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異行  作者: yoho
その4
44/47

039

「お前んとこは、文化祭ってあんの?」


 外喰要の懸命な情報収集活動は続いている。

 来るべき文化祭に向けて、まずは出し物の内容すら決まっていない。別段いいものにしようなどという青春めいた世迷言をヘドロの如く口から垂れ流すつもりは一切ないが、悪くないものにしようという後々クラスメイトからの批判を受けまいとする保身を図る卑しさくらいは持ち合わせている。

 麻柄々に聞いたのが間違いだった。あいつは文化祭とか、そういった催し物はそれとなく雰囲気を楽しんで特に何もしないタイプだ。そうに違いない。独断と偏見。

 とはいえ、今回も貴重な意見が聞けるとも思っていない。ただ、麻柄々よりも有用である点。現役の学生であること。出し物を押し付けられやすそうであること。この2つ。


「あたしのとこはもう終わっちゃいましたけど」


 本屋の――というかブック○フの駐車場にて、憂原やつりがつまらなそうに答える。


「そうか。べつに行く気はないからいつやるかなんてことはどうだっていいんだけれど、一体どんなことをやったんだ?お前のクラスは」

「うちのクラス、は……喫茶店です」

「喫茶店」

「喫茶店です」

「はあん。じゃあ何?お前、メイド服とか着たの?」

「メイド喫茶とは言ってないんですけど」


 言ってはないけども。好きそうじゃん。高校生。メイド喫茶。執事喫茶。


「学生は好きだろ?そういうの。メイド萌えだろうがなかろうが、そうやって祭りめいて非日常に触れようとするの」

「外喰さんこそ、好きそうに見えますけどね」

「馬鹿言え。俺はちゃんと現実を見てる。見過ぎなくらい見てる。それこそ現実が『ダメェ!見ないでぇ!』って赤面して泣き喚くほどにはな」

「現実を何だと思ってるんですか……」

「萌えキャラ」


 俺の人生、楽しそうだな。


「羨ましいなぁ。あたしもそういう人になりたい」

「憂原。年上の人間として、人生の先輩として、これだけは言っておくが、俺のようにはなるな」

「格好い……いや、格好悪い!」

「そうだろう」


 それでいい。俺は駄目人間コンテストなら日本代表狙えるんじゃないか。そんな感じだ。有望株にもほどがある。将来有望。無謀。

 だから、こんな人間になっては駄目だ。反面教師でも、それで誰かの道が正されるのなら、俺は喜んで恥をかこう。泥を被ろう。それが、俺が未来のためにできる事だと思うから。

 何の話だったっけ。


「文化祭の出し物の話です。……あたしは着てませんけど、着てる人もいましたよ。メイド服。数人ですけど。ほら、いわゆる一軍グループの、その中の数人が、メイドと執事」

「そりゃそうか。学際の経費なんてたかが知れてるもんな」

「持ってる人がいたから、それを貸してもらってたんですけどね」

「いるんかい」


 メイド服と執事服持ってる高校生いるんかい。それも複数揃ったんかい。

 どんな趣味だよ。コスプレイヤーでもしているのだろうか。

 べつにどうだっていいんだけれど、男装コスプレをする際に、気持ちは分かるが、身長を足して男性キャラクターに近づけようとする気持ちは分かるのだが、厚底のブーツを着用するのはいかがなものか。実際にそのキャラクターが厚底ブーツを履いているならば問題は何もないが、勝手に厚底を履いてしまうのはどうなのだろうか。色々と意見があるのだろうけども、俺からしてみればそれは格好悪い。いくらそこ以外が上出来でも、そこが厚底では、底が薄いコスプレに見えてしまう。


「で、お前は何してたんだよ」

「あ、あたしは……べつに、何も……」

「ははあ、いるだけの人か。まあそんなもんだよな。俺もそのくちだったよ。ただ何となくやってること手伝って、当日はただ何となくいるだけ。恥じることじゃないぜ。大多数はそんなもんだろ」

「んん……うん……」


 何だか釈然としない感じだった。納得していないというか。俺の言葉が意味を成していないというか。


「何だよ。何かあったのか」

「外喰さんに言ってもしょうがないし……」

「んあ?どうしたよ。文化祭当日にいじめでもあったのか?」

「うん」


 ふうん。物好きな奴だな。奴らかな。楽しい楽しい文化祭のその日に、いつもと違う学校生活の祝日に、いつも通り普段通り、地味なクラスメイトいじめてるとか、悪趣味極まりない。もはや相当憂原のことが大好きだとさえ伺える。


「外喰さん、あたしの名前、言ってみて?」

「憂原」

「うん、そう。うさはらやつりなんです。でも皆ね、うざはらとか、うさばらって呼ぶんです。あ、うさばらは憂さ晴らしの意味です。サンドバッグ的な」

「よくできてんな」

「ちゃんと呼んでくれて嬉しいなぁ」

「おう、これからもよろしくな憂原うざはら!」

「馬鹿ぁ!」


 涙を浮かべながら顎に梅干しめいた皺。最早見慣れた光景といっても過言ではあるまい。

 俺まで追い討ちをかけていては流石にかわいそうなので、雑に慰めることにした。


「まあ、そう、気にすんなよ」

「じゃあ忘れたいから今すぐぎゅっと抱き寄せて優しくキスしてくださいよぉ」

「気持ち悪っ!」

「ひどぉい!」


 急に恐ろしいことを。

 それはあれか。お前がクラスメイトにいじめられたから、俺に八つ当たりか。そんな風に根性が捻じ曲がっているから友達ができないんだよ。


「まあ冗談はさておき」

「本気ですよ?本気ですよ?」

「言いたくないなら言わなくていいけどさ、一体お前は、楽しい文化祭の最中にどんなことされたんだ?」

「あの、店内というか教室内でね、BGMをかけてたんですけど、その途中にあたしの歌が入れられました」

「歌……って、どういうことだよ」

「前にカラオケに強制連行されて、2、3曲歌ったら飽きられたみたいで帰されたんですけど、その時あたしが歌ってたの録音してたみたいで、その音源をBGMに」

「はっはっはっはっは!」


 おもしれー!


「笑わないでください……」


 これを笑うなとな。

 それもそうか。デリカシーが欠けていたな。配慮がな。なかったな。悪いことをした。態度を改めよう。

 憂原の肩を強く掴んだ。

 こう、ガッと。


「憂原ぁ……辛かったなぁ……!」

「やっぱり笑ってください」

「どうして欲しいんだよ」


 最大限沈痛の表情を浮かべる俺の手を肩から払いのけながら、憂原は言う。


「どうしてもこうしてもないですよ。慣れたもん。いや、慣れはしないけど。どうせあたしは社会に出てもこんな感じだろうから、これさえ耐えられれば一生なんとかなりますし」

「うん……?むしろメンタル強いのかお前……?」


 日常に求める水準が低い。その方が幸せなのかもしれないけど。


「だけど、今がきついって言うんなら、今の学生生活がきついって言うんなら、むしろお前はこの先楽なんじゃないのか?」

「どうして?」

「だってお前、高校卒業したらどうすんの?大学?専門?就職?」

「進学は……考えてないです。お母さんに負担かかるし。『繁栄派』からもらえるお給料のことはお母さんには内緒なので、学費は出してもらってるんです。あたしが払うって言っても、逆に心配されちゃうし」

「そりゃあ、そうだよな。娘が得体の知れない大金を手にしていたら、どんな親だって不安だし不審だし不穏に思うよ。進学しないってことは、就職か。就職というか、『繁栄派』だろ?」

「そう、ですかね、たぶん。そうなるかなと思います」

「だったら不安はないだろ。危険であるとか、そんな問題は、これまでも抱えてきたことだろうし、『繁栄派』の中じゃお前は実力者なんだろ。ランキング第3位。誰もお前を馬鹿にしないだろうし、関わりはないにしても、お前に一目置いてる奴だっている筈だ。『繁栄派』にいるなら、お前は怖いものなしだろうに」

「まあ、そうかもしれませんけど……。とは言っても、『繁栄派』も、というより上層部も、結構汚いんですよ」

「ほう?」


 いや、まあ、元々綺麗だとは思っていないけど。


「あたしはランキング3位で、わりと厄介な相手とやらされるんですけど――」

「厄介な相手と言うと、逐一『気持ちいい?』『これどう?』『イった?』とか聞いてくるような奴か」

「ヤらされてません。外喰さん、AVの観過ぎです」


 み、観過ぎじゃねーし。うるせーし。


「厄介な相手と戦うことが多いんですけど。あと、中村さんとかも――あ、万推さんか」


 中村を万推と訂正した。呼び直した。何故だか知らんけど、中村は『繁栄派』の仲間に下の名前で呼べとしつこく言い回っているそうだ。何故だか知らんけど。実は中村が多くて判別できないからだけど。


「でもね、それでも、鴉さんなんかの方が給料は多いんですよ」

「はあん。そうなのか」


 鴉は上層部とも繋がりがあるらしいし、信頼の置ける『勧誘班』という重要なポジションってのもあるんだろうが。

 というか、何でこいつが鴉の給料知ってんの?


「本人に直接聞きました」

「案外肝が据わってるな」

「他に話すことなかったので」


 金の話題しかない関係性って嫌だな。


「あたしは今の金額で全然間に合ってますし、上層部の人に言うのも怖いから何も言いませんけど、たぶん、子どもだからとか学生だからとか、そんな理由でケチってるんだと思うんです」

「なるほどなあ」


 ランキング上位ほど金持ち……ってわけじゃないようだ。

 とは言え、『繁栄派』の利益になる、武力になる人間には個人差はあれどそれなりの額は出しているんだろう。

 上位ランカーでこそなかったが、『繁栄派』最大の回復要員であった九里古里の通帳にある8桁の数字を見た時は腰を抜かしたものだ。お前中村の支援全然いらねえじゃんと。迷惑メールでよく見る多額の遺産を抱えた未亡人かと。

 どうせ俺には関係ないし、どうだっていいんだけどな。


「しかしよ憂原、お前に関しちゃ心配ないだろうが、気を付けろよ」

「お金の問題は怖いですもんね」

「そっちじゃねえよ。ほら、厄介な相手とばかりやらされるって言ってたけど。お前も一応女の子なんだからさあ」

「外喰さん、心配してくれてるんです?」

「いかんのか?俺にとっちゃ『繁栄派』の損失には興味ないが、個人的にはお前に死なれても嫌だし」

「キスしますぅ?」

「しませぇん」

「……もぉ、女の子に気を遣わせちゃいけませんよ」


 何がもぉだ。

 わけの分からないことを言いながらこちらに寄って来る憂原に、俺は生物の根源的な恐怖心から牽制の言葉を吐くほかなかった。


「憂原、これ以上近付いたら顔面をグーで殴る」

「過剰防衛します」

「過剰って言っちゃってる!」

「あたしはあなたに勝てます」

「クッソ!『英雄の剣ドラゴンザッパー』クッソ!」


 『英雄の剣ドラゴンザッパー』。

 相手の力を自身に加算する異能。

 仮に俺の力が10で、憂原の力が9とするならば、『英雄の剣ドラゴンザッパー』を発動した憂原の力は19になる。

 相手の異能の力までコピーするというわけでもなく、ただ単純に異能の力によるパワーアップ分、憂原本体が強化されるということらしい。

 分かりやすいと思って、よかれと思ってゲームらしい表現をすれば、相手のスキルは得られないが、パラメータの数字は上乗せされる……みたいな。


「……冗談ですよぉ。冷たいなぁ外喰さんは」

「しょうがないなぁのび太くんは――みたいな言い方をするな」


 微妙に声真似をするな。


「あ、それとね、今思い出したんだけど外喰さん。ブ○クオフでラブひな立ち読みしてましたけどあれ、万推さんが全巻持ってましたよ」

「え、そうなの?」


 何だよ中村の奴め。ラブひな持ってるなら持ってるって言えよな。俺が何も言い出さなくともさあ。

 明日貸してもらおうっと。


「……だがよ、何でお前が知ってるんだ?」

「万推さんがラブひな持ってるってことを?」

「中村がラブひな持ってるってことを」

「借りたから」

「仲いいの?」

「よくはないです」


 よくはないのか。

 そういやあ中村の『繁栄派』内での立ち回りもよく知らないんだよな。そもそも大して興味もないんだよな。


「『繁栄派』内部においても基本的にコミュニケーションの取り方が分からないんですけど、第3位ってこともあって、皆あたしを避けるんですよ。まあ関わってほしくもないんですけどね。だけど万推さんは1位なわけだし、あたしに気負うこともないからほら、ね?」

「何がほらねか。んあ、お前と中村は漫画を貸し借りする質素な間柄なわけだな」

「やだなぁ外喰さぁん。万推さんとは何もありませんよぉ」

「黙れ」


 中村もこんな定規みたいな体した女との仲を疑われたくはないだろう。


「でもまあ、そこそこの交流はあるんだな。あ、お前さ、中村の異能知ってる?」


 おはぎみたいな黒目で俺の顔をじっと見つめながら、憂原やつりは答えた。


「知ってますよ。『怠臥の王ネブレゴート』ですよね」

「おうそれそれ。ねぶた祭りみたいな名前だよな」

「そう感じたことは未だかつてないですけど」

「見たことある?」

「ありますよ。一緒に仕事したこともありますし」


 ああ、そうか。それもそうか。同じ任務で共闘しているのならば、中村の『怠臥の王ネブレゴート』を知っているのも当然のことだ。

 ランキング第1位と第3位が組んでのことだ。相当な大仕事だったのだろう。第2位も一緒にいたんだろうか。ええと、確か、懸厳蒐けげんしゅう拿國天だこくてん。確かだなんて、あやふやな記憶を探るように言ってはみたものの。耳にした時のインパクトが強烈過ぎて、ばっちりくっきり覚えてたわ。


「『怠臥の王ネブレゴート』は因果律を無茶苦茶に操作して、万推さんに関わるあらゆる物事を失敗させる異能です」

「失敗?」

「例えば、刀で切っても切られることができない。銃で撃っても撃たることができない。鉄棍で殴っても殴られることができない。巨大な物で潰しても潰れることができない。たぶん、蝿も産めないし食べることもできない」

「無敵じゃねえか」

「無敵ですねぇ」


 んだよ中村あのインポ野郎。無敵の異能で合ってんじゃねえか。


「つまるところ、攻撃の無効化が能力なのか」

「それも違うんですよね」


 俺が都合よく分かりやすく解釈しようとすると、憂原にそれを止められた。


「あたしも完全に理解してるわけじゃないので変な説明になっちゃうかもなんですけど、違うんです。『怠臥の王ネブレゴート』は失敗する異能。万推さんが言うには、それこそ無数のスイッチがあって、それら全てが基本的にはオンの状態――つまり『失敗する』になってるんですね」

「ふむ」

「それをいちいちオフ――『失敗しない』にして、それでようやく動いたり歩いたり、話したりできるらしいんです。この辺りであたしはわけ分かんなくなっちゃいましたけど、分かってます?」

「おう。分からん」

「一瞬で万推さん自身に起こり得る全ての可能性に対して失敗のスイッチがあって、その中でマイナスの事象だけをオフにして行動してるんですよ。ついでに言うと、相手の攻撃を失敗させてるんじゃなくて、自分がダメージを受けるのを失敗してるだけなんだって。そこにどんな違いがあるのか、分かります?」

「ああ。分からん」

「相手の失敗は操作できないんです。あくまで自分自身が失敗するだけ。正直、解釈の仕方次第だろって感じなんですけど。殴ってきた相手が拳を痛めるか痛めないかっていうのも、スイッチ次第なんだそうですよ。それを攻撃に転換できるかどうかは、自分でもよく分かってないんだって」

「なるほど!分からん!」


 全っ然分からん!中村死ね!


「とにかく無敵なんですよ。絶対死なない喰らわない。制圧力や破壊力は懸厳蒐さんやあたしの方が上だけど、確実に失われることがないという点を、上層部は評価してるんじゃないかなぁ。今は戦力が凄く大事になってるけど、最終的に『繁栄派』が成したいのは異能力者が存在できる世界ですし。いや、今も存在はしてるんですけどね?そこで万推さんは住人として、もしくは語り部として、或いは王として君臨すべき存在だと、上層部は考えてるんじゃないでしょうか。あの人のわがまま、よく通るし」


 ふうん。俺や九里古里、楔や懐未ちゃんを狙うなってのも、あいつが上層部に言ったことなんだよな。いまいち『繁栄派』の決定なんて信用ならないと思っていたが、中村が『繁栄派』にとってそれだけ価値がある存在だというのなら、まあ分からんでもない。

 中村個人が上層部――その、年寄りに好かれるような性格だとは思えないけど。


「あ、そう言えば余談なんですけどぉ。万推さん、戦闘中に相手に向かってこんなこと言ってましたよ」

「うん?」


 一つ喉を鳴らして憂原が気持ち柄の悪そうな笑みを浮かべる。

 何とも馬鹿っぽい表情で俺は楽しいが、ひょっとすると本人としては中村の真似をしているつもりなのだろうか。


「『何泣きそうな面してやがる。そうそう悔やむな怯えんな。お前はこうしてここで俺に負けて死ぬわけだが、何一つ心配するこたねー。お前の部下が死んだのも、お前の攻撃が通じねーのも、お前が今から死ぬことも、お前は何にも悪くねー。失敗したのは、俺だけだ。だから全部、俺が悪い』」

「球磨川かよ」


 選挙戦、『大嘘憑きオールフィクション』持ちの状態でめだかちゃんと戦ってほしかったな。


「あたしもその場でへっそ出しセーラー先輩って言っちゃいましたよ」

「何でそんな趣味がお前にバレてんの」

「万推さんが放置した本に大量にへその出たセーラー服の女性が載っていたのでそう解釈した次第です」


 中村もその場でぎょっとしたことだろう。

 まあ、こいつに知られたところでどうということもないんだけどな。言いふらせる友達もいないし。

 さっきしれっと聞き流したけど、やっぱりあいつ人殺してんのな。分かっちゃいたけど。


「なるほどなるほど……。こいつは思わぬ収穫だったな。明日中村に自慢してやろう」

「何の自慢になるんですかそれ……」

「憂原、お前何だかんだ交流あるじゃねえか」

「万推さんはよくしてくれる方ですよ」

「中村には惚れねえの?」

「嫌いなタイプです」

「…………」


 ……まあ……好き嫌いは誰にでもあるから、何も言わないけどさ。

 九里古里も中村のことはどうにも好きじゃないみたいだし。あれ、俺って結構モテるんじゃね。やったぜ。


「実は初古とかとも仲良くやってんじゃねえの?どうなの?」

「前にも言ったけど余口さんは、苦手です。色んな人に気に入られてるし」

「妬みだ!」

「羨ましくはないんですよ。元気一杯で、面倒臭そうだし。ただ、気に入らないなって」

「お前は性格が悪いな」

「それにね外喰さん。あの子、あたしのこと呼び捨てで呼ぶんです。やつり、やつりって。満面の笑顔で。生意気ですよね」

「ああ、うん。そうだな。それを可愛らしいと言うのか生意気と言うのかが、その人の心の豊かさを測る一つのものさしだと俺は思うよ」

「ですよねぇ……もぉ……!」

「あれ、聞こえているのかな?」


 この子勝手に俺が賛同したみたいに捉えてない?俺が言ったこと分かる?皮肉っぽいこと言ったよ?やつりちゃん?

 やつりちゃんがイライラしているのはどうでもいいが、呼び方は余口さんとやつりなんだな。何かもう、何かもうあれだな。


「じゃあ憂原。あの、仕宮さんとは?」

「仕宮さんですか?あんまり話したことないけど、怖いんですってば」

「怖い?」


 クソレズだから?


「怖いというか、気持ち悪い……?」


 クソレズだから?


「いちいち近いんです。触ってくるし。この間なんていきなり抱きしめられましたもん」


 羨ましい!代われッ!この俺と代わりやがれッ!

 俺もあんなたわわなおっぱいにたわわれたい!たわわれたいって何だ!悔しさと興奮のあまり造語を!


「ずるいですよ、あれ。離れようとしたら胸触っちゃったんですけど、物凄い柔らかいんです。もう、ふよふよ」


 妬ましい!

 と、思ったけど、揉んだことは俺もあったな。『繁栄派』に乗り込んだ時に、倒れている仕宮さんのおっぱいをまさぐったことがあったな。いや言ってもね?生死確認のためにね?必要事項だったからね?そんな全然長くても精々3分18秒くらいのことだからね?


「あたしのこと可愛い可愛いって言うんですけどね、どうも信用ならない」

「何でだよ。素直に受け取っとけよ」

「明らかに自分より上の人間に好意を持たれても不信感しか抱きません」

「捻じ曲がってる!」


 よじれにねじれてるな。さしずめツイスト憂原と言ったところか。

 自分より上の人間に好意を持たれても不信、か。なるほどな。まあ、ああは言ったが分からんでもない。それに、女子の言う『かわいい』はとても広義的だし。ピンキリあれど悪意はないと思うけど……。

 …………うん?


「おい憂原、それはお前俺を同格以下だと言ってるのか」

「お、およよぉー?違いますよぉー?」


 憂原が視線をスイミングして上ずった声で答えた。


「……べつにいいんだけどさ。自分が大した人間じゃないことくらい俺が一番よく分かってるんだ。異能の力がなかったら、それこそ平均以下のただの学生なんだよ」

「平均以下のただの変態だと思いますけど」

「うるせえ」

「ごめんなさい」


 少し静かになった。

 肩を微妙に揺らしながら黙ったままに、手いたずらに励み、こちらをちらちら見ながら、憂原はまた話し出した。


「あの、外喰さん」

「どうしたウサハラ=サン」


 俺はオジギをした。


「外喰さんは、あたしにとって等身大のヒーローなんです。格好悪くて、あんまり優しくなくて、でも、見捨てないんです。あんな状況だったけど、あたし、外喰さんに助けてもらったんです。外喰さんは九里古里さんを助けただけかもしれないけど、あたしも助けられたんです」

「よし、分かった。憂原。その辺にしておけ。俺はもう恥ずかしさで死にそうだぞ」

「照れてる?照れてるんですかぁ?」


 ちくしょう、素敵っぽいこと言いやがって。直前にオジギしてたのも余計に恥ずかしいわ。おのれ憂原。

 九里古里もこいつも、自分の魅力を誰かに語られるほどホールインしたくなることはないぞ。分かっててやってんのか。

 こういう時こそ平常心だ、平常心。

 おっぱいおっぱい。

 よし落ち着いた。

 

「ところで憂原」

「はい?何でしょう外喰さん」

「仕宮さんを紹介してくれないか?」

「何でぇっ!?」


 彼女にとっては少々唐突だったかもしれない。

 何でと聞かれればそれはもちろん。


「あの人、美人だろ。おっぱいでかいし。べつに仲良くなろうとかちっとも考えちゃいないけど、ひょっとしたら胸ぐらい揉ませてもらえるかと思って」

「死んでください」

「嫌だ。俺は生きる。一生懸命生きる」

「それに絶対、無理ですよ。あの人、男の人が嫌いなんです。大っ嫌い」

「クソレズだって話は聞いているけれど、それが何だっていうんだ?俺が仕宮さんのおっぱいを揉むのと、仕宮さんが男嫌いだっていうのに何の関連性があるっていうんだ?」

「考え方が性犯罪者ですよ……」

「ふざけたことを言うなよ憂原。過去に心の傷を負った少女がいたとしよう。彼女は深い闇を抱えており、恋なんてしたこともなければ考えたこともない。しかしそこへ愛情溢れる好青年が颯爽と現れた。彼は拒絶を繰り返す彼女に何度も何度もアプローチをかけ、最終的にハッピーエンド。相手の考え方なんて関係ない。好青年は少女に恋をしてしまったんだ。拒絶されても拒否されても、殺されかけたって愛溢れる彼は止まらなかったんだ。いいか憂原、人の傲慢が、強引さが、時に人を救うんだ」

「んんー…………有罪」

「ガッデム!」


 俺の例え話戦法、白星一つもねえ!


「外喰さんがおっぱい揉みたいだけじゃないですかぁ。べ、べつにあの、あ、あたしの胸を触るくらいだったら、い、いいです、けどぉ……?」

「結構」


 俺はきっぱりと断った。大事な友達である憂原に、身を売るような真似をさせるわけにはいかない。俺はいついかなる時も紳士でありたい。

 憂原の顔が淀む。というか澱む。

 本当こいつ、呪怨に出てても違和感ない顔色してるよな。伽椰子さん、やつりちゃん、俊雄くん、みたいな。あ、ごめん。ごめんなさい。馬鹿にはしてないです。夢には出ないでください。ごめんなさい。


「というか、本気で仕宮さんを紹介してもらおうなんて思ってないしな。そもそもお前が仕宮さんを苦手みたいだし。声かけられるとも思ってないし」

「そうですけど……」

「だから、隙があったら仕宮さんの下着をもらってきてくれ」

「死んじゃえっ!」


 心ない言葉を、投げつけられた。

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