005
「あー……」
飲んでいたファンタ(オレンジ)が、切れた。底を突いた。飲み干してしまった。
「おい楔、何か飲む物持ってない?」
「持ってるけど、兄貴にくれてやる分は生憎ない」
妹の外喰楔に、飲料の配給を断られた。
俺が異能の力に目覚めたのは一昨日の深夜から昨日の早朝にかけて。座蔵さんと会って初古に襲われたのが昨日。家のソファーで寝転んでいるのが今日。
日曜日である。
「というか兄貴、私とは好みが合わないんじゃなかったっけ?」
「馬鹿なこというなよ。俺たちはたった二人の兄妹じゃないか」
「いや、関係ないし…」
妹の楔は地元の県立高校の制服を着ている。が、しかし、高校生ではない。地元の県立高校を去年、無事卒業している。妹曰く――卒業してから女子高生であるという意味と価値に気付いたよ。私は何食わぬ顔で女子高生ぶるから、兄貴も何食わぬ顔で対応してくれ――だそうだ。
「じゃあ、あげるよ。仕方ないなあ」
そういって楔は、冷蔵庫の方へ歩いていく。
がばあっ。冷蔵庫は無残にも、開かれた。
「レモンティーとピーチティーと、イタリアンフルーツパンチティーどれがいい?」
「イタリアンフルーツパンチティーって何!?そんなのあんの!?」
「あるよ。兄貴はリプトンを舐めてるな?」
舐めてはねえよ。
「レモンティーって、リモーネ?俺、レモンティーはリモーネしか認めない派なんだけど」
「違います。紙パックです。あれ?でも兄貴、午後の紅茶のレモンティー、この前飲んでなかったっけ?」
「午後ティーは別だ」
午後の紅茶は大概うまいが、ストレートティーは苦手だ。口の中に苦味が残る。
「仕方ない」
そう言って体を起こす。
「何だ、兄貴出かけるの?」
「ああ、飲み物買いに行ってくる」
「私も行こうかな」
「駄目だ、お前は来るな」
俺と、俺の妹は。外喰要と外喰楔は、驚くくらい顔が似ている。違いといえば、ほくろの数くらいである。俺のほくろは左目元にあり、楔のほくろは左目元と、左口元にある。増えただけだった。
昔からよく、似てる似てると、親戚をはじめ皆に言われたものだ。
そんなこともあり、俺は、極力妹と外を歩きたくない。見れば瞭然、仲良く歩いている兄妹、もしくは姉弟だとはっきり分かる。微笑ましいことである。姉弟に見える可能性を示唆したのは、俺と妹の身長差が、まるでないことに由来する。遺憾である。
「お前、今はまだ制服着てても違和感ないかもしれないけどな。二十歳過ぎてちょっと経てば、すぐにぼろが出るぞ。お前がはまったのがゴスロリじゃなくて心底よかったと思っているけど、そうなれば下手すりゃゴスロリよりも痛々しいんだからな」
「兄貴、お前は脅しの天才か。私は今恐怖で汗びっちょりだぞ…」
馬鹿な妹は無視して、俺は家を出た。
日曜日。
俺は、地元に友達と呼べる友達がいない。いや、前はいたけど。今いないだけで。
専門学校の同級生である中村も、休日に遊ぶという程の中ではない。
実質ぼっちだった。
俺の家から最寄りのコンビニまで、徒歩で20分くらいかかる。べつに飲み物を買うだけなら、そこら辺の自動販売機でもよかったのだが。せっかくの日曜日だし。ちょっと時間をかけてぶらつきたかったのだ。
春の陽気。例年までは、この時期ならば花粉症で、家に篭り、散歩など以ての外だったのだけれど。花粉症がなくなったというのは、唯一、この異能に感謝すべきところなのかもしれない。
すっきりとした気分で、春風をその身に受ける俺は、ひどくご機嫌だった。
ここでひとつ、歌でも歌おうか。そんなくらいだった。
「は、は、はーるよ来い。こっちのみーずはあーまいぞ」
「おい外喰。昨日は初古が世話になったな」
戦慄した。
声をかけられたその主にも驚いたが(鴉枕である)、一時のテンションに身を任せてしまった俺自身と、そしてその産物である歌(しかも間違っている)を聞かれてしまったこの状況にである。
い、いけない。何か言い訳を、あるいは誤魔化さないと……。
「おう、いい天気だな鴉」
言ってしまうと、鴉はこの後も俺の歌に関して一切追求して来なかった。逆にやり辛かった。
「初古を相手にして、随分と余裕だったみたいだな。やはり、お前は勧誘すべきか?」
「いやいや、そんなことないって。腕はもがれるし折られるし、足だって折られたし。その上全身複雑骨折させられたぜ」
「全身複雑骨折だと相当えぐい図になるぞ。まあお前はそれでも完治しちまうんだろうけどな」
ああ、違った。全身粉砕骨折だ。それはもうのらりくらりとしていたものだぜ。
しかし。
「というかお前、今日は実力行使で来ないんだな。てっきり、また蹴り飛ばされるのかと身構えてたんだけど」
「それはつまり、あれか。そういうことか」
「いや違う、そうじゃない。そういうことじゃない。こっち来んな」
ゆらりと近づいてくる鴉を制止して、俺は続ける。
「そもそもお前、昨日もだけどこんな所で何してるんだよ」
「お前と同じ理由だ」
「お前も友達がいないからってコンビニに暇つぶしに……?」
殴られた。
「やめろ、お前マジで硬い。金槌で殴られたように痛い。ガチで」
「今日は仕事じゃないんでな。まあ、お前が通りかかるかと、この辺をうろついていたのは事実だが」
「仕事?仕事だったのか?『繁栄派』の任務って」
「そうだ。金が入る。仮にお前の勧誘に失敗してもふた月は不自由なく暮らせる金はある」
「だからって殺そうとするの早すぎるだろ…。もうちょっと粘れよ…」
でも、待てよ。座蔵さんに聞いた話では、『粛正派』はごく一部を除いて、金は入らない。むしろ出させるくらいの、ボランティア団体みたいなものだと聞いた。
なのに、対立する『繁栄派』は、仕事として成り立っているのか。
「『繁栄派』は、犯罪ギリギリというか、もう、そんな感じだからな。うまくやっているだけで。横の繋がりも、そりゃあるだろうよ。ああ、お前もその異能、こちらで使えばがっぽりだよ」
最後に鴉は、抜け出せなくなるがな。と、加えた。
本当に勧誘する気がないのか、こいつは。
「でもお前、これはちょっと変な質問というか、お前からしたら馬鹿みたいな質問かもしれないけど、いい歳した大人が、そんなことでいいのかよ。悪の組織で、異能バトルして、金をもらって生活するなんて、中学生の妄想じゃないんだから」
こういう挑発じみたことに対しては、鴉はたぶん怒らないだろうと思った。
事実、気に障る様子もなく、こう返した。
「いい歳した大人だからこそ、だよ。若い方が、現実に夢を持てるだろ。現実に夢を持てないから、俺は夢に逃げたのさ。今のくだらない生活ができなくなったら、俺はたぶん死ぬね」
何言ってるんだ、こいつ。超駄目人間じゃないか。
「人生なんて、くだらないものだぜ。所詮誰かの焼き増しだ。誰かが通ったその道を断片的に繋ぎ合わせて、唯一無二を語っているに過ぎん。ドラマを見るのも疲れちまった」
中二病かよ、こいつ。
「俺が言うのもなんだけど、お前、大丈夫か」
「大丈夫だ。少なくともまだ死にそうにない」
「いや、そういうことを言ってるんじゃないんだけど…」
「そういえば外喰、お前の名前、外ハメって聞こえるよな」
「死ね」
高校の時、散々馬鹿にされた苦悩を、今思い出させるんじゃねえ。
「まあいいや。今日は俺を勧誘する気はないんだろ」
「勧誘する気がないわけではないな」
「勧誘しないんだろ」
「しないとは言い切れないな」
「……じゃあな」
「ああ。また会うだろう」
何だよそれ。決め台詞か。
鴉と無事に別れ、無事にコンビニへと到着した俺だったが。
毎週購読してもいない週刊誌(漫画)を一通り読み終え、まるで興味もないパチンコ雑誌を開きながら、隣の成人向け雑誌コーナーを横目で品定めし、コンビニに小一時間居座る俺だったが。
当初の目的である、飲み物を(あとスナック菓子を少々)買い物かごに詰め、レジへと向かおうとした俺だったが。
財布をどうやら、家に忘れてきてしまったらしい。
鴉にすられた可能性も考えたが、思えば常に一定の距離を保っていたし、接触したのは、鴉に頭を殴られたその一瞬だけだ。器用そうには見えないし、その線はたぶんないだろう。
家を出る前に部屋から財布を取ってきて、一度、居間のテーブルに置いたのだ。居間にいれば、嫌でも目に付くはず。気の利かない妹め。何か買っていってやろうと思っていたけど、やめた。いやまあ、そもそも俺も何も買うことができないんだけど。
しかし、すでにこのコンビニで小一時間時間を潰している。当然店員には俺の存在は気付かれているし、たぶんもううっとおしく思われている。そして買い物かごをいっぱいにした状況だ。これらをすべて元の位置に戻して、何も買わずに帰るなんていうのは、冷やかしにしては最上級すぎる。
買い物かごを持つ手に汗がにじむ。
妹に電話して、金を持ってきてもらってもいいのだが、それでもこのコンビニまで20分はかかる。あと20分。飲み物はぬるくなるし、いよいよ怪しい。二度とこのコンビニを利用できなくなる可能性(精神的な問題で)すら出てくる。
「あれ、外喰くんじゃないですか。こんにちは」
「はっ、はみ姉!」
救世主!天使!女神!
覇嶺さんは、薄手のワンピースの上に、半袖の上着を着ていた。スカート丈は、膝上15センチ(目測)。その覇嶺さんを嘗め回すように目で犯しながら(不本意)だったため、思わず考えていたあだ名で呼んでしまったが、どうでもいい。
「え、は、覇嶺…?そんな、いきなり下の名前で呼ばれても…」
「いや、下の名前は下の名前だけど、呼び捨てってわけじゃないですよ。覇嶺さんの『はみね』とお姉さんという意味の『姉』を会わせて『はみ姉』です」
何故か真顔であだ名の解説をしていた。
「そ、そうですか……。じゃあ、私はこれで…」
「ちょ、ちょっと待ってくださいはみ姉!」
「はみ姉はやめてください」
「ごめんなさい」
怒られた。
「覇嶺さん、お願いがあるんですけど」
「はい、何でしょう?」
「お金を貸していただけませんか」
「私、結構騙されやすいタイプなんですよねー…」
覇嶺さんが、目を細めてこちらを見る。
「いや、違うんです」
何がどう違うのか。
「元々飲み物を買いにこのコンビニに来たんですが、小一時間立ち読みをしてしまって。今更財布を忘れたことに気が付いたんです。一杯の買い物かごの中身を返すには、少々時間が経ち過ぎてしまった」
「ああ、それは確かに出辛いですね…」
「でしょう。ですよね」
共感を得られた。
庶民派だなあ、この人。いや、『粛正派』と言っても、庶民なんだろうけど。
「うん、いいでしょう。貸してあげます。本当はこのくらい、二つ返事で出してあげたいんですけどね。いやほら、なにぶん、騙されやすいものですから…」
よほど騙されやすいのか。覇嶺さんは繰り返しそんなことを言った。
「ありがとうございます、ありがとうございます。今度、ちゃんと返しますから」
「信じてます。外喰くんのこと」
これは、返さざるをえないな……。いや、もちろん、返すつもりだったけど。
買い物を終えてコンビニの外へ出た俺と覇嶺さんは、歩きながら喋っていた。
「そういえば、覇嶺さんは、今日どうしたんですか?」
「ん?今日はべつに、仕事休みですし、『粛正派』の活動もないので、ぐだぐだしてますよ?」
「ちょっと失礼な聞き方になるけど、覇嶺さんの仕事ってまともな仕事ですか?」
「まともですよ。『繁栄派』と一緒くたに考えないでください」
「すいません」
怒ってないですけどね。と言って笑う覇嶺さん。
「そうだ、何なら今から返しますよ、金」
「急ぎませんよ?」
「いやいや、こっちも気持ち悪いんで。時間あったらでいいんですけど、家までちょっと来てもらえませんか」
「時間あるので、いいですよ」
「悪いですね、金返すのに、手間かけさせて」
「いえいえ。……そういえば外喰くん」
「はい?何でしょう」
「何で私のこと下の名前で呼んでるんですか?」
「しまった!」
はみ姉の名残で、つい普通に下の名前で呼んでしまっていた!なんたる不覚!
「……いつ気付いて突っ込んでくるか、試していたんですよ…ふふふ…」
「今思い切り『しまった!』って言ってたじゃないですか……」
ばれていた。鋭い……。
「まあ、いいですけどね。呼んでくれて。むしろ嬉しいですよ。ただ、どうしてかなって、気になっただけだから」
「では、僕のことも『要くん』、と呼んでくれて構わないですよ」
覇嶺さんが、にっと笑った。
「要くん」
「………………」
「要くん」
「ありがとうございます」
年上の女の人に、くん付けで名前を呼ばれるというのは、それは一つの快楽の形だと、私は思ふ。
「わあ、本当にそっくり!可愛いー!」
俺の家に向かう道中、妹の話になって、俺と顔が瓜二つだということを、覇嶺さんには伝えていた。それを聞いて覇嶺さんは、妹に会うのを楽しみにしていた。
家の前で待っているように促しても、妹を人目見たいから入れて、と言うので、折れた。
覇嶺さんが入れて、と言うので、その際二度聞き返したが、べつに他意はない。
そして、現状である。
「楔ちゃん、で、合ってます?」
「は、はい…。外喰楔と申します」
妹が、視線で俺に質問を送ってきた。
誰、この人。
「俺がお世話になった先輩だ。覇嶺さん。気が利かない妹の代わりに、金を貸してくれたから、返すために来てもらった」
「ああ、やっぱり兄貴、財布忘れてったよね?8369円、きっちり忘れてったよね?」
「何故中身を把握している!」
「見たもん」
そこまでして何故届けようと思わない。
何故連絡の一つもよこさない。
気が利かないどころじゃねえぞ、こいつ……。
「高校生なんですか。今が華ですね!」
「ですよねー!」
談笑している二人。
お前、年上の女性に向かってそれは喧嘩を売りかねない。
というか、お前の華はもう枯れてしまっているんだが……まあ、何も言うまい。
そうだ、覇嶺さんにお茶を出さなくてはいけないな。
「覇嶺さん、イタリアンフルーツパンチティーでいいですか?」
「イタリアンフルーツパンチティー!?そんなのあるんですか!?」
「覇嶺さん覇嶺さん、今朝の兄貴と同じ反応してる」
「あらやだ」
覇嶺さんはわざとらしくそう言って、冗談らしく笑った。
俺は、イタリアンフルーツパンチティーを紙パックからカップに移し、覇嶺さんの座るテーブルに置いた。
「立派な家ですね。ご両親は?」
「日曜はよく、じいちゃんのお見舞いに行ってる。今日もそう」
楔がいつのまにか覇嶺さんにため口になっていた。まあ、いいか。
「私はアパート暮らしですから、いいなあ。羨ましいなあ、一軒家」
「え、大将軒?」
「一軒家ですよ?大将軒なんて、一言も言ってませんよ?」
初対面の人に、いまいち分かりにくい聞き間違いボケすんなや。
「兄貴、覇嶺さん、ボロアパートに一人暮らしだって」
「ボロとは言ってないんですけど」
「音立てたら、すぐご近所さんにばれるからね」
「何の話ですか!?」
俺は、聞こえないふりをした。
「覇嶺さんって今おいくつ?」
「えっ?」
俺も少し気になったので、二人の方へ視線をやった。
覇嶺さんの目が、明らかに泳いだ。
「楔ちゃんは、今いくつ?」
「ぐっ…」
見事なブーメランである。
「じゅ…18です…」
「あ、そっか。早生まれなんですね」
嘘は言ってない。
今年19歳になる妹が、俺にはいる。
「はみ姉は何歳なんだよおっ!」
「はみ姉はやめてくださいっ!」
妹が叫んだ。
さすが兄妹、センスも似るわけだ。
「………私は…。楔ちゃんは、私、何歳に見えます…?」
年齢を聞かれて、逆に『何歳に見える?』なんて聞き返す奴は、軽くいらっと来るものだ。ああ、聞かなきゃよかったな、って、そう思うものだ。しかし、何故かこの時の覇嶺さんに関して言えば、苛立ちはなかった。別の意味で、聞かなきゃよかったな、とは、思ったけれど。
「うん?言っても、覇嶺さん兄貴の先輩でしょ?二十歳くらいじゃないの?」
先ほど俺が言った、先輩という言葉に、妹は勘違いしてしまったみたいだ。
すかさず俺は、訂正してやる。
「ああ、違う違う。先輩って言っても、学校の先輩じゃない。あの、あれだ。人生の先輩」
「何それ……」
妹が訝しんだ目でこちらを見てくるが、気にはしない。
「ふうん。でも、大学生くらい?二十歳くらいでしょ?」
「あはは…。私、もう社会人です。働いてますよ。大学生では、ないです…」
どんどん語尾に力がなくなっていく覇嶺さん。今度は俺に。
「要くんは、いくつに見えます?」
「うーん。考えたこともなかったけど(あるけど)、22くらいですか?」
22歳ってエロいし。
覇嶺さんが間を置いて、また楔と話し出す。
「…………。ちょっと質問」
「どうぞ」
「江角マキコさんって、いますよね。芸能人の」
「うん」
「あの人、どう思います?」
「綺麗だよね。お肌に張りがある。本当綺麗」
「じゃあ、YUKIは?歌手の」
「歌はよく知らないけど、可愛いよね。全然老けない」
「……安室奈美恵は?」
「ああ、綺麗だし、可愛いし、色っぽい!凄いよね、あの人」
「……あの人たち、おばさんだと思いますか?」
「うん」
きっぱりと、俺の妹は、そう言った。
「30過ぎたら、おばさんじゃないかな。もちろん、30過ぎても綺麗な人はいるよ?でもなんていうか、年代として、おばさん。私がまだ十代だから言えるだけのことかもしれないけどね」
「そうですか……」
覇嶺さんが顔を伏せる。
神妙な空気が我が家に流れる!
たぶん、妹のせいだった。
「私は、33歳のおばさんです……」
耳まで真っ赤にした覇嶺さんが、消え入りそうな声で、そう告げた。
もちろん、優秀な俺の耳は、そんな覇嶺さんの言葉を一言一違わず拾いきった。
「え、えええええー!?ま、マジで!?見えない!見えないよ覇嶺さん!全然見えない!い、いやー、本当に二十歳だと思ったから、口から色々出ちゃったけど、おばさんは40から上だったわー!」
気は利かないし空気も読めない妹だが、(効果的かどうかは別として)気を遣うことはできるようだ。
「じゃあ、あと7年でおばさんですね…」
「いやいやいや!私だってあと22年でおばさんだから!」
追い討ちをかける俺の妹。この兄にしてこの妹である。
「30代はお姉さんだわー!ねっ、はみ姉!」
「はみ姉はやめてください……」
覇嶺さんは顔を覆った手を少し下にずらし。目だけを出してこちらを向いた。
「要くん、お金はまだですか…。あんまり私が長居すると加齢臭が充満しますよ…」
「大丈夫だって覇嶺さん、普段ここにはお母さんがいるんだから!」
何だこの妹。フォローが裏返る呪いでもかかっているのか。
「遅くなりました。3761円です」
「どうも…」
「覇嶺さん」
「はい…?」
「俺は婚期に焦るお姉さん萌えですから」
この妹にしてこの兄、である。
「べつに婚期に焦ってないですしいいいいいー!!」