5章 遊園地(8)
「セレナちゃんすごいねー、十発八中だよ! テストなら八十点だよ!」
「ふふん。まあ、淑女の嗜みですわ」
どうやら射撃はセレナの得意分野だったようだ。勝ったことが嬉しいようで、得意顔で少し胸元を開けながら扇子で扇いでいる。……。
「……エンドーくんも男だねー……」
なんのことだか。
「まあそれはいいや。ついにあたしの出番だね。佐倉坂の狙撃クイーンと呼ばれたあたしの実力思い知れー!」
「初めて聞いたわ、そんなの」
奈々城のセリフを無視して真田は百円を投入し、銃を持った。
構えはサマになっていた。片目を瞑り、集中している。
そこからはあっという間だった。キャラクターの絵を模した的に向かい、目にも留まらぬ早業で狙いを定めて引き金を引いていく。すぐに十発を撃ち尽くし、真田は振り向きざまに銃口を口元に寄せ、ヒュウッと息を吹きかける。その佇まいは、さながら西部劇の女性保安官だ。
ほとんど外れていることを除けば、だが。
「うーん、二発しか当たんなかったかー」
あんな滅茶苦茶な照準で二発当てたことは誇っていいと思うが、格好つける場面ではなかっただろう。あとそれ、狙撃じゃねえ。
「やっぱ狙撃クイーンが早撃ちするべきじゃないね」
「そもそも何で早撃ちしたのかしら」
「だってその方がかっこいいじゃん」
「当たれば、ね……」
真田の妙な価値観に頭を悩ませる奈々城。なんかこの光景も慣れたな。
さて、ここで見ているだけというのもあれだ。俺もやるか。
歩いて真田の隣に立ち、百円を入れて銃のロックを外す。それを手に持って適当に構える。意外と重いもんだな。
まずは二発ほど試し撃ち。狙ったつもりだがもちろん外れ、二十円ほど無駄になる。
自分なりに補正をかけて撃ってみるも、結局三発しか当たらなかった。
「あー、エンドーくんでも三発しか当たらなかったか……」
素人に何を期待してんだよ。三発で十分だろ。
でもまあ――なんとなく分かった。
「あれ、もう一チャレンジ?」
「ああ、大丈夫だ。理解した」
「え、なにが……」
真田の声を遮って俺は二ゲーム目を始める。構えはまあ適当に。ただし、しっかり銃口はブレないように。十発でやっと感覚を掴んだ自分がアホらしい。
まずは一発目――命中。的を変えて二発目も当てる。三発目、四発目、五……。
最後の一発も難なく当て、出てきたスコアシートを確認する。よし、間違いなく満点だ。
「理解したって、そゆこと……。エンドーくん凄くない?」
「そんな凄くないだろ」
格闘ゲームで世界ランクに並んだというならともかく、シューティングで十発当てただけである。素人でも的に当てやすいような距離だったしな。これがあと数メートル離れていただけで成績は三割くらいに落ちるだろう。
「遠藤君って、実は射撃とか得意だったの?」
「あんま経験はない。上手く感覚を掴めたから出来たってとこだな」
「得意なのはコツを掴む方なのかしらね」
「そうかもな」
勉強は一度理解すればサクサク進むし、体育でやった卓球だって三時間くらいやれば割りとできたからなあ……奈々城の言う通りなのかもしれん。
「で、あと誰もやんないのか? なら飯にしたいとこだが……」
「待って待って、忘れ物」
「ん?」
真田が俺に差し出してきたのは、クギー君のストラップ。おい、こんなん持ってねーよ。
「違うって、全弾命中の景品だよ。そこの取り出し口から出てきたの気付いてなかった?」
そもそも存在を知らなかった。確かによく周りを見れば、十点満点の人には特別なストラップが~と書いてある紙が張ってある。目についててもどうでもよかったな。興味ねえし。
「この施設だけの特色仕様だよ! これを貰わない手はないじゃない!」
「だがいらん」
「えー」
だってそれ目当てじゃねえし。俺のケータイには既にウサギのストラップあるし。
「折角なんだから貰っておきなさいな」
「そう言うならじゃあお前にやるよ。ほら」
「わわっ、えっ? いいんですの?」
「捨てるよりはいいんじゃねえの」
心の底からいらんもん貰っても仕方ねえし。
「……あ、ありがとうございますわ。大切にいたしますわね」
セレナははにかんで、ぎゅっとクギー君を胸元に抱き、握りしめる。そんなもん貰っても嬉しいのか? 粗末に扱ってくれてもいいんだがな。
「……」
「ん、どうした、奈々城。もう一回やりたいのか」
「……別に、なんでもないわよ」
「?」
ツンとそっぽを向いて奈々城は言う。なんだ? ちょっと態度が厳しいような……。
まあ俺に向ける態度なんてこんなもんか。気にする方がおかしいな。




