表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異行  作者: yoho
その3
24/47

024

今回、少しだけ(気持ち程度)破廉恥かもしれません。苦手な方はご注意ください。

「覇嶺さんって、腋が綺麗ですよね」


 セクハラをした。

 あ、いや、違う。褒めた。褒め言葉。

 常日頃から――というより初対面のその時から思っていたことだ。それを今、言葉にしてみただけだ。

 先ほど×んぐり返しではずかしめを受けた覇嶺さんだったが、今では落ち着きを取り戻している。平静を取り戻している。


「え、そんな。何だか照れますね」


 褒めてねえよ!

 数秒前のモノローグを否定というか訂正するが、俺はセクハラをしたのだ。

 覇嶺さんの腋が魅力的だというのは本心だが、覇嶺さんを悦ばせるための発言ではなかった。覇嶺さんに叱られるための発言だったのだ。

 そりゃあ、セクハラする度に怒られていたらそんなもん身が持たないが(俺はこの先何千回怒られればいいんだよって話だが)、たまには、もう、困った子ね、じゃあなくて、こらこら駄目よって言われたいのだ。言われたいんだよ。


「処理してるんですか?」

「何の話ですか?」


 鳩が肘鉄砲食らったような顔の覇嶺さん。

 何の話って今してた話だろうがよ。駄目だ。無難にスルーしようとしている。強引に行くしかねえ。肘鉄からのコークスクリューだ。俺は豆鉄砲なんて知らない。


「腋の処理はしてるんですか」

「何の話ですか……?」


 ころころ表情が変わる可愛い人だと、心底そう思う。

 例えそれが、きょとんと大きな目を丸くしたものから、ブリーフ一丁で元気に反復横跳びしている中年に向ける軽蔑のものへの転向だったとしても。


「やれやれ覇嶺さん。歳ですか?今の今まで何の話をしていたら忘れちまったってわけじゃないでしょう。仕方ないな。なんなら俺がヒントを出しますよ。一体どの部位について話していたのか。俺が覇嶺さんのそこを舐めて暗に示しますよ」

「死んじゃえ」 


 ありがとうございます!

 来た!やっと来た!これを待ってたんだよ!なんだかテンション上がってきた!


「私に興味を持ってくれるのは嬉しいですけど、そういうのはちょっとドン引きです」

「構わんよ」

「そういうことじゃなくてえっ!」


 ドン引かれたって構わない。俺は屈しない、怯まない、省みない。

 強く生きると、そう決めた。


「で、腋毛は剃ってるんですか?」


 何だか恥ずかしくなってきた。

 腋毛剃ってるの?って聞くの、なんか恥ずかしくない?恥ずかしい気がしてきたんだけど。ひょっとしたら恥ずかしいことなのかもしれないな。

 慎重にいこう。


「その話続いてたんですか……」


 続いてたよ。終わってないもの。

 一段落したら次の話題――とか、そういうんじゃないから。違うから。

 覇嶺さんの深い溜め息。


「してますよ。してます。悪いですか?何か問題ありますか?」


 威圧的な返答だった。

 何で半ギレなん?


「俺、聞いたことがあるんですけど、女性の中には、毛が生えない人がいるって本当ですか?」

「そんなヴェルドレみたいな……」

「腋毛の話だよ!誰が全ての体毛って言ったよ!」


 誰が年老いたドラゴンと契約を結んだ神官長だよ!


「さあ、どうなんでしょうね。私はそういう人ではないですから。知り合いにもいませんし。あ、べつに、知り合い全員の体毛の事情を知っているというわけではないですからね?知っている範囲ではいないというだけで」


 そこは誤解してねえよ。


「そういや覇嶺さん。してますっていうのは剃ってるって意味で言ったのか?だったら、今触ったらジョリジョリすんの?」

「しません。ツルツルです」


 本当だろうか。


「女性の中には毛の生えない人もいるらしいと言ったけど、あの、あれらしいですね、覇嶺さん。あの、ほら。腋毛だけじゃないらしいですね」

「んー?」

「腋毛だけじゃなくてさあ、ほらあ、あのさあ、あるじゃん」

「何ー?」

「くっ、くそ!」


 何を躊躇してるんだ俺は!今更恥じることがあるかよ!

 覇嶺さんも分かってて首を傾げてるな。にやにやしやがって!


「どういう人がいるんですかねー、要くんー」

「毛が生えない人だよ」

「そんなヴェルドレみ――」

「神官長はもういいよ!」


 俺がマ×毛って言えば済む話だ。

 行くぜ。言うしかねえ!


「あの、ええと、ほら、あの……きょ、局部が……つんつるてんな人もさあ、いるとかいないとかって……」

「あはははははっ!」


 覇嶺さんは大笑いをした。


「あっはっはっはっはっはっは!あはっ!あっはっはっは!」


 もういいだろ。許してくれよ。


「はあ……はあ……、普段から下ネタばっかり言ってるくせに、何照れてるんですかあ?可愛いですねえ要くんは?ねえねえ?顔赤いですよ?どうしたんですかあ?」


 くっそ……。


「何で腋毛は言えて下の毛が言えないんですかあ?どういう基準なんです?要くんー、顔上げてくださいよー」


 おのれ。

 さらっと最低なことを言ってのける。そんな下衆っぷりが俺の絶対個性。そう信じて疑わなかった筈だが……。

 負けた。折れた。

 負けた個性に価値はない。


「要くんってパイパンっぽいですね」

「何だと!?」


 セクハラだあっ!


「俺がパイパンなわけあるかよ!見てみ――」

「あ、パイパンは言えるんだ」

「はああっ!」


 やられた……っ!

 俺の。外喰要に7つあると言われている弱点――その一つ。局部の体毛関係。チン毛は余裕なんだけど。マ×毛は駄目。毛が生えてる人に抵抗があるとかじゃないんだけど。場合にもよってあってもなくても興奮はするんだけど。そうじゃなくて。言葉として駄目。無理。苦手。

 恥ずかしいのだった。

 くっそどうでもいい弱点だな。


「覇嶺さん、俺が悪かった。この話は終わりにしようぜ」

「えー、自分から言い出しておいてそれはないですよ要くん。私もそういう気分になってきちゃったし」

「………………」


 この後滅茶苦茶セックス(についてはな)した。











「おっぱいはでかい方がいいに決まってんじゃん。何言ってんのはみ姉」

「はみ姉はやめてください……」


 下ネタ談義は終わっていなかった。


「そう。そうですか。いや、べつにいいんですけどね?ふうん、そっかそっか。ふうーん。そうなんだ?そっかー、要くんは巨乳好きですかー」

「何だよ。言いたいことがあるならはっきり言えばいいだろ」

「ふうーん……」


 覇嶺さんが極貧乳であることを十分理解したうえで発言している。失言はしていない。

 ここで覇嶺さんに気を遣って貧乳派だと主張したところで、それでは彼女のためにはならない。彼女のためにはならないし、もちろん俺のためにもならない。誰のためにもならないのだ。

 巨乳が好きなだけで貧乳が嫌いなわけではない。貧乳も好きだけれど、巨乳の方が好きだというだけの話だ。俺に嫌いなおっぱいなどない。ババアの乳はおっぱいと呼びたくないので、それは除外して、嫌いなおっぱいなどない。おっぱい大好き。


「俺はなにも、覇嶺さんのちっぱいを否定してるわけじゃないぜ。そもそも、覇嶺さんがちっぱいだと断定しているわけでもないしな」

「じゃあちっぱいって呼び方やめてくださいよ……」

「俺はなにも、覇嶺さんの小さいおっぱいを否定してるわけじゃないぜ」

「略称でいいです」

「ひょっとしたらもしかしたら、覇嶺さんのバストが80以下というのが嘘で、さらしでぎゅうぎゅうに締めていて、それを取ったらたゆんたゆんなのだとしたら、俺は今覇嶺さんのことを物凄え褒めてることになるわけだろ?」


 まあ、さらしは見えないけど。

 腋ガバガバの格好とかしててもさらしは見えなかったけど。というかブラもしてないんじゃない?むしろ要らないんじゃない?


「なるわけだろ?と言われましても……。いいですよ、もう。どうせ私はちっぱいですよ。要くんの大好きなたゆんたゆんじゃないですよ」

「知ってる」

「やかましいです」

「だがね覇嶺さん」


 俺は意味深な角度で切り出した。


「あなたのその貧乳は本物だ」

「………………」


 意味が分からない。

 そんな顔をされた。


「貧乳好きにはロリコンが多いと、よく言うし聞く。だけど、ロリの貧乳は未発達で、発展途上で、それはまだどういうおっぱいかは分からないものなんだよな」

「はい」

「おっぱいではあるが、完成されてない。未完成のおっぱいだ。それを好む特殊性癖野郎はこの世に溢れかえっているが、そいつらは所詮特殊性癖だってことだよ」

「はい」

「特殊なんだ。特別なんだ。特異なんだ。ソフトに言えば変わってる。未完成の絵画を観て、評価をつけるナンセンスな審査員がいるか?いや、いないね」

「はい」

「評価ってのは完成品につけられるものだ。つけられるべきだ。真っ白な絵画も、工程を覗けば真っ黒だったのかもしれない。白が好きで黒が嫌いな審査員が、その完成品に対してつける評価は最高。未完成品につける評価は最低だ。こんなのありかよ。嫌いなところだけ見て嫌い、だなんて、不自由なものの考え方しかできない証拠だぜ」

「はい」

「話が反れた。例えば――そうだな。俺は友達どころか知り合いすらも少ないから、互いに知ってる初古のおっぱいだ。あいつのおっぱいは発展途上の代物だ。今は小さい」

「はい」

「だけど、いずれはでかくなるかもしれない。可能性を秘めてるよな」

「はい」

「まあ、その可能性を秘めたところが好きって奴もいるかもしれないけどな。この先小さいままだろうと、でかくなろうと、どちらにしろおいしい。そう考えてる変態も中にはいるかもしれない」

「はい」

「俺の知り合いの貧乳――覇嶺さんと初古。ひとえに貧乳好きと言っても、この2人のどちらを選ぶかで貧乳好きとしての品格に差がつくってわけよ」

「はい」

「初古を選ぶ奴は貧乳好きというかロリコンだ。ひょっとしたらロリだったら巨乳でもいいのかもしれない。いざロリ巨乳を目の当たりにしたら、過去の自分を恥じることだろう。ロリ巨乳、最高じゃないか!と」

「はい」

「一方、覇嶺さんを選ぶ奴は本物だ。覇嶺さんのおっぱいは本物の貧乳だし、覇嶺さんを選ぶ奴は本物の貧乳好きだ。完成されている。成長しきったうえでの貧乳だ。レベルマックスなのにおっぱいのパラメータが1桁って感じだな。この先も、でかくなる心配がない。安心できる貧乳だ」

「はい」

「本物だよ。あなたのそれは本物だ。誇っていい。俺はでかい方が好きだけど」

「はい」

「覇嶺さん、何で泣いてるんですか?」

「泣いてません……」


 泣いてた。

 歳をとると涙腺が緩むっていうしな。


「要くん、あんまりですよ。あまりにもあんまりですよ。ここまでの侮辱は受けたことがありません」

「侮辱?馬鹿言うなよ、俺がいつ、覇嶺さんのちっぱいを侮辱したっていうんだ?」

「私のちっぱいじゃなくて私自身をです」

「覇嶺さんも覇嶺さんのちっぱいも侮辱してねえよ。むしろ褒め称えてたよ。あ、さては話ちゃんと聞いてなかったな?通りで相槌がてきとうだと思ったわ」

「一言一句聞き漏らさずに耳を傾けていたら涙が出てきましたっ!」


 泣いてるじゃん。


「そうか。捉え方は人それぞれだからな。不快に感じたようで、謝ります」

「いいですよ、べつに。気にはしますけど」


 気にはするんだ。


「要くんはそういう子ですもんね。分かってましたよ。ここまで言われるとは思ってなかったですけど」

「そこまでへこまれるとは思わなかったもんで……」

「へこみますよ。簡単に言えば、お前胸小さいよな、小さいよな、マジ小さいよな、俺は大きい方が好きだけど。ってことじゃないですか。ニフラム食らった気分ですよ」


 ニフラム食らったら気分も何も消滅するだろ。

 というか俺の論文をコンパクトにスマートにフラットにまとめないでくれるかな。心外だ。


「何でそんなにダメージ受けるんだよ。べつに俺は貧乳を否定してはいないだろ。貧乳も好きだよ俺は」

「貧乳って言われるのが既に大打撃なんですう!」

「なんとっ!」


 そうだったのか!

 ここまで完成されたちっぱいを有する覇嶺さんのことだ!てっきり言われ慣れてるものとばかり!

 世界のちっぱいモデル100選とかあったら、選出確実というくらいだ。年齢制限があったら厳しいかもしれないけど。


「でも、覇嶺さんは可愛いじゃないですか」

「えっ……?」


 ポッ、みたいな。ドキッ、みたいな。キュンッ、みたいな。

 少女漫画のキャラクターばりの反応を見せた覇嶺さん。

 やっぱりちょろいのな、このお姉さん。


「そっ、そんなこと言ったって誤魔化されませんからね。女たらしみたいなこと言っちゃって。童貞のくせに」

「どどどど、童貞ちゃうわ!」


 童貞です。


「あ、短小」


 覇嶺さんが、何かに気付いたように、そう言った。

 俺は静かに聞き返す。


「短小?」

「短小」

「何が?」

「要くんが」

「短小?」

「短小」

「短小じゃねえしっ!」


 怒鳴った。俺は怒鳴った。


「どうです?傷付くでしょ?私は今要くんが受けているダメージを受けていたんですよ」

「なんと卑劣な……。卑怯なあっ!」

「卑怯じゃないでしょう!同じ手でやり返しただけですよ!」

「俺は貧乳って言ったんだから覇嶺さんだって俺を貧乳と罵ればいいだろうが!」

「貧乳って言われて要くん何か思うところがあるんですか!?」

「何もないが!」

「ほらあ!」


 だからってそれはずるいよ。

 そんなん一発は一発とか言って、デコピンに瞬獄殺で返すみたいなもんだよ。


「大体覇嶺さん俺の見たことあんのかよ!」

「ありませんよ!要くんだって私の見たことないでしょう!?」

「見せてください!」

「嫌です!」

「お願いします!」

「見せるに値しませんからね、こんな貧乳は!巨乳好きの要くんのお眼鏡には適いませんよ!」

「くそおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」


 俺は後悔した。

 貧乳を褒め称えていれば!

 巨乳より貧乳が好きだと大口叩いて回っていれば!


「見せてもらえたのに!」

「そうは言ってませんが!」


 そうは言ってなかったらしい。











「これで手打ちにしましょう」

「終戦協定ですね」


 何故か2人共ヒートアップしてしまっていたようだ。

 一旦落ち着こう。

 一旦落ち着いておっぱいの話をしよう。


「でも覇嶺さん、どうなんですか?」

「何がです?」

「覇嶺さんのおっぱいって柔らかいんですか?おっぱいと二の腕の柔らかさは同じだとも聞いたことありますけど、覇嶺さん、そんなに二の腕カッチカチでしたっけ?」

「どういう意味ですかねえ?」


 聞こえた通りの意味だよ。

 とは言いつつも、覇嶺さんは別段怒った風ではない。そのうち自分の二の腕を親指と人差し指と中指でつまみだした。


「ふむ。なるほどなるほど」

「カッチカチですか?」

「ぷにぷにです」

「どれどれ」


 伸ばした手を叩き落とされた。怖い。


「で、おっぱいは?」

「ちょっと待ってくださいね」


 そう言って覇嶺さんは、自分の胸に。右乳と左乳に右手と左手を添えた。手ブラのポーズ。


「………………」


 そして自分自身の胸を揉み始めた。

 覇嶺さんの細い指が(脂肪じゃなくて)衣服に食い込む。指の動きと同調して表情を変える、衣服のしわに風情を感じる。わびさびだった。

 しかし、凄い光景だ。生きててよかった。

 誘っているかのよう。あるいはそういったプレイの一環みたいだ。なんか物凄え興奮してきた!脱ごうかなっ!


「うん……?んんんー……?」


 嬉しそうな(他人事のよう)俺とは裏腹に、覇嶺さんは難しそうな顔をしていた。

 不具合でも――あったのだろうか。


「うん、うん……。……うん」


 揉み終えた。

 どうでもいいが、『揉み終えた』って凄い単語だな。


「どうだった?」

「おっぱいの方が柔らかいですよ」


 覇嶺さんは、俺と一切目を合わせずにそう言い切った。覇嶺さんの黒目が四方八方に縦横無尽。泳ぎまくっていた。


「え、ちょ、ちょっと覇嶺さん。その反応はガチで対処に困るぞ……?こんなことを言い始めた俺が悪いのはもちろんだけど、まさかそこまでとは思ってなかったぞ……?」

「な、何がでしょう……?私、事実を述べただけなのでありますが……?」

「なんかいつもより丁寧になってる!」


 動揺しているのだろうか。


「おっぱいの方が柔らかいです。断然。段違いです」

「そうですか……。どんな具合なん?二の腕がぷにぷになら、おっぱいは?」

「たゆんたゆんでした」

「嘘つけえっ!」


 いい歳した大人が虚勢を張るんじゃねえよ虚乳!


「うっ、嘘じゃないですよっ……?ほ、ほらっ」


 覇嶺さんが自分の胸を寄せて上げた。――正確には、寄せて上げる挙動をとっただけで、寄っても上がってもいない。


「ほらと言われても……」


 そのままの体勢で、親指と残りの指でおっぱいを挟んで(挟めてない)むにむにした。セルフ搾乳をした(出てない)。

 先程から上質なしこりメディアを提供してもらっている筈なのだが、いかんせん退廃的な絶望感が俺の性欲を捻じ伏せている。


「もういい……!もう……休めっ……!休めっ……!覇嶺さんっ……!」

「何でっ!?何でえっ!?」


 いつ言おうか迷っていたことだが、それはおっぱいじゃなくて皮――なんて、今の彼女に言ったら。崩れてしまいそうな程に、彼女は脆く見えて。儚く感じて。美しく思えて。俺は結局、その言葉を言い出せなかった。











「驚いたぜ。まさかこんな結果になるとは俺も思ってなかったから」

「だから、おっぱいの方が柔らかかったって言ってるじゃないですか」


 僅差で。僅差でね。

 そういうことにしておいてあげよう。


「楔の奴だって、流石におっぱいの方が柔らかかったですよ」

「えっ?」


 まるで驚いた風な表情で、まるで驚いた風な声を上げる覇嶺さん。

 何か変なこと、言っただろうか。


「く、楔ちゃん?」

「うん。いやだって、他人の二の腕とおっぱい揉み比べしてたら変態みたいじゃないですか」

「そのものですよ。というか、実の妹の二の腕とおっぱい揉み比べしてても変態ですよ」

「そうなの!?だって家族なんだぜ!?」

「家族を何だと思ってるんですか……」

「心の拠り所」

「真面目っ!」

「それ以外何があるって言うんですか」

「今の今まで喋ってたのとは違う人なんでしょうか……」


 アホ抜かせ。俺そのものだよ。正真正銘外喰要だよ。


「楔の奴も相当胸がないけど、それでも、覇嶺さんほどではなかったなあ」

「何だかその言い方だと褒められてるみたい」

「褒めてるわけないじゃないですか」

「分かってます」


 あ、そうだ。前回聞き忘れたことがあったっけ。


「他人のおっぱいの話が出たからいい流れだと思って口にするけど覇嶺さん、『繁栄派』上位ランカー女子のおっぱいのことについて教えてくれよ」

「ふざけないでください」

「ふざけなんかいねえよ。俺は真面目だ」

「うん、まあ、分かってましたけどね。分かりたくはなかったけど。要くんが聞きたいなら教えてあげるのもやぶさかではないですが」


 流石はみ姉。理解ある女性だ。


「とは言いましたけど、あの子たちと友達というわけでもないんだし、詳しいことは分かりませんよ?」

「ああ、構わねえ。分かる範囲でいい」

「何でこういう時にいい声で喋るの……?」


 褒められた。やったね。


「じゃあ、ええと、8位の麻柄々まからがらさりちゃん。この子は、ううんと、なんだ、普通ですかね。普通です」

「くすんだピンク?」

「誰が乳首の色の話をしたんですか」


 あれ?分かった?


「そもそも日本人は黄色人種だから、綺麗なピンク色ってそうそうないらしいですよ。というか茶色の中で濃い薄いがあるくらいで――」

「夢を壊すなよお!」

「必死!」


 童貞の夢を!

 儚い希望を!

 よくも!


「ということは覇嶺さんも真っ茶色なんですか」

「いや緑色ではないですよ、怖い」

「抹茶色とは言ってねえよ」

「分かりづらいですねえ!」


 イントネーションで判別してもらいたいところだ。


「要くんは、やっぱり綺麗なピンク色が好きそうですよね。童貞だし」

「そこに童貞は関係ないだろ……。安心してくださいよ。俺は覇嶺さんぐらいの濃さが一番好きですから」

「あ、なんか凄く真っ当なセクハラを受けましたね」


 しましたね。ええ、しましたしました。通報もやむを得ません。


「話が反れたが、普通というと、Cカップくらいなのか?」

「そんなもんじゃないですか?全国平均がどの程度なのか分からないから、確実にどうとは言えませんが」

「覇嶺さんは、AAAですもんね」

「さて、第6位、余口初古ちゃん」


 スルー!


「言うまでもなくというか要くんももう知ってますね」

「未発達未完成未開発のおっぱいですね」

「未開発かどうかは分からないんじゃないです?」

「さらっと怖いことを言うな!」


 開発されてたらどうすんだよ!『繁栄派』の闇が見えてくるよ!


「4位の仕宮環瑚玖ちゃん。この子はおっきいですよ。凄くおっきいです。それはもうたゆんたゆんだそうです。私は実際会ったことはないから、聞いた話ですけど」

「聞いたって……、一体どんな筋から買った情報なんだ。それもわざわざ敵対組織の女の胸の情報を買うなんて。覇嶺さん、あんたもしかしてレズなのか?」

「違います。聞こえたんですよ。『粛正派』の男たちが、話してるのが。仕宮と直接戦ったのか逃げてきたのか分かりませんけど。よくもまあそんな状況で相手のおっぱいを見てる余裕があったものですよね」

「尊敬に値しますね」

「軽蔑に値します」


 手厳しいな。シビアだ。とてもシビア。


「最後に第3位、憂原やつりちゃん。女子高生だって言いましたよね。高校1年生なんだそうですよ。この子とも会ったことはありませんが、目撃情報にると小さいそうです」

「へえ、女子高生はちっぱいか。うちの高校4年生も胸がないけど、どっちが小せえかな」

「うちの高校4年生って、何ですか?」

「うん?あ、やべ」


 覇嶺さんは楔が高校卒業してること知らないんだっけ。やべえ、言うなって言われてたのに。いやまあ、バレたところであいつがどう変わるということもないんだろうけど。


「まさか楔ちゃん、留年してるんですか?」


 下手な誤解を受けてしまった!


「……うん、そう」


 誤解を承認してしまった!

 やっちまった!まあいいか!似たようなもんだ!わっはっは!


「そうですか。それは大変ですね。頑張ってって、今度言っておきますね」

「い、いや、いいよ。その必要はない。あいつもそこには触れてほしくないみたいだからさ。そっとしておいてやってくれよ」

「……分かりました」


 まあ、これはあいつも悪いよな。紛らわしいコスプレしやがって。


「『繁栄派』と言えば、要くん、九里古里千切と仲がいいんですね。というか、クラスメイトなんですって?」

「クラスメイトではねえよ。同級生なだけで」

「どっちでもいいじゃないですか。あの子も、おっぱいおっきいですよね」

「そう言われればそうだな。あいつもでかい。かなりでかい。一度触ってもいいかと頼んだら、断らなかったけど」

「断らなかったの!?え、揉んだんですか!?」

「揉んではねえよ。触ってもねえ。耐えた」

「よく耐えましたね……。えらいえらい……」

「でも、あいつの胸は触る気がなくとも当たってしまうことがあるけど、その点、覇嶺さんは触ろうとして触らなければ、まず触れることはないですよね」

「何ですか。また私いじめですか」

「いじめてませんよ。可愛がってるだけです」

「嬉しくないです」

「喜ばれても困る」

「そうですかよっ!」


 九里古里と一緒にいる時、何らかのアクションでおっぱいが当たることは確かにある。わりとよくある。覇嶺さんと一緒にいてそんなことはない。一切ない。

 九里古里は俺のことが好きだと言っていた。もしかしたらわざと当ててんのよかもしれない。その可能性は――自分で言うのもなんだが――ある。おっぱいアピールしているのかもしれない。もし仮に、覇嶺さんが俺に好意を向けていて、おっぱいアピールをしようとしたら、かなり不自然なことになってしまう。それこそ、擦り付けないと駄目だ。当たらない。分からない。そんなもんもはや痴女だ。

 やはり、おっぱいは女の武器なのだろう。

 俺は確信を得た。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ