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34話 そしてこちらは

 窓もない薄暗い広間。一部を除いて満足に管理もなされていないその場所で、ササハとゼルスは死霊を吸収し膨れ上がったナニカ――――黒煙のようなフェイルとは違い、ふつふつと泥が呼吸をしているような塊を見ていた。神殿と王城の玉座の間をかけ合わせたようなこの場所の、一番高い場所から化物が二人を見下ろしている。


 その化物に向かってゼルスが走り出した。


 が、玉座へと続く階段のすぐ手前に防護障壁が存在しゼルスを拒んだ。


「あの化物の魔法か、それとも何処かに魔道具でもあるのか?」


 忌々しげなゼルスの声音に、ササハは周囲を見回す。此処に飛ばされてから、今化物がいる場所は怪しいからと後回しにして出口を探した後だった。その時は赤い石が散らばっていたこともあり、あちら側には近づかないようにしていた為気が付かなったようだ。


 それでも怪しいものや、魔道具らしきものは見かけなかった。


「あ、殿下! とりあえずわたしの連結カタシロを巻き付けておいて下さい」

「カ、カタシロ?」


 ササハは今思い出したようにカタシロを取り出すとゼルスに広げて見せた。ゼルスからすれば初めて目にするカタシロ――――ただの紙人形に訝しそうな表情を向ける。


「いいから、とにかく巻いてください!」

「おい、何を――――ん? 不思議だ、この奇妙な紙を巻きつけると、あの不快な脱力感が和らいだ!」


 無遠慮に連結カタシロを巻き付け、第六魔力で固定する。するとそれまでゼルスから抜け出ていた湯気のようなものが途切れ、それを感じたゼルスの様子も軽やかになった。


「海向こうのおまじないです。悪いものを遠ざけてくれるよう願いを込めておきました」


 母のカエデのように強力な護符は作れないが、これくらいなら出来る。ないよりは有るほうがマシ程度の効力ではあるが。


 これで少しは落ち着いたと改めて化物を見れば、薄っすらと見える障壁の構造に目が行った。気になったササハがもう一度障壁を確認しようとゼルスの隣に立てば、再び侵入を拒む光が強くなる。


「殿下あそこ見て下さい。この障壁内側にも似たようなものがもう一枚あります」


 ササハの視線を追えば、化物がいる最上段。玉座の周辺を囲むように障壁が作られているのが分かった。そのせいで化物もその場から降りてこれず、聞き取り不明のうめき声を漏らしているだけで済んでいた。


「とりあえずは安全……ってことでしょうか?」

「…………」


 ゼルスからすれば、すぐにでも斬り刻んで消滅させてやりたかったため、手放しに喜ぶことが出来ない。


「殿下……?」

「いや、すまない。そうだな。まずは安全に、皆の元へ戻る方法を見つけよう」


 不安げなササハの声に、煮えたぎる渇望を抑えよと己へと言い聞かせた。


 だがその後、再び周囲の確認(出口探し)を行ったが期待する結果は得られなかった。


(うぅ、もう疲れた。なんかここ寒いし、暗いし……お腹すいたよう)


 広間の壁沿いを二桁以上往復するに、ササハは体力も気力もすり減らしへたり込む。少し休憩しようと言うゼルスの顔色にも疲労がにじみ、もしやすれば脱出経路などないのではと笑えない状況だ。


「……もう、ドアを何としてもぶち破るか、転移魔法陣が有ることを期待して王様の椅子を調べるためにアイツを倒すしかないですかね?」


 やさぐれた目つきのササハが言う。


「……だがそもそも障壁をどうにかすることも、簡単には行かないだろう」


 ゼルスはどうも化物を屠る方向に乗り気なようで、ササハのボヤキを真剣な表情で考え出した。


 その為には障壁をどうにかしなければいけないのだが、神殿の封印を壊したことでササハも本調子ではなく、下手をすれば刺激した化物を解き放っただけで魔力枯渇で気を失ってしまう可能性だってある。


「あれ? 殿下……あの黒いの、大きくなっていませんか?」


 ふと化物を仰ぎ見たササハは、一回り大きく変化した泥の塊に眉を寄せる。それにゼルスも気づいたのか困惑した様子で肯定を返した。


 それに二人が気づいた時には遅く、化物を抑え込んでいた内側の障壁が弾け壊れた。


「なっ!」


 ゼルスが再び剣を手に取った。


「馬鹿な! アイツどうやって結界を壊し……出てくるつもりか!」

(どうして急に大きく…………あ!)


 そしてササハは気づいた。段上にフェイルの赤い石が散らばっているのは変わらないが、化物がいる最上段。そこにあった赤い石が今は一つも見当たらなかった。


「殿下! おそらくフェイルの石を吸収したんだと思います! 先ほどミイラからあの姿に変わった時みたいに、自分の養分にしたんだと思います!」

「そんな事がっ!」


 化物がズルリと一段、身を落としながら散布している赤い石をのみ込んでいく。すると泥の塊はぶくんと膨れ、最上段から最下層まで降りてきた頃には見上げるほどに大きくなり、二枚目の障壁も簡単にぶち破ってしまった。


「なんと醜悪な…………これは本当に何なのだ……」


 ミイラの姿の時も、動いているものの生きているとは思えなかった。なのにこのような姿になっても生きる意思――――養分を求めゼルスへと向かってきている。


 ササハのカタシロで抜き出るものは最小に押さえられているが、ゼルスは、王族はこの化物の養分にされているのだと剣の柄を握りしめ切先を定めた。


 狙うは化物の中心部。先程から奪われた力がそこへと流れ込んでいるのを、ササハは視える目で、ゼルスは繋がっているため感じ取れた。


「殿下まずはわたしが攻撃してみます!」


 膨れ上がった図体の中心部にゼルスの剣では届かない。かと言ってササハもフェイルの赤い石を貯め置くこの場所で、強い魔力を放つことはしたくなかった。


 神殿で封印を解こうとした時の事を思い返しながら、化物の中心部のみに魔力をぶつけるよう特殊魔具をかまえる。あの泥の塊を崩すように。ゼルスの剣が最奥まで届くようにと。


 ササハの魔力が泥のような身体を削る。痛みなどはないようで化物の様子に変化はないが、徐々に質量を減らしていく。ただ飛び散った残骸は消滅することはなく、地に落ちた後は緩慢な動きでまた一つに戻ろうと蠢いているのが見えた。


「あれか?」


 抉れた化物の腹から赤い光が隠れ見えた。ゼルスが周辺の泥にも注意を払いながら一気にその距離を詰めた。そして赤い光目掛けて剣を突き刺した。


 その一撃に化物がこの世のものとは思えぬ絶叫を上げた。


 それと同時に辺りが揺れ始め、古い石造りの建物はこのまま崩壊するのではと不安を抱かせる。


「地震? 殿下いったん避難したほうが」


 そこまで言いかけて、一つしかない扉はいくら押そうが引こうが開かない。


 しかもゼルスの一撃は致命傷にはなっていなかったようで、化物は苦しみ暴れ始めたのだが、散らばった泥も吸い込まれるように回収され、沸き立つ泥のような物質から今にも溶け出しそうなヘドロに変化した。


「私の責任だ……すまない」

「殿下?」


 終わらせると斬り掛かった時、ゼルスはほんの少し躊躇ってしまった。あの(おぞ)ましい泥の塊に触れるかも知れぬと、最奥まで踏み込もうとした足を止めてしまったのだ。


(どうしよう。ダメ元でもう一度扉を調べてみる? それともあの怪物を何とかすれば地震も収まるかしら)


 ササハが扉と化物を交互に視線を彷徨わせていた時、カッと目の前が眩しいほどに光った。その光は瞬き一つ分にも満たぬ僅かな時間であったが、その光が収まり閉じてしまった目を開けば。


「…………先生」


 そこには白のローブに花冠型の特殊魔具を頭上に浮かべている男。ケイレヴ・シオンの姿があった。

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