダメよ、お昼前に食べたらお腹膨れるじゃない」
「でも祈だってクレープ好きでしょ?」
「確かに嫌いじゃないけれど……そういう問題じゃないわよ」
「それより、次に何をするのか決めるのが先ですわ」
セレナの言うとおりだ。ここでぼーっと立ちながらの日光浴もアリだが、昼下がりの土手ならともかくここは遊園地なのだから何かしらするべきだろう。休むのならそれでも構わんが。
「じゃあさ、じゃあさ。さっきまでセレナちゃんが希望するやつに乗ってたからー、あたしの希望でもいいかな!」
「いいけれど……何をするの?」
ああ、そういやゴーカートがいいとか「えっとね、射的!」アレ? ゴーカートは?
というか射的なんて知らんぞ。そんなの釘山遊園地にあったか?
しかし俺以外の二人は普通に真田の提案を受け入れていた。記憶違いだったか……?
俺が自分の記憶を掘り起こしていると、真田が軽く背を叩いてくる。
「なにしてるのさー、行くよーゴーストレートだよー。……あっ、もしかして嫌だった……?」
「そういう訳じゃないが……」
「ならいいじゃないのー。ほらほらー行くよー」
そう言って真田は陽気に笑い、角を左に曲がる。
行くのは構わんが……レフトじゃねーか。
「『次々と現れるサビ軍団を手持ちの銃で打ち破れ!』……なるほど、そんなアトラクションですのね」
「ね? ね? 面白そうでしょー?」
セレナがパンフレットの煽り文を読み、真田が目をキラキラさせて問う。なんとなく概要は理解したが、射的と聞いて浮かべるイメージとはかけ離れている。射的と言ったら祭りでよくあるような、コルク銃で商品を落として貰うアレだろう。意味は合ってるんだろうが、シューティングゲームと言った方が適切なのではないだろうか。どっちでもいいか。
ちなみに俺が中学生の頃に出来た新施設なのだそうだ。道理で知らないはずである。
「サビ軍団……って何ですの?」
「鉄とかに生える錆を擬人化したやつだよ。クギー君の敵で、どちらも釘山遊園地のマスコットキャラクターだね」
「へえ、そういうのもいますのね。このパンフレットに書いてあるこのキャラクターのことですか?」
「そうそう、こっちの釘っぽいのがクギー君で、反対側の赤かったり黒かったりするのがサビ軍団。知らなかったってことは釘山遊園地初めてだったの? どーりで新鮮そうな顔して楽しんでるはずだよ」
一人で納得して、うんうんと頷く真田。ふうん、初めてだったのか。この辺りに住んでてそれは珍しいな。いや、珍しくもないのか? 交友関係が狭、というよりないから分からん。なんかそれだけじゃない気もするが……。
「ここね。クギー君の銃撃大合戦」
「やけに物騒な名前ですわね。人気あるんですの?」
「私に言われても……」
見た感じ人がいないわけではないから、そこそこ繁盛してるんじゃないだろうか。名前が変でも中身はただのシューティングだしな。……多分。
「なるほど、終わった時にスコアシートが出てくるんですのね」
「10発撃って、何発当たったかが出てくるようね」
「それなら……」
「……あら、やる気?」
「当然ですわ」
一回百円……おっと、これプレイすんのに金かかんのか。このフリーパスじゃダメみたいだな。だが随分と良心的な値段である。
「えーと、財布財布……」
「両替機はどこですの?」
百円か……百円程度なら……いやしかし昼食代……うーむ。
「よし、いくわよ!」
「……いち、に、さん……」
まあ千円から百円なくなったところで大した影響はしないか。一食分なら十分だろう。
「うーん、あんま芳しくなかったわね……」
「二発外してしまいましたわ……祈は?」
「五発しか当たらなかったわよ」
「ということは、今回はわたくしの勝ちですわね!」
あれ、もう終わったのか? 全然見てなかった。




