5章 遊園地(6)
フッ、と訪れる、無重力。
直後、ガクンと襲い来る衝撃。
『キャアアアアアアアアア!』
風を切る音と周囲の悲鳴が耳に入るも、うるさいとか懐かしいとかいう感想すら持つことが出来ず、振動に耐える。右、左、右と交互に車体が傾いたかと思うと一気に天地がひっくり返り、そのまま滑りこむように縦向きの弧を描き、車体は加速しながら渦を巻いて下に落ちていく。
その勢いと遠心力を利用してレールが90度傾き振り落とされそうになるも、輪の中を一周すると同時に角度も通常へと戻り……減速して止まりそうになったかと思えば谷と山の応酬が続き、徐々にゆっくりと速度が落ちて今度こそ停止する。
「……遠藤。遠藤? 大丈夫ですの?」
「…………ん? あ、終わりか」
セレナの声で正気に返る。長かったような短かったような、そんな微妙な気分だ。
「なにボーっとしてるんですの。ほら、降りますわよ」
「ん、分かった」
セレナに従ってコースターを降りる。その声にはしっかりとした張りがあった。思ったほど大したことはなかったのか、終わったから元気を取り戻したのか。まあどちらにせよ、ガタガタ震えているよりはいいに違いない。
「いやー楽しかったねー。あんな感じにガクンガクンしたの久しぶりだよ!」
「そうね、良かったけれど、ちょっとセットが崩れちゃったかしら……」
「気にするほどじゃないよー。エンドーくんも気にしないだろうし」
「……何で遠藤君の名前が出るのよ」
「気にしない気にしない。ほら、そのエンドーくんたちが来たよー」
外に出ると、真田が俺達に向かって手を振ってきた。隣の奈々城は髪に手櫛を入れていた。よく見ればセレナも髪がなんか寝起きっぽくなっている。そして何故か真田の髪には全く変化がなかった。摩訶不思議である。
「二人ともお疲れ様。どうだったかしら、レッドハリケーンは」
「まあ、勢いはあったな」
久々だったし楽しくないといえば嘘になるが、三半規管がぐーるぐるである。内心ちょっと気持ち悪い。昔は酔わなかったはずなんだが……何でこいつらは平気なんだ。
「……調子は大丈夫? 顔色が悪そうに見えるのだけれど」
「平気だ。少し休めば問題ない」
「そう? ならいいのだけれど。セレナさんは? 後ろの席で叫んでいたわよね」
奈々城が尋ねると、セレナは俯いていて返事をしなかった。そうか、いつも決闘をするような相手にジェットコースターで叫んでいたことを言われたら屈じょ
「最っ高でしたわ!」
……く? あれ?
「ゆっくり上っていく時は怖かったですけれどでも頂点のふわっとした感覚と落ちるときの勢いがたまらないですわ! それと、叫んでストレス発散にもなりましたわ! ジェットコースターというものは素晴らしいアトラクションですわね!」
目を輝かせて熱弁する。いくらなんでもハマり過ぎである。アイドルのときもいつの間にかCDを買ってたし、感化されやすい性格なのだろうか。
「こういうアトラクションは何ていうのでしたっけ?」
「え、ジャンルってこと? 絶叫系じゃないかなー?」
「それなら、それなら! 次も絶叫系にしませんこと!?」
「いいよー。まあ楽しいしねー」
「構わないけれど……」
奈々城の視線がこちらを向く。真田やセレナもそれに気付き、俺を見た。
「遠藤もいいですわよね? ね? 楽しいですわよね? 絶叫系!」
「あ、ああ。まあ……」
まるで興奮した犬みたいな物凄いテンションだ。思わず気圧される。
「それなら次はあの揺れる船がいいですわ! 振り子みたいでゾクゾクしますわ……!」
揺れる船、とはバイキングのことだ。ここではビッグバイキングと呼ばれる代物である。じゃあ他の遊園地の物と比べて特別デカイのかと思うとそんなことはなく、少しばかりネーミングに違和感を覚えなくもない。
「ほらほら、皆行きますわよ」
四人同時に歩き出し、すぐ近くのビッグバイキングへ向かう。興奮が冷めやらぬのか、妙に上機嫌なセレナを見て俺は思った。
どうでもいいけど、お前ら、髪整えなくていいのか?




