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負けないで ~君と私の余命日記~  作者: シラ猫


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5

本日2話目になります

 次の日。


 私は色付きリップクリームを唇に塗る。お気に入りのピンクのシュシュで髪をまとめてポニーテールに仕上げた。病院着は仕方ないけど、ライトグレーのロングカーディガンを羽織った。これから外出するのだから日焼け止め対策もばっちりである。かごバックにお財布、小銭入れ、ハンカチ、スマホを入れたら準備は完了した。


 最後にスマホのカメラ機能を使って、おかしい所がないかチェックしてから病室を出た。ちょと髪の毛が跳ねているとこあったから確認しといて良かった。


 昨日はお母さんと言い合いして気分がずんと沈んだけど、彼から夕方くらいに今日会えると返事がきた。また病室でユッコ達と鉢合わせなるが嫌だったから、敷地内にあるヒーリングパークを待ち合わせ場所に指定した。


 いつもは目的もなく訪れていた場所も誰かと待ち合わせだと思うと景色が華やいで見える。煩わしい蝉の鳴き声も刺すような夏の日差しも今日なら許せる気がする。お気に入りのZARDの曲で鼻歌まじりに歩いていく。


 自動販売機の近くを通りかかった時に足を止めた。彼との間接キスのやり取りを思い出し、笑みが漏れる。手に持っていたバッグから赤い唐草模様のガマ口の小銭入れを取り出してペットボトルのお茶を買う。一口飲みたい思いを我慢して待ち合わせ場所に向かうことにした。


 歩いて少し背中が汗ばんできた時に、通り抜けるように吹いた青東風(あおこち)が心地良かった。


 彼はすでに着いていたようでベンチに座っている姿が見えた。暑いのかハンカチで顔を拭っている。彼が座っている前まで近づいてから声を掛けた。


「暑かったでしょ? これでも飲んでよ」


 ペットボトルのお茶を差し出すと、何かを思い出したようで少し照れた顔で受け取ってくれた。


「ありがと。……えっと、またシェアして飲むの?」


 彼は人差し指で頬を掻きながら、もう片方の手で持ったお茶をじっと見つめている。

 私は拒否されたと思って不安になる。


「わたしは気にしないけど、吉川君は嫌なの?」

「あのねぇ。多感な時期の高校生男子が女子との間接キスを嫌がるはずないだろ? そうじゃなくて恥ずかしいんだよ。二人きりならまだしも、こう人目があるとどうしてもね」


 私を拒否してなくてホッとした。恥ずかしがってる彼が可愛い。


「なーんだ。素直に嬉しがってくれた方が女の子は嬉しいんだよ? ちょっと勉強が足りないね」

「学校の勉強でも辟易するのに、女子の勉強も必要なの?」

「当たり前じゃん。人生何事も勉強なんだよ、君(きみ)」

「ふふふ、なんかすごい年寄りから言われた気分だ」

「ひどーい! 私達って同じ年じゃん。良いこと言ったのにさ、もう知らない!」


 ふくれっ面してから腕を組んで横を向く。本当は怒ってないけどね。


「ごめん、許して。美人の君を前にすると、どうしても意地悪な事を言ってしまうんだ」


 彼は慌てて謝罪したけど、気になる単語を耳にした私はジト目で彼を見返す。


「ちょっとー。君はあれかい? 美人って言えば、私に許してもらえると思っていない?」

「…………少しだけ」


 彼は指で少しだけのジェスチャーをしながら言ってきた。それが私のツボにはまったのか面白かった。私が笑いだすと彼も同じように笑った。ひとしきり笑い終わると、彼の隣に座ってから彼から受け取ったお茶を飲んだ。


 笑い合っていた雰囲気が落ち着くと、彼が口を開く。


「それでだいたい話は聞いてたけど、退院は出来そうなの?」

「うん。昨日の夜にお母さんから電話があってね、一時帰宅して問題なさそうなら退院していいんだって」


 駄目だと半分諦めてたけど、母の許しが出た時は嬉しかった。彼には直接会ってから話したかったから今まで内緒にしていたんだ。私の説明を聞いてた彼が嬉しそうにしている。


「そうなんだ。じゃあなんかお祝いしないとね」


 思いもよらない一言に心が弾んだ。照れと嬉しさで両手で顔を半分覆う。


「ホントに? 嬉しい。凄く嬉しい」

「何か欲しいものあるの? もちろん学生のお小遣いで買える範囲だけど」

「うーん、特に思いつかない。私が提案するよりも吉川君に考えて欲しい」


 彼は顎を触りながら前を向いて真剣に考えている。私は邪魔しないように大人しく待つ。どんな提案なのか分からなくてどきどきしてしまう。


 考えがまとまったのか、彼が私に振り向いた。


「じゃあさ、デートしよう」

「デート? 男女が二人でお出かけするデートのこと?」


 言い慣れてないのか、照れた顔でデートを提案してきた。私の聞き間違いじゃないかと思って確認してしまった。


「うん、そのデートだけど、嫌だった?」


 不安そうに聞いてくるので、直ぐに安心させてあげる。


「ううん、嫌じゃないよ。私ってデートしたことないから楽しみ。吉川君はある?」

「あのね、僕がデートしたことあるような男に見えるの?」

「ううん、ちっとも見えない」


 ニヤッと笑みを浮かべて彼の問いを否定すると、彼はうなだれてため息を吐いた。


「はぁ、断言されて言われると辛いものがあるね。君と行くのが初デートになるよ。僕が相手で良かったら初デートしてくれる?」

「うん!」


 私は人生で一番と断言できる満面の笑みをここで使い果たしたと思う。それくらい心がとても弾んでいた。


 あれから1時間くらいお喋りした後に、解散になってしまった。回し飲みしていたペットボトルのお茶は1本じゃ全然足りなかったので、次から2本買うことにしよう。


 デートプランについては彼が任せて欲しいと言ったのでお願いする事になった。


 私としてはもっとお話ししたかったけど、彼の予定が来てしまったので残念だけど病室に戻ることにした。どうして楽しい時間はいつも短いのだろう。でもデートはとても楽しみで仕方ない。


 お父さんに愛情たっぷりにハグしてからお小遣いをお願いしようっと。それで服を新調するんだ。お母さんがお風呂に入った時がねらい目だね。タイミングを間違わないようにしなくては。ミスは許されないもん。


 ネットでデート向けの服とか調べないといけないし、彼が困った時にフォローするプランも考えておかなきゃね。なんか忙しくなってきたわ。

読んで頂いてありがとうございました。(^^)/


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