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頑張らない令嬢がいろいろとやらかします①

「フフフフフフフフ、フフフフフフフン♪」


「静かな湖畔」の歌を鼻歌で歌いながら、森の中でスキップをしていく少女が一人。


手には籐で編まれた籠。上はフードつきの短めのマントに、動きやすいようにだろう丈の短めのスカートを合わせ編み上げのブーツをはいている。


「フフフフフフフフ♪」


かすかに揺れる繁み。森の動物だろうか?


「フフフフフーン♪」


鼻歌に合わせてくるりとターンをする少女。


そこへ横の繁みから、獣が飛びだしてくる。


慌てず、騒がず、少女は籐の籠を放り投げた。その手にはいつの間にか握られた剣。


「フフーン♪フフーン♪フフッフフッフフーン♪」


 左右から飛びかかって来た者、後ろに忍び寄って来た者、全てを切り捨て落ちてきた籠をキャッチする。


「あら?中身が寄っちゃった?失敗したわ」


 籠の中身を確認して残念そうな声をあげる。



 「もぅっ」


 頬を軽く膨らませ、剣を真上に突き上げる。


 上から彼女を狙っていた半透明の物体が左右に分かれて地面にドサリと落ちる。


「燃えろよ燃えろ~よ♪炎よ燃えろ~♪」


今度はキャンプファイヤーをする時のお馴染みの曲を歌いつつ手を翳す。


ボッ


彼女の手のひらから炎の固まりが飛び出て、死した獣達を一瞬で焼きつくした。


「人間、どうして魔法を出す時、手をこうしちゃうかなぁ」


つきだした手をそのままに首をひねりつつ独り言を言いそれから慌てたように続けた。


「いけない消火。消火。山火事は起こさせませんよぉ」


今度は水がその掌から出て、熾火になっていた炎を鎮火する。


「魔石。魔石とぉ~♪んークズ魔石ね。まぁ拾うけど」


今度はどこからともなくトングを出して灰の中からむき出しになった綺麗な色の石を拾う。


「さっきの奴の方がちょっぴり色が濃かったような気もするけど、誤差範囲ね」


 石を拾い終えるとまたスキップしていく。


 彼女は侯爵令嬢、シルビア・ファーミア。


 れっきとした令嬢である。



「おにいさまぁぁ」


目的の場所についた令嬢は兄のベルエールの姿を見つけ、手をふる。


「シルビア!」


満面の笑みで溺愛する妹に向かって両手を広げたのは、次期侯爵であるベルエール・ファーミアである。


これが侯爵家の中であったなら、何の違和感もなかったであろう。

二人の父親であるファーミア侯爵は頭痛を耐えた。


「いやだわお兄様。私、もう子どもでなくてよ」


頬を膨らませる妹のなんと可愛らしい事か。知らずベルエールの頬もゆるむ。


「差し入れを持ってまいりましたの。皆さまもどうぞ召し上がって?」


そう言うと、籐の籠とは別にベルトにつけたポーチより次々と品物を取り出すシルビア。


「お兄様にはシルビア特製のサンドイッチ。他の方にはマーサがいろいろ持たせてくれたからどうぞ」


領主館の皆の「おふくろ」のマーサの手料理と聞いて、侯爵家の騎士達の歓声があがる。


「労役に来てくれている領民達にはこちらの食事とこちらの薬を。これが、傷にきく軟膏で、こっちが筋肉痛に効く湿布で」


「ちょっと待て、シルビア。これはモコの実ではないか」


ファーミア侯爵は、サンドイッチと一緒に出されたキウイのような果皮の果物を見つけ問いかける。


「ええ、来る途中で群生してたから、ちょっと寄り道しちゃったの」


「オークの集落が近くになかったか?」


モコの実は森の中にある貴重な甘味のひとつで、森の中の動物や魔物達も好物である。

その為その木の周辺にはよく魔物の集落があったりする。


「お兄様の教えてくれたアイスニードルで簡単に殲滅できましたわ。さすがはお兄様」


ベルエールの顔がしまりのない顔になる。


「いやいや、教えてすぐに使えるシルビアが凄いんだよ」


「お兄様が教えるのが上手だからですわ」


そんな兄妹の会話を聞きつつ、ファーミア侯爵は頭を抱えるのであった。


「…もう怒ってないって言ったでしょう?お父様。お兄様と一緒にサンドイッチをどうぞ」


それを聞いてしぶしぶと、自分の食べている物ではないもうひとつの包みを渡してくる息子のベルエール。


一体どこで娘の教育を間違えたのだろう。ついでに息子も。


ここは、王都に侵入しようとする魔物を食い止めるための防壁と要塞を建設するための前線である。ファーミア侯爵は王に請われここで指揮を執っていた。

今後の勉強のためにと息子を呼び寄せたのだが、そこに妹である娘が足しげく通ってくる。


王立学園時代に何者かに攫われ、半年も行方知れずだった娘に「まだ処女か?」と聞いて3ヵ月ほど口を利いてもらえなかった侯爵は、今度はその行方不明だった半年間で急成長した娘のある力に頭を悩まされる事になる。


この前線までの道のりは決して貴族令嬢が一人で通えるような物ではない。

魔物も出れば、賊も出る。

道も険しいし道なき道を通らなければならない。

それを、この娘はピクニックにでも行くような気軽さで通り抜けて来るのである。


「あまり遅くなると心配だから…」


 その異様さが目立つのではないかと早く領主館に帰るように伝えると、シルビアは笑顔でこう言ってのけた。


「来る途中でワイバーンの営巣地を見つけましたから、それを狩って帰りは乗って帰りますわ」


娘が笑顔で差し出したのは、魔物を使役するためのアクセサリー。王国金貨で10000枚ほどの値打ちのものだ。


「…それは?」

「来る途中で狩りましたの。いいお小遣いですわ」


青やピンクや黄色の魔石をじゃらじゃらと小袋に色別に分けているシルビア。

ファーミア侯爵が見ると、そこそこ物の良い濃い色の魔石も交じっているようだが。


「オークキングのは、まぁまぁいい値段になりそうですわ」


 一際濃い赤い色の魔石はモコの実の近くの群れの主の魔石のようだ。

もう何年も冒険者ギルドに討伐を依頼していたが、果たされたことのない万年依頼となっていた奴だったのに、この娘はついで狩りしたらしい。


「ねぇ、お父様、ワイバーン、飼ってもいいですわよね?」


 仔馬を飼っていいかと聞くような気軽さでシルビアは聞いた。



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