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その頃のまたある所の現場では

「衛生兵!衛生兵!」

「2班は後ろへ、5班と6班、出ろ」

「7班、8班は2班の退却後、5班、6班と交代」

「1班まだやれます!」

「だめだ、魔法兵の消耗が激しい、一度2班と一緒に下がって休め」

「3班、4班敵陣に食い込みすぎだ、ラインを守れ!取り囲まれるぞ!」


まだ、魔物の群れとの前哨戦だ。

指揮官の男は、部下が一人でも欠けないよう、必死に指揮をとる。


その夜、溢れ出た魔物を第一想定接触線まで押し戻し、一息つく彼ら。

掘りあげた深い塹壕の向こうに魔物が乗り超えてきた杭で作られた柵がある。

周囲に折り重なる魔物の死体を集め、焼いて処分し、壊れた柵の部分を修理する。


どうやら魔物側は思わぬダメージに進撃を躊躇しているようだ。


このこう着状態がいつまで続くかわからないが、一時の休憩を皆でとる。

班長の若者が、仲間と夕食をとろうと仲間達と車座になって地面に腰を下ろした時、伝令が走った。



「伝令!伝令!班長集合!」


「飯ぐらい座って食わせてくれよ」


ぶつぶつ言いながら集合地点へ合流する。

集められたのは自国の兵士ばかりらしい。一体何事なのか。

「くそぅ。ハイルライドの国の奴ら、浮ついてんじゃねぇよ!こっちに影響するじゃねぇか」

「無理ねぇよ。国元でクーデターが起こったらしいぜ」

「はぁ?こんな時に?馬鹿なの死ぬの?」

「畜生、多国籍軍の連携ってやりづれぇ!」


作戦の伝達ともにもたらされたのは友好国のハイルライドのキナ臭い噂だった。

どこかふわふわとハイルライドの兵達が地に足が付かなかった原因がようやくわかる。

ただでさえ言語の違いでコミュニケーションに不安があるのに、向こうの集中力がかけていては戦い方を変えた方がいいかもしれない。


同じ頃、王国の食事係は、自国の兵に交じった見慣れない風体の男達を発見した。


「おいっバカスカ食うんじゃねぇよ!こっちは次の補給までの日数を計算して出してるんだからよ!あっ、おまえらトリキアのもんだな!自分のとこの食えよ!は?食糧の供給が人数分ない?どっかで中抜きされてるんだろうよ。知らんよ、本国へ苦情いれろよ!ちょちょちょ鍋ごともってくな!」


どうやら軍の物資がどこかで中抜きされているらしく必要数が足りず、兵達は空腹のあまり他国の食糧配給所へ並んでしまったらしい。

この分では魔物の襲撃と同じく他国の人間の襲撃をも警戒しなくてはならないかもしれない。


「余所の国の食糧分まで賄えるかよ…」

そうつぶやきつつも食糧班のそのその兵は下っぱの兵に命令する。

「近くの村で芋でも何でもいい手にいれてこい。支払いはトリキア持ちで、…しょうがねーだろ、奴らこの辺の言語は不得意なんだよ」


「食糧を分けてやらず、腹ペコで死んだとか寝覚めが悪くてしゃーねぇもんな」


男は、カサマシメニューを考えはじめた。



所変わって、此方は後方部隊、作戦本部近く。


「やばいやばい。さっき頭上通ったの魔王軍幹部の奴じゃない?」

「魔物って何で名乗るのかなー?」

「そうそう、『我こそ偉大なる魔王さま配下の16天王がひとり』とか!多すぎやねん!」

「単純に考えて四天王が4チーム?そういう事?」

「ウチらんとこでもいるやんか、ほれ騎士団長の、名乗りあげるやつ」

「ああ息子はんのアーウェン様やろ?でも正直騎士出身の人って協調性にかけるってか」

「各個撃破タイプやもんなー。まぁ強い魔物の個体にはそれでいいけど」

「ねぇ?今っておしゃべりしてていい時なの?皆必死で戦っているのに!」


「……。(出たマリアベルの正論攻撃)」

「……。(軽口ぐらい叩いてないとこっちのメンタルが死ぬのよ!」

「……。(てか、けっこうすごい光魔法の使い手らしいやん?そんなん言うなら自分が出てこいやって話よね)」



治療魔法を得意とする少女ばかりで結成された少女挺身隊にマリアベルはいた。

恋と愛される事しか頭になかった少女は戦いの中で何かを覚醒したらしい。


相変わらず、場を読めない為に少女達の中で浮いてしまっているようだが。


(アーウェン。頑張っているのね)

ぎゅっと手の中の包帯を握りしめ、戦場の方角を見る。

(頑張って)

彼女が祈ると光魔法「乙女の祈り」が発動し、兵士達の瞳に光が灯る。

広範囲指定魔法「乙女の祈り」支援魔法のひとつである。

これを受けた者は気力が戻る。しかし体力は戻らない。体力は休むか体力回復ポーションを飲まないと戻りにくい。


「あ、こら勝手に魔法を発動するなと言っただろう!!」

「だって皆を元気づけたくて!」

「いやいや、魔法の重ねがけは効果が反発しあう事もあるし、ちゃんと指揮系統で計算してかけてるから!」

「でも、少しでも元気になって欲しかったの」

「いやいやいや、疲れがたまってたから後方に下げようとしてたタイミングで元気にしてもらわなくても」

「そんな!ひどいです!」

「いや酷いとかそういう問題じゃ…(やりづれぇ~)」


マリアベルの上官は頭を抱えた。


そこへ、用足しから命からがら戻ってきた少女が独り言を…。


「さっきから威嚇なのか上を飛び回っててうるさい奴いるんですけど。誰かなんとかしてくれないかな。怖いんですけど」


言った少女もまさかマリアベルがそれを聞いていたとは思っていなかった。


「そうね。ここは怪我をした皆を癒す場所。いいわ。邪魔なのは消す!『光の槍よ彼の者を穿て!』」


「ちょっと!!何してんのよ!」

「きゃぁぁ!下手に刺激したらダメ~~~そいつ、ただの斥候だから!」

「もう終わりだ~もうおしまいだ~」


光の槍で中途半端に傷つけられた魔獣は激怒して挺身隊のテントの近くのマリアベルめがけて突っ込んでくる。


「マリアベル!」

「マリアベル様!」

「マリアベルちゃん!」


何処からか馬に乗った騎士、槍をかついだ傭兵、将校の服に身を包んだ青年が飛び出してきて、マリアベルを今まさにその爪で引き裂こうとした魔獣に挑みかかる。


「雷神剣!」

「パーフェクトグランドランス!」

「穿て、炎の渦!」


彼らの活躍で、魔獣はあっけなく屠られ、ついに大地に横たわった。


「…みんな!来てくれたのね?」


 マリアベルは3人に飛びつく。

 白い歯を見せてそんなマリアベルを温かく見守る3人の美丈夫達。


「よかった無事だったか」

「無理するな」

「君を守るためなら例え地獄からでもはせ参じよう」


それはいいんだけど、君達自分の部隊はいいの?勝手に抜けてきちゃったみたいだけど?


「よかったーあたしたち無事だったー」

テント付近にいた巻き添えを食いかけた少女達も力を抜いてへたりこんだ。


「ねー。あの子余所につれてってよ」

「一緒に行動するのもう無理、こういうの何回めよ?」



例え上官でも言うべき事はしっかり言う。女子とはそういうイキモノだ。


「それな、…上にかけあってみるわー」


女ばかりの隊の隊長として赴任したばかりの時は周囲に羨ましがられたものだったが、今や彼には気苦労しかない。


(せめてあの娘がいなければ少しはマシに…)


そう思ってしまう程には。




 






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