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さようなら「悪役令嬢」

おめでとう~~~シルビア!何とか生き延びたね!

令嬢として必要な何かは失ってしまったようだけど、いいのだ。そんな事。


あのパーティの後、王都のハウスを引き払い、自領の領主館に引き上げてきた。

王都はこれから、対魔王戦略で余裕がなくなるからだ。


卒業パーティで断罪めいた事はあったが、相手はマリアベル一人だったしそれもすぐに実行委員に連れていかれていた。

ルーカス達は上位貴族と来賓で構成される遠く高いところの接待席に押し込められていたし、こちらに関わろうと近づいてすら来なかったので助かった。


唯一、ちょっとした事件があったようだが、ターゲットはダニエラだったらしい。


どうやら生徒会を仕切っていることに対して「生意気だ」とかおほざきになっている一派がいたらしい。


もしもの時のために、と依頼を出してコータ達に会場に警護に来てもらっていたのだが、違う面で助かった。やはり何事も備えは大事である。


 不埒者はちょっとした余興だったとふざけた事を言っているらしい。

 そんな話が通る訳なかろうに、アホらしい。


 ルーカス達が使い物にならなくなって以降、ずっとダニエラが一人で生徒会を支えてきたと聞く。

そんなダニエラすら悪く言われる事があるのだ。人とは何と勝手なことか。


 マリアベルはトラブル製造機ぶりを見込まれて、その一派に利用されただけのようですぐに放免された。諭された分もあったようだ。

 でも、元からいろいろな事を斜めに誤解し邁進する人なのだ。

 ある意味、自業自得といえよう。

 しかしパーティ中に魔法を放とうとした事を見咎められ、強制的に魔物討伐隊に放り込まれるそうだ。やはり見ている人はいた。


そんなに撃ちたかったら、役に立つ方向で魔法を撃てという事らしい。


本人は「聖龍祭で龍を呼び出したからスカウトされたの」と言い張っているらしいが。

勝手にどうぞという感じである。


「終わっちゃったな。無事に終わって良かったけれど」


 デュランの「もし貴女が断罪され、放逐されるようになったのなら、攫って行っていいですか」

という冗談には心臓が跳ねたが無事にパーティも終了した。

 少し残念なような。


 あの時、つるしあげと断罪の事で頭がいっぱいで、ちゃんと考える事すら出来なかったが、アレはもしかしたらプロポーズというものではなかっただろうか。



「これも結局使わないままだったなぁ」


魔法剣を取り出し眺める。


鍛冶屋体験のドワーフのおじさん太鼓判の業物なのだが試し斬り以降一回も使用していない。


「これを持って冒険…してみたかったかも」


 実はコータ達と別れてから、身体のキレが悪く重く感じる。

 やはり「身体はすぐ怠けようとする」byコータらしい。


 こうしていると色々思う事がある。


 例えばデュランに攫われていたらどうなっていただろうか?なんて事である。


 「なんて、きゃーーーー。やんやん恥ずかしいぃぃ」


 クールだし、足長いし、笑うとちょっと可愛らしいしおまけに強いし。


 はぁ、とひとしきり悶えてため息をつく。


「なんか寂しくなっちゃったなぁ」


 元より「侯爵令嬢」をやりきる気のなかったシルビアである。気ままで自由な冒険者生活は今思うと楽しかった。いろいろ危険な目にもあったようだが、そのことはすっかり忘れて。


 「今頃コータ達はまた崖の下かぁ」


 また、冒険者活動に明け暮れるのであろう。

 

 シルビアはこれからどうしようかと考えた。

 例えば令嬢として30歳近く離れた相手と愛のない結婚をするとか、こちらを「嫁にもらってやる」などと見下してくるような相手との婚姻など願い下げである。

 かといって信心深くないのに修道院だとか、兄夫婦を邪魔する小姑になりたい訳でもない。


 「前世って恵まれていたんだなぁ」


 そこに帰結する。


 「あ~攫われたかったかも…」


 はぁとため息をつく。


「令嬢でも自活できる仕事ってないかなぁ」


 とかくこの世はままならぬ物。

 中世チックな世界観のこの世では若い貴族の娘がやれる事などあまりない。


「マナー講師とか家庭教師とか。むむ、お妃教育で培った分はあるけれど、やりたくないなぁ~。興味ないし」


 シルビアよ。その興味も持てず向いていない事でも精神をすり減らして仕事をして大半の大人は生きているのだ。いつまでも若いと思い「何にでもなれる」と思っていたら大間違いなのだよ。


「…考えるのがめんどくさくなってきた。寝よう」


 シルビアは問題を先送りにした。





 ファーミア侯爵家の侍女達に清潔に心をこめて整えられた女性用の家族の寝室には豪華な天蓋つきのベッドがあって、ふかふかの寝具と光沢すべらかな掛け布の間には見惚れる程の美女が眠っている。


 髪も肌も内側から光る輝きで艶々としており、半開きの唇は赤く、ぷるんとしている。

閉じられた瞼は長い睫で縁取られ、少し赤みを帯びた頬にその影を落としている。


 その顔には幸せそうな笑みが浮かんでおり、見る者がいれば釣られて微笑みを浮かべるであろう。


「もうだめ。これ以上…………食べられないわ。マカロン」


 例えその寝言が大変残念な内容だったとしても。


「おにいさま。あーーん」




 ドサリ


 廊下で心臓を撃ち抜かれ倒れている被害者がひとりいたようだ。

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