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異行  作者: yoho
その3
29/47

029

「何だ外喰。俺とやる気か。やり合うつもりか。いいだろう。相手をしてやる。どうだ外喰、最初に出会った敵と再戦するというのは、中々どうして燃える展開じゃあねえかと思わないか?」

「思わねえよ」


 鴉は言った。

 かつて鴉は「強いな。相当に強い。俺よりも、強い」と言った。

 鴉枕は、初めて会った夜、初めて俺の異能が発現した夜、『腐喰の王コラゼブル』を見て、そう言ったのだ。

 これは勝てる戦いだと思っていいのだろうか。

 『腐喰の王コラゼブル』は『孤独の亡骸ハンコック』よりも強い。

 これは鴉が下した評価だ。

 俺よりも異能に詳しく、俺よりも修羅場を経験した鴉が、そう判断したのだ。恐らく正しい評価なのだろう。

 麻柄々は俺に勝つつもりで挑んできた。

 牙綺は俺を殺すつもりで挑んできた。

 初古は俺に負けるつもりで挑んできた。

 ならば、鴉は、どういうつもりなのだろうか。


「外喰よ。お前もつくづく甘いよな。甘さを捨てろとは言わねえが、締めるところは締めておけよ。ろくなことにはならねえぞ」

「お前だって、何だかんだで甘いんだろ。結局麻柄々を助けてやってるし、お前それ、俺に奪わせるために鍵を牙綺から受け取ったんじゃないのか」

「馬鹿なことを言うな。俺は甘ったるいガキは嫌いじゃないが、ガキに感謝されるのは嫌いでな。丁度いい。お前に大人の厳しさというヤツを教えてやろう」


 言い終えると鴉は、2つの鍵を束ねている鉄の輪を無理やり折り曲げて引き千切った。そうして自由になった銀の鍵と銅の鍵を――飲み込んだ。


「誰も死なずに済むとは思っちゃいねえだろうな。甘いんだよ。鍵が欲しけりゃ探すといいぜ。俺との戦闘が終わった後でな」


 誰も死なずに済むなら、それが一番だ。最良だ。最善だ。

 誰かの死を乗り越えて先へ進めと。誰かを殺して先へ進めと、そう言うのか。

 その対象は、自分だとでも、言いたいのか。


「殺してみろ、俺を。殺せるもんならな。できなきゃお前は――」


 鴉が両手をポケットから出す。

 口から煙を吐き出す。

 いつも眉間に皺を寄せていて、俺にとってはトラウマにもなりかねない顔なのだけど、これまで見てきた鴉の顔で、最も恐ろしい表情を見た。


「ここで死ね」


 鴉の腕が迫る。

 この異形の目の扱いにも慣れてきた。身体が頑丈になるというだけで、鴉の異能は速度が強化されるわけでも何でもない。動きは簡単に見切ることができる。

 容易く懐に潜り込んで、渾身の一撃を叩き込んだ。


「死ぬかよ」


 またもあの夜を彷彿とさせる。そんな鴉の吹っ飛び様だった。通路を豪速で逆進し、やがて壁にぶち当たった。


「やはり強いな。お前の異能は。俺も異能に助けられているくちだが、お前ほどではない。お前が強いのではない。お前の異能が強いだけだ。俺の異能が硬いだけなら、お前の異能は強いだけだ。お前は痒くて仕方がないんだろうが、俺は痛くも痒くもないぞ。どうした外喰。それじゃ俺は殺せんぞ」

「黙ってろ!」


 鴉に特攻する!

 避けようともしない鴉に、全速全開の手刀を突き刺す。

 壁に蜘蛛の巣のような亀裂を立てただけで、鴉は平然としている。


「生身の人間だったら串刺しだろう。下手すると、初古の『魔物モンスター』の皮膚ならぶち破れそうな一撃だな。素晴らしいと褒めてやりたいところだが、俺には無意味だ」


 効かない。

 俺の攻撃は、鴉には通用しない。


「お前の攻撃力なら、続けていればどうにかなるんじゃないのか。ああそうだ、麻柄々を倒した技があったな。あれを試してみればどうだ」

「……あれは技というか……そもそも俺の異能の効果なのかもよく分かってねえし」

「十中八九お前の異能だろう。それとも何だ。麻柄々は元々巨大な蝿に寄生されていて、それがお前との戦闘中に孵化したとでも言うのか」


 ありえない話――だよな。

 麻柄々の脇腹から出てきたってことは、やっぱり、たぶん、俺の吐いた血が付着したことが原因だろう。口から吐いた血ってことが、重要なんだろう。傷口から俺の唾液混じりの血液が混入した。考えたくはないが、恐らく俺の唾液には――


「俺はお前と麻柄々の戦闘を見ていたわけではないが、どうにもこうにもお前はあの巨大な蝿の卵を他者に植え付けることができるようだな。非常に気持ち悪い」


 蝿の卵が含まれている。

 いや、卵と言っていいのかどうかよく分からないが、俺の唾液が傷口、あるいは粘膜に付着すると、そこから卵なのか蝿なのかが侵入して、寄生――というか、繁殖してしまうのだろう。

 嫌な能力だな。

 嫌な能力ではあるが、これならば鴉にも効くだろう。麻柄々の時のように鴉の皮膚を破ることはできないかもしれないが、傷をつける必要はない。鴉の顔面に俺の唾でも浴びせれば、目や鼻や口から侵入して、蝿がハッスルし始めるだろう。


「試してみたらどうだ。俺の顔面にでも唾をかければ蝿の繁殖が発動するかどうか。素直に喰らってやるつもりはないがな」


 しかし、この能力は使いたくない。気が引ける。手加減とかそういうんじゃなくて。俺も気持ち悪いし。


「はん。俺はお前の体内の鍵さえ取り出せればいいんだよ。だから、お前の身体をぶち抜かなくても、胃の中身を逆流させられれば問題はねえ!」

「無理だな」


 右腕と。左腕で。全力のラッシュを鴉の胴に、腹に、ぶち込む。

 数秒と経たぬうちに、壁が砕ける。

 追いかけて、しつこく連撃を食らわせてやる。


「しかしよ外喰」


 不意に、視界が狭まる。半分になる。右の視野が、潰れた。吹っ飛びながらも、俺に吹っ飛ばされながらも、鴉が拳銃を発射したのだ。

 あの野郎。銃なんて持ってやがったのか。


「ぎゃあああああっ!」


 足を止める。足が止まる。どうにも慣れない。痛みには。慣れたくもないし、慣れてはいけないとも思う。

 油断していた。あいつの言う通りだ。異能の力に頼り過ぎている。この不死身パワーを、過信し過ぎている。


「そういうところが甘いと言ってんだよ。俺がいつ素手でしか戦わないと誓ったんだ?何なら今誓おうか。俺は今後一切お前との戦闘で武器は使用しない」


 通路の壁を突き破って、奥の部屋に入った。特に何もない。簡素な部屋だ。あるのは散らばった瓦礫と、垂れた俺の血くらいのものか。


「それに、この銃、もう一発しか装填されていなかったんだ。今のが最後の一発というわけだな。だから安心しろよ。俺に遠距離攻撃はできねえ」


 『孤独の亡骸ハンコック』相手に、瓦礫を投げつけたところで意味はない。直接攻撃でもほとんど無意味だというのに、わざわざ威力の低い攻撃をすること自体無意味だ。

 インファイトで攻め続けるしかない。

 地面を蹴ろうとした。


「あっぶ!」


 蹴ろうとしてやめた。

 鴉がまたも俺の頭部目掛けて、今度はナイフを投げつけてきたからだ。それを避けて、足が止まった。

 胡散臭い先ほどの宣誓を信じたつもりはないが、手の平返しがあまりにも早いというか何というか。


「ぎいいいっ!」


 考えているうちに左目を撃ち抜かれた。

 弾切れも嘘かよ。


「悪いな。歳をとると、どうにも数を数えるのも億劫になってね。何にせよ、他人の言葉など信用ならねえということだよ外喰。自分以外を――下手すりゃ自分すらも過信するには値しない。なに、信じるものがなくなっても、死ぬわけじゃあねえ」


 くそ。

 くそ。

 圧倒的に有利な筈なのに。

 鴉を倒せない。

 右と左の両目で、鴉を睨みつける。


「攻撃は最大の防御――という言葉があるが、俺はいまいち納得いかんね。行き過ぎればどちらにせよ無敵には違いないが、どちらか選べと言われたら、殺しやすいよりは死ににくい方が人間は安心できるんじゃないか」

「知らねえよ!」


 無謀に突進する。本当に無謀だ。策はない。やけくそであるつもりはないが、傍から見ればやけくそなのかもしれない。


「ぬう!」


 攻撃は、入った。

 右腕と左腕が、鴉の胴にクリーンヒットした。衝撃自体はやはり伝わる。鴉も唸り声を漏らした。

 漏らしたけども。


「無謀と勇敢は違うぞ外喰。いや、外ハメ」

「外ハメ言うな!」


 胴に叩き込んだ両腕を掴まれた。

 振り払うこともできない。チェーンや手錠どころではない。両腕デスマッチだ。


「お前の方が強いには違いないが、脆弱な俺にも、戦い方はあるんだよ」


 鴉が、思い切り仰け反って振りかぶって、自身の頭部を、俺の頭部に打ちつけた。


「いっでえ!」


 頭突きだ。

 鋼鉄か。もしくはそれ以上なのか。何であろうが凄まじい硬度を誇る鴉の肉体だ。それを活かした頭突きの威力も尋常ではない。両腕は掴まれているとはいえ、力はこちらが上だ。動かすことはできる。動かすことはできるが、動かせるだけだ。鴉を引き剥がすことはできない。

 俺は暴れながら、鴉の頭突きを喰らうこととなった。


「割れるっ!」


 というか割れているんだろう。視界に血飛沫が見える。明らかに俺の方から飛んでいる。

 動きを止めて頭突きとか。お前は影縫さんか。


「ふんっ!」


 これじゃ防戦一方だ。というより鴉の攻戦一方だ。それは駄目だ。それはさせない。

 影縫さんじゃねえ。三島平八と風間仁だ。

 パチキ合戦といこうじゃねえか。


「ふんっ!ふんっ!ふんんっ!」


 唸っているのは俺一人です。

 男が二人固まって、互いに頭を打ちつけ合う。何とも名状し難い気持ち悪くて熱い情景だ。

 見た目だけ見れば、鴉が押されているように見えるだろう。俺が頭を打ちつける度に首の限界まで仰け反っている。硬化はしていないとはいえ、『腐喰の王コラゼブル』の筋力は、全身に及ぶ。

 しかし実際、消耗しているのは俺の方だ。合戦とは言っても、常人離れした筋力、速度をもって、生身の頭蓋を酷使し、鋼鉄のボールをヘディングしているに他ならない。一発ごとに、血飛沫が舞う。鴉から一方的に喰らっていた時よりも、より多くの血が撒き散らされている。

 頭蓋骨陥没や出血多量で死ぬことはないにしろ、何よりも先に折れるのは俺の心だ。


「外喰よ、諦めておけばどうだ。俺にお前を殺すすべはねえし、ここにお前を拘束できる設備もねえ。お前は引き下がればいいだけだ。それでお前は平穏な生活に戻れる。九里古里のことは諦めろ。忘れろ。好きなわけでもねえんだろう。クラスメイトが一人転校、ないし中退した。それでいいじゃねえか」


 俺は朦朧ともしていない意識で、はっきりと答えた。


「好きじゃねえよ。それにクラスメイトでもねえ。だけどな――」


 本心から、そう答えた。


「女の子にちやほやされるのは、気分がいいんだよ!」



 瞬間、全身に怖気が走った。

 主に、背筋せすじに。

 背筋というか、背骨に。脊椎に。怖気が走った。


「何……?」


 鴉の視線の先。

 俺の背後。

 蠢く、細長い、黒光りする脊椎のようなものが。というか、俺の尻尾だった。


「左腕に続き、今度は尻尾か。若者の人間離れという言葉も、あながち冗談ではなかったようだ」


 そうだね。

 うねうねと元気に動く、およそ2メートルはあるであろう尻尾は、各関節ごとにギチギチと音を立てている。鋭利な先端からは、何だかえげつなさそうな液体が分泌されている。

 いよいよもって怪物である。

 もちろんというか何というかこの尻尾。俺の意思で動かせるようだ。そして痒い。本来俺にない部位なのだが、何故か痒い。

 せっかくだから、驚いているんだか感心しているんだか、動きを止めている鴉の胴に、やはりこいつをぶち込むことにした。


「むう!」


 尻尾の先端は、胴に垂直に突き立てられた。僅かに食い込んだ。


「……何だと……」


 焦った様子はないが、不可解といった表情で、鴉が呟いた。

 見れば、僅か。僅かに。少しずつ、鴉の胴に、腹に。尻尾の先端が食い込んでいく。


「なるほど。この液体か。俺の皮膚は濃硫酸すらものともしないが、一体何だろうな。これは。ごふっ」


 鴉が血を吐いた。珍しい。


「駄目だな。痛みは慣れねえ。滅多に感じることがないからな。外喰、やれよ。一思いにやれ。まさかお前に、敵をいたぶる趣味はねえだろう?早く終わりにしろよ。俺はここから活路を見出せん」


 このままいけば、たぶん、鴉の身体を貫ける。

 しかしこの尻尾の太さを考えるに、貫いた時点で、鴉の身体は胴から分断されるだろう。

 急いで九里古里のもとに連れて行ったとして、助かるかどうか。宮方も胴を切断されて、九里古里の『隷属回帰バニッシャー』で回復した。だけどあれは、すぐのすぐだったし。あまり時間をおいては、流石に無理なんじゃないか。


「外喰よ。何だ、いたぶってくれるじゃねえか。見損なったぜ。早いとことどめを刺しちゃくれねえのか。ああ?それとも何だ。お前の妹をいたぶった仕返しということか。案外――いや、案の定器が小せえな」


 妹をいたぶった?

 楔がアジトに連行された時のことか?確かに本人が、アジトでやられたとは言っていたが。それは鴉にやられたってことだったのか?

 だけど、べつに今更そんなこと。

 楔だって、別段鴉を恨んでいる風には見えなかった。無事だったんだし、それならいい。

 こいつは。鴉は。俺を挑発しているのか。この期に及んで。

 自分を殺させようとしているのか。


「おいおい。悠長な殺し方をしてくれるな。何なら、お前の尻尾に突き刺されている今のうちに、俺も悠長に仲間でも呼ぶか?生憎というか丁度よくお前からは離れているし、両手も自由なんでな。そうだ。座蔵覇嶺に連絡をとってみるのもいいだろう。『繁栄派』の情報網をなめるなよ。一方的にだが、俺は座蔵の連絡先を知っている。かけることもなかったんでお蔵入りしていたが、人生最後だ。ものは試しというしな。お前がアジトに乗り込んでいる現状を知ればあの馬鹿は、もれなく駆けつけるだろう。そして、あえなく殺されるだろう」


 挑発だ。挑発だ、挑発。

 鴉が携帯電話に手をかける。平然と操作をしている。電話帳を、探っているのだろうか。

 急かしているのか。自分を殺せと。

 何なんだよこいつ。人の気も知らないで。あ、いや、知ってるのか。知ったうえでこうしてるのか。つくづく性格の悪い奴だ。

 言うとすれば、初古の気も知らないで――だな。

 尻尾は既に、大分深く刺さっている。そろそろ背中から出て来るんじゃないかってくらいに。

 俺は、静かに言った。


「どうなっても、知らねえぞ」

「こっちの台詞だ。座蔵がな」


 勢いよく、尻尾を引き抜いた。

 そして!


「ぐおおっ!」


 体勢を崩した鴉の身体に。尻尾により風穴が空いた鴉の胴に――右腕を突っ込んだ!

 異物感を探る。いや、異物感を感じているのは鴉の方だろうが。

 内臓まで硬いせいで何がなんだかいまいち分からないが、形状で判断した。二つの鍵。これを、力を込めずに掴み取った。ついで、鴉から距離をとった。


「なるほど……。なるほどな。外喰。どこまでも甘い奴だ。とうとう俺まで殺さず突破しやがったな。だがその選択、嫌いじゃあない。反吐が出るが、虫唾が走るが、実にお前らしい。くだらん若者の、くだらん自己満足だ。いつ後悔しても、自分を責めろよ。道を選んだ。それはお前の問題だ」

「何が言いたいんだお前……」


 腹に大穴が開いた状態だ。まともには動けないだろう。

 殺さずに鍵を回収できたはいいものの、九里古里の所へ連れて行っても、回復したらまた攻撃してくるだろうし、どうしたものか。

 と、その時だ。

 不意打ち大好き『繁栄派』である。

 俺の身体は突如として、背後からの力の塊――いや、衝撃によって吹き飛ばされた。生身の部分は皮を剥がされ肉を千切られ。鴉も同様に、吹き飛んでいった。通路の壁を破ってこの部屋に入り、この部屋の壁を破って落ちていく。そんな鴉を見送った。あばよ。

 俺はというと、すんでのところで尻尾を床に突き刺し、何とか落下は免れた。

 しかし、鴉の奴。大丈夫か。落下死はしないだろうが、あの怪我のまま放り出されて。1階には医務室もあるらしいし、放っておいても大丈夫か。最悪、初古が嗅ぎつけるだろ。たぶん。

 今はそれより、背後からの攻撃である。

 まさか室内で突拍子もなく謎の怪現象で人体を引き裂く突風が起こる、なんてことはないだろう。

 俺は、千切れた肉が回復するのを感じつつ、振り返った。

 そこには、巨乳で銀髪かつ、巨乳で長身かつ、巨乳で化粧濃い目かつ、巨乳で垂れ目かつ、巨乳で綺麗かつ、巨乳のお姉さんが立っていた。


「何か、視点が一部に集中している気がしますけれど、どこを見ているんですの?」


 あなたのおっぱいです。











 『繁栄派』内部ランキング序列4位。仕宮しみや環瑚玖かんごく。異能『地獄々落キラーチューン』を持つ、音を操る美女。そして巨乳。

 俺の目は、その圧倒的な存在感に釘付けにされた。

 視線を逸らせない……!まるで魔法のようだ……!


「くそっ、なんておっぱいだ……!」

「はいィ?」


 優しい声をしている。穏やかで、心を落ち着かせるような声をしている。


「外喰要……。確かに、楔さんとよく似た顔立ちをしていますのね」


 楔は、友達と共に、この仕宮環瑚玖から逃げてきた――らしい。

 どうやって逃げおおせたのか詳しくは知らないが、そこには九里古里の協力があったと。それだけは聞いている。

 だからこいつは――いや、このお姉さんは、今回の九里古里監禁のことの発端を担っていると言ってもいい。


「よう、妹が世話になったみたいだな。借りを返すぜ」

「いいえ、借りだなんてそんな。私の方こそ、ちょっぴりハードなプレイに付き合ってもらっただけですわ」

「ま、マジでぇっ!?」


 詳しくお聞かせ願いたい!

 楔の野郎、なんておいしい思いをしてやがる!

 いや、というか、え?

 冗談にしろ、何だって?


「仕宮とか言ったな。あんたまさか――」

「察しの通り、私はガチレズです!」


 そこまで察してねえよ!

 マジなの?マジにレズなの?マジレズなの?あ、ガチレズか。

 だったら、楔とハードプレイをしたというのは、本当か?


「お、おい、仕宮。てめえ、一体うちの妹に、何てことをしやがったんだー。絶対に許さないぞ、どんなことをしたのか、一言一句漏らさず言って見やがれってんだー」


 おおっと。ちょいとボロが出そうになったが、危ない危ない。何とか妹を心配して激情する兄としての体裁は保てたか。


「プロレス技を受けたり、顔を溶かされたりしましたけれど」

「ハード過ぎるわあっ!」


 もっとにゃんにゃんクチュクチュを想像していたのに!

 というか、仕宮がされたってことは、やったのは楔の方かよ!お兄ちゃんの知らないところで何に目覚めてるんだあの妹!


「まあもちろん、私だってそこまでハードプレイをするつもりはありませんでしたけれど。楔さんのお友達、懐未さんと××××プレイをしようとしていたくらいで」

「××××ーッ!?」


 ××××!?大トロ中トロ××××!?

 こんな美人が!?マジで!?ああ、でも、ここまで綺麗だからこそ、映えるものなのか!?俺はまだ、というかそっち方面での開発をするつもりはないから分からないけれど!

 やべえ、やべえよ。このお姉さんガチでやべえよ。


「あ、勘違いしないでくださいね。私はその時初チャレンジしようとしただけで、実際に××××の経験はありませんから」

「そ、そうか……」


 安心したような。ちょっと残念なような。

 と、そこで仕宮が腕組みをした。腕組みをして、おっぱいをこれ見よがしに持ち上げた。で、でかいっ!


「まあ下劣。いくら楔さんの兄妹と言っても、敵の――それも男と歓談していても仕方ありませんわね。早いところ仕留めてしまうとしましょうか」

「歓談というか猥談だったけど……」


 しかもちょっと楽しかったけど……。


「さあさあお覚悟外喰要!あなたに千切さんは渡しませんことよ!」

「待て!その前に一つ、聞きたいことがある」


 ガチレズ。そして、千切さんという呼び方。


「あんた、九里古里のことは好きじゃないのか」

「好きですわ。大好きです。即ファック」


 最後に隠語が入ったのが気になるが。

 やはり。九里古里のことが好きなのならば。


「知ってるんだろ?九里古里は今、監禁されて、拘束されて、拷問を受けてるってこと」

「ええ、もちろん。知っています」

「いいのか、それで。好きなんだろ。助けてやろうと思わないのか。苦しんでる九里古里がかわいそうだと思わないのか!」

「思います。思いますわよ、当然。かわいそうな千切さん。後でたっぷり慰めてあげないといけませんわ」


 アフターケアじゃねえだろう。というかトラウマ上塗りだと思うよ。


「そもそも、ただ拷問をするというのなら、私も黙っていませんよ。というか実際抗議しましたわ。ところがなんと好条件!拷問をしている以外の時間!私には!千切さんを好きなようにしていいという権利が与えられたのです!」

「………………」

「拘束して初日、拷問が始まる前、私は早速千切さんに会いに行きました。いっぱいおもちゃを持ってね。いやまあ、初日ですから、控えめにしましたけれどね。日に日に弱っていく千切さん。そしてそれを犯す背徳感!たまりません!ああ、たまりません!」

「………………」

「私は鬼畜ではないので、千切さんの嫌がることは極力しない主義なんですけれどね、千切さんも拷問に耐えかねて、私に助けを求めてきたことがあるんですの。ああ、可愛かった。愛おしかった。泣きじゃくって私に縋りつく千切さん。それでね私、なんと千切さんの初めてを頂きましたッ!」

「………………」

「ふうう……思い出すだけで震えてきます。ん、あら?何屈んでるんですの?」


 九里古里は休む間もなかったってことか。

 肉体的に。精神的に追い詰める。猟奇と恥辱で。追い詰めたということか。

 『繁栄派』……やはり頭のイカれた変態集団というわけだ。一刻も早く九里古里を、助け出さねば。

 息子が大人しくなったらな。


「嫌ですわ。これだから男は。いやらしい。私と千切さんの愛の記憶を聞いて、欲情してしまったんですの?血がたぎるその身体、私が鎮めて差し上げましょうか?」

「いいんですか!?」


 うるせえっ!

 あっ間違えた。逆、逆。


「ご遠慮することございません。すぐに血の通わない身体にして差し上げますわ」

「やっぱいいです!」


 んだよそういうことかよ!期待しちゃったじゃねえか!おのれ『繁栄派』!許すまじ!


「全く男というのは、不便で仕方がありませんわね。私は今興奮してどことは言わず勃っていますが、分からないでしょう!?」

「分からないから見せてください!」

「万死!」


 さっきと同じ、音の衝撃波!

 またも避けることなく、直撃してしまった。

 吹き飛びながらの、全身の皮が剥がされるような痛み!腕や頬の肉が、削がれた。

 既に大穴の開いた部屋から放り出されつつ、今度は下の階の壁に尻尾を突き刺して、何とか助かった。

 しかし、マジにどうする。あのお姉さん、エロいだけじゃなくて強い。エロいうえに強い。あの衝撃波、この目をもってしても、見てから避けられるものじゃあない。発射する方向が事前に分かっていても、何とか直撃を免れる程度って感じだ。攻撃力、攻撃速度、攻撃範囲、どれをとってもずば抜けてやがる。

 直撃覚悟で突っ込んだところで、押し戻される。床に尻尾を刺して進んでも、床が先に割れてしまう。

 不意を突くしかないのか。


「あらぁー?あらあらー?しぶといんですのねー?蝿みたいに、パンと叩いてはい終了、とはいかないものですわねえ」


 アジトの外壁に尻尾を突き刺してなんとか空中に留まっている俺を、仕宮が壁の大穴から覗き込む。

 そしてこの時の俺と仕宮の位置関係は、急角度で仕宮が2メートル強上にいる状態になる。

 俺の位置から、吹き込む風に揺られた仕宮のスカートの、その深部を見るのは容易かった。


「レースの紫だああああああああ!ひゃっほおおおおおおおおう!」


 俺は、衝撃波を受け、そのまま『繁栄派』アジトの中庭に叩きつけられた。

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