同郷の人
「ばっかじゃないの?コータ。なんでばらすのよ」
赤毛の彼女がやれやれと言う風にコータに言う。
「だってただの冒険者って言うより、信用があるかなって思ったんだよ…だってこの人、貴族の人だよね?それもかなりの」
同意を求められたので一応頷いておく、まだ味方になる人かわからないからね。
「貴族の令嬢が殺されそうになるとかって、お家騒動とか?知っちゃいけない何かを知ってしまった的な?」
ちょっとわくわくしたような声音で赤毛の女の子が身を乗り出して聞いてくる。
「見ちゃいけない人の顔を見ちゃったからかしら…」
アーウェンとグランはシルビアを殺そうとまでは思っていなかったように思える。
彼らはマリアベルを害そうとしている勢力の黒幕がシルビアだと思っていて言質を取りたがっていたようだ。だが残念な事に黒幕などいない、強いて言えば女生徒の殆どと一部の男子生徒が犯人と言えよう。
もっと言えば、シルビアと王太子周辺、それと一部を除いた男子生徒以外の生徒全員がマリアベルに反感を持っていたのだ。
黒幕とおぼしき者をひとりとっちめた所で、マリアベルへの嫌がらせが止まるかと思ったら大間違いである。
アーウェンもグランも、マリアベルへの嫌がらせが止むまで一人ひとり捕まえて監禁するのだろうか?
やれるもんならやってみろとさえシルビアは思う。
そして誰もいなくなった…みたいな状況が目に浮かんできて笑える。
だけど、あの髭面の男はアーウェン達とは違う。
もう纏う空気からして普通じゃなかった。
「何の躊躇もせず首をしめて来たし、手慣れている感じがしたわ。きっとそういう世界の人間なのよ」
「家まで送ろうかと思っていたけど、大丈夫?見つかったらヤバイ系?」
「どうかしら…私が死んだと思っているのなら、家族に無事だけ知らせて、このままどこかへ隠遁生活してた方が…」
「アテはあるの?」
「…父に相談するわ」
「…大丈夫かなぁ…」
二人でしんみりした顔をしていたら、赤毛の子が割り込んできた。
「そ・れ・よ・り・!あんた、コータにお礼言った?コータ、しんぞうまっさーじとかまうすつーまうすとか、秘術をかけてくれたのよ?」
「ええ???!!!」
シルビアはコータの顔をガン見した。
シルビアの前世で課外授業で消防署見学に行った時に、消防隊員のお兄さんが笑顔で言った事を思い出す。
「前は、心臓マッサージとマウスツーマウスを組み合わせて教えていましたが、今は心臓マッサージをしっかりやった方がいいという考えが主流となっています」
コータは耳まで赤くなっている。
「ごめん」
「え?どうしてコータが謝ってるのさ?」
赤毛の子はわかっていないようだが、シルビアには察する事ができた。
何しろシルビアは『悪役令嬢』なのだ。鏡を見た時に自分でもビビるほどの美少女なのだ。
しかしどうやって助かったかより、助かった事実の方が大事である。
シルビアは神妙な顔で言った。
「助けてくれてありがとう。あなたも転生した人?」
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「へぇ、じゃぁ貴方は集団転移の被害者なの?」
「そうそう、勇者召喚をした国がクソでさぁ」
ぶちぶちとその辺の草をちぎりながらコータは言う。
「おれが、有用なスキルを持ってなかったからって、レべリングして来いって体の良い厄介払いさ。旅の途中でミーシャとバレンと知り合って、青い髪のあいつ、行き倒れてたからそいつも拾って、今は気ままな旅の途中さ。元には戻れないっていうし、なんか本当にもうね、何回『この世界はクソだ』って思った事か」
現代日本で、何不自由のない生活を送ってきた二人であり、シルビアはこちらでは令嬢だ。
馬車の修理などできる訳もなく、またミーシャによって「戦力外通告」を受けたので、仕方なく火の番人である。
「VRMMOのゲームで遊んでいるみたいだなんて最初はすんげぇって思ってたんだけどさ。飽きても嫌になってもログアウトも出来ないしな」
「こっちで死んだらあっちで目覚めるかとか、怖くて検証できないよね」
「せっかく、魔法もあってモンスターもいて、モンスターを倒せばレベルアップしてっていう世界に来たけど、命がけなんだよね。すべてはリアルなんだよ。そりゃ面白がってなんかいられないよな」
シルビアも男に首をしめられた時に、ああこれはゲームじゃなく本当にリアルなんだと思い知らされた。それまではどこか非現実に思っていた気がする。
「私もこっちで死んでいたんだよね。あなたが助けてくれなければ。もしあのまま本当に死んでたらどうなったんだろう」
「あまり愉快な事にはならなかったと思うよ。こっちに来てみな」
コータが立ち上がって手招きしたので、シルビアも立ち上がる。
「少し歩くよ?」
コータに先導されて歩いていくと森の切れ目が見えてきた。
「ほら、あの崖が君が落ちてきた崖、君の国はあの崖の上の方に広がっている。崖の下の方、つまりここら一帯は水のない海のようなもので陸を分断している、まぁあの崖を簡単には行き来できないからね?」
シルビアが見ると、崖の上の方はかなり高い場所にありよくシルビアが助かったものだと思える。
「風魔法を使って、落下速度をおさえたんだ。おれたちはミーシャの索敵能力のひとつで『必要なものを探す』で検索していて、こちらに向かっていて、落ちてくる君の馬車を見たんだよ」
それは何というか素敵能力じゃないだろうか?コータ曰く使い勝手の悪い能力らしいのだが。
「崖の下を見てみなよ。赤い花がいっぱい咲いているだろう」
見れば毒々しいまでに赤い大きな花が群生している。
花の中心部には牙らしいものも見え、花同士牽制しあって牙を打ち鳴らしている。
あれ、花、花って言えるの?
「●●君フラワー?」
「だよねー。おれも初めて見た時そう思った。あいつ死んでから落ちてきたものは食わないんだよ。だから、君、正確には首を絞められたっていったけど仮死状態だったと思うよ?そいつが『骨も残らない』って状態をもくろんだとしていたら」
あの花にむしゃむしゃされていたのか…。
シルビアは青ざめた。
「この世界が発展しないのって、魔法の存在もそうだけど、こういった場所がたくさんあるから国同士で交流が図れない事があるんじゃないかな。すぐれた技術なり情報が分断しちゃうんだよ」
「こんな崖がずっと続いてるんじゃ、私、戻れないんじゃ…」
「この先、ダイサン国にいけば、上にあがる事ができるらしいよ。おれも行くのははじめてだけど」




