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悪役令嬢、家に帰る

「お、お嬢様?」


 父の領地の領主館でシルビアを迎えたのはかつて「シルビア療養旅行事件」で責任を感じ暇を取ったイケメン従者であった。

 どうやらシルビアの失踪に関して、恨みがありそうな者として調べが入り、その疑いが晴れたものの監視の為に領主館で預かる事にしたのだろう。

 そして遊ばせておくのも何なのでと再び領主館内の簡単な仕事をさせているのであろう。


 新生活を夢見て退職したはずなのに悪い事をした。

 彼に迷惑をかけるのは2度目、いや記憶の戻る前のシルビアは結構な回数を彼に迷惑をかけていた気がする。

 大変申し訳ない。

 シルビア旧の淡い初恋の相手なのだ。

 恋する乙女は気を引きたかったのだ。シルビア新には黒歴史だが。

 今度彼が辞める時には迷惑手当を上乗せするよう、父に頼もう。


 父には緊急連絡用の符丁を使った連絡を旅の途中で入れた。

 崖の下ではなかなか連絡手段がつかなかったのである。

 おそらく酷く怒られるであろう。


 実は領主館で使用人達に出迎えられるまで「そんな子は家にはいません」と言われるのではないかとドキドキしていたが、杞憂だったようだ。

 いや、面と向かって放逐を言いわたされるのかも知れないが。

 その場合、シルビアの私物位は確保させてくれるだろうか。

 今さらドレスだのはいらないが、カルラとロッテと行った療養旅行でのお土産くらいは持ち出させてほしい。

 本当にいい出来だったのだ!あの魔剣は。


 お世話になった仲間達と別れ、旅の疲れを湯で落とし、用意されていたドレスに侍女達に傅かれつつ着替えると「侯爵令嬢シルビア」の出来上がりだ。

 若干ドレス周りの足さばきに違和を感じるが、この半年間とちょっとの苦労などなかったかのような姿である。


「『女を磨いてくる』と一人、旅に出られたと聞いた時は心臓が縮む思いでしたが、本当にますますお美しくなられて。何をどうしたら、こんなに肌がぷりぷり唇はつやつや、髪は輝くようになるのでしょうか?」

 シルビアが幼い頃に面倒を見てくれていた侍女がまだいて、そのように言ってくる。

 お世辞か。


 「それはね、エンカウント率がなしえた技よ」


 「ちょっと何言ってるかわかりませんわ」


 「『美しさの秘密は例え同性であっても内緒にしておくものよ。』と言い直すわ」


 一般的な令嬢には口コミでシェアできない内容だけに、シルビアはそう言い直すのだった。


 


 「シルビア!!!」

 「お兄様!!」


 「愛しい我が妹、天使よ。よく、よく無事で」


 夜には王都より、兄のベルエールが駆け付けて来て感動の対面となった。

 なんだか溺愛ぶりに拍車がかかって怖いぐらいだ。

 

「その可愛い顔をもっと兄に良く見せておくれ」

「お兄様、これ以上顔はくっつけられません」

「ああっ近すぎてよく見えない。でも、もっと顔をよく見たい。一体どうしたら」

「お兄様落ち着いて?」

「どこも怪我をしていないか?わたしは誰を斬ればいい?」

「お兄様落ち着いて?????」

「辛い事もうれしい事も全部わたしに話しておくれ。そうだお膝に抱っこをしよう」

「お兄様!!!!」


 まさに大暴走である。


「抱っこは恥ずかしゅうございますわ。シルビアはもう17歳ですもの」

 気が付けば、前世で死んだ年齢になっていた。前世と比べて何と一年が濃いことか。


「もうどこにも行くな。ここにいろ」


あれ?このセリフ、ハッピーエンドでヒロインに言うセリフじゃなかったっけ?

シルビアはちょっとそう思ったけれど、今更だなぁと遠い目をしてベルエールの腕の中にいた。

それでも、恥ずかしいような照れくさいような甘い幸せな時間だった。


 

 






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