その頃の現場では②
「何故ここに呼ばれたのか分かっていますね」
レーベルに良く似た、冷徹そうな風貌のモノクルをかけた宰相マティアス・ホーンに声をかけられ、連れてこられたマルボロース商会長は平伏低頭した。
「国王様には恙なく、ご健勝のようで私も喜びを禁じえませぬ。これは私共からの細やかな喜びの気持ちを表したものでございます」
王家の執事が、預かっていた目録を王に見せる。
王は椅子に座ったままチラリとその目録に視線をやる。
「ふむ、さすが国を跨いで商売をしているだけはあるな。見事な品ぞろえじゃ。王国広しといえど、このような品を用意できる店はそうないであろう、見事じゃのう。妃も喜ぶじゃろう。さて、話は変わるが、同じ学園に息子を通わせていた父親同士の話をしたいのだが、よいか?」
それを聞いたマルボロース商会長の目は見開かれ、冷や汗が噴き出してくる。
「愚かな子ほど憐れで可愛い、その気持ちはわからないでないが、いささか後始末が強引であったようだのぅ」
「ベアードという男が国境破りで捕まりました。こう言えば、お分かりになりますね?」
宰相に畳み掛けるように言われ、マルボロース商会長は血走った目を高貴なる人々にむけた。
「もうし訳っ…」
「そなた達の商売がうまくいくよう、物の流通についてわしも色々計らったつもりじゃ、そろそろ見返りがあっても良い時だと思うのだが」
「まさか、恩義を受けた国から拠点を移し、隣国に本店を構えるなどとは考えていませんよね?」
「はっはい!」
「このような時勢です、このような非常時にはわが王国民から受けた利益を感謝とともに還元する、そんなおつもりであったと、私は思ったのですがどうでしょうか?」
「はっはい。わが商会がこのように発展しましたのもひとえに国王様、そして王国民の皆さまのおかげ!
是非とも、わが商会の全力を生かして還元させて頂きます。いや頂かせてください!」
「わが王国民が飢えぬよう、尽力を期待しておるぞ」
「お互い、魔物に蹂躙されたら、何も残らないのですからね」
「はっはい。もちろんでございます」
冷や汗をびっちりかきながら、マルボロース商会長は請け負った。
もう、この国から自分は自由に出してもらえないだろう、そう悟ったからだ。
「そうそう、息子さんなら、隣国の魔法学園で姿を見たものがいたそうですよ?何故か偽名を名乗っているようでしたが。わが国からも遊学しているものがおります。仲良くするように言っておきましょう」
逃がしたはずの息子の居所まで把握され、商会がつぶれるその日まで献身を求められているのだと、彼は理解をした。
「かならずお役に立って見せます」
再び平身低頭しつつ繰り返す。
「我が、マルボロース商会の全力をもってお役に立って見せます」




