憂鬱
ああ、また雨だ。
細い、じゅくじゅくした雨が西の窓を濡らしていく。
外は沈殿物が底の沈んだ上澄みのような灰色の雲が広がっている。俺は、最近この天気が嫌になっていた。雨は嫌いだ。
その時、ノックの音が聞こえた。
俺は、朝から何度ついたか分からないため息をまたつきながら、椅子を回転させてゆっくりと立ち上がった。
扉を開けるとそこには灰色のスーツに身を包んだオールバックの若い男が立っていた。顔は少し中性的で耳が少し大きいのが特徴だ。髪の毛は短く刈られ清潔感があった。彼はこの会社の営業マンである。
「おはようございます」と彼が言った。
「おはよう」と俺は答えた。
そして彼を部屋に招き入れる。彼は部屋に入るとすぐにダイニングテーブルの席に着いた。そして彼は上着のポケットから茶封筒を取り出し、それをテーブルの上で俺に差し出した。
彼は膝の上に手を乗せ背筋を伸ばすように気を付けながら俺の目を見つめている。俺は手を伸ばしてその茶封筒を手に取るとテーブルの上に軽く放り投げた。
彼はもう一度胸ポケットに手を伸ばしてボールペンを取り出す。しかしそれは使われることなく再びテーブルの上に置かれた。彼が何かを話すために口を開く。
「先日ご提案しました『さらにもう一つの楽園』ですが……ありがとうございました。数点アイデアが挙げられたように思いますが……」
「いえ…。こちらとしてはお客様に満足していただけるようなものを提案できて光栄です。」
「はい、ありがとうございます」と彼は言ったが、その目は笑っていなかった。
「では、早速ですが……この企画についてもう少し詰めておきたいと思いまして……」と彼が言った。
俺は彼の目を見た。彼は真剣なまなざしで俺を見ている。
俺はゆっくりと口を開いた。
「そうですね……まず……」
俺は話を始めた。しかしそれはただの作業だ。俺が話すことは全て決まっているのだ。いつものことなのでマンネリ化していた。しかし、この会話の中に俺の感情や思考が入る余地はない。俺は、ただ淡々と話を続けるだけだ。
「まず最初に……」と彼は言った。
「以前ご提案いただいた『もう一つの楽園』にはたくさんの問題点があります」
俺はそれに頷くだけで答えることにした。
彼は続ける。
「まず一つ目ですが……」と言って彼が人差し指を立てた。そしてそれをゆっくりと折りたたんでいくように話し始める。
「『楽園』の持続性です」と彼が言った。
「持続性…ですか?」
俺は思わず聞き返したが、彼はそれに構わず話を続けた。
「そうです、『もう一つの楽園』の持続性についてです」
俺は少し考えてから答えた。
「それはつまり……『楽園』を永遠に続けることができるかどうかということですか?」と俺は聞いた。
「はい」と彼が言った。「その通りです」と彼が言った後、一瞬沈黙が流れたがすぐに彼が話し出したので俺はそれに耳を傾けることにした。
「『もう一つの楽園』には、そこで暮らす人々が必要です。そしてそこには文化や伝統が存在することが望ましいでしょう。ですが、住民はそんなに簡単に増やすことはできませんし、そして増えすぎるとやはり問題が起こることも考えられます。なので、現在の人口を維持しつつ、未来的な要素を取り入れた『もう一つの楽園』が望ましいのです」
「なるほど……確かにその通りですね」俺は頷いた。
彼はさらに続ける。
「二つ目の問題点としては、『もう一つの楽園』の環境です」と言って彼が人差し指を伸ばした。そしてそれを折りたたんでいくようにして話を始める。
「環境について、AMDホールディングスから申し出がありまして、環境破壊についての問題が挙げられています」
「環境破壊ですか?」と俺は言った。
「そうです。AMDは、『もう一つの楽園』の環境について心配しているのです。『もう一つの楽園』は、自然に囲まれた場所である必要があります。そしてそこで生活する人々は自然と調和した生活を送らなければならないのです」
俺は彼の話を黙って聞いていた。
その後も彼の話が続き、終了するまで約1時間がかかっただろう。おかげで体はくたくただ。
外は雨が降っている。雨が絶え間なく街を包むように降っている。
ああ、やはり雨は嫌いだ。




