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彼が出ていくのを見送った後、若ッちがにやけ顔で私の隣に座ると肩を軽く2回叩いた。彼女は私と同じバスケ部で私たちの中で唯一彼氏がいる。しかも相手は同じバスケ部だ。同学年の男子で一番上手だと思う。相手のディフェンスを華麗にかわしてシュートを決めた時は思わず拍手したもんだ。
「くふふふっ。つさかもやるじゃん。病室に男を連れ込むなんてさ。当然だけど親友である我々には紹介してくれるんでしょうね?」
「あのねえ若ッち、連れ込むって言い方はよくないよ? ちょっと暇つぶしに付き合ってもらっただけだし」
「本当かな。怪しいぞー」
「もう、怪しくないってば」
私の華麗な言い訳は若ッちのディフェンスをかわすことは出来ずに、指でほっぺたをツンツンとつつかれた。
咲ちゃんとユッコも私の近くにきた。
「さっきの男子は吉川君だよね? 確かに中2の途中からこっちに引っ越してきて、ずっと同じクラスだったけど、つかさと吉川君が話してるの見たの初めてかも」
彼の正体に気が付いた咲ちゃんが尋ねてきた。咲ちゃんだけは私達と同じ部活じゃない。美術部だ。弟さんが二人いるせいか、しっかり者で私たちのお姉さん的存在でもある。
通い慣れている咲ちゃんは、部屋の隅に立て掛けてある折りたたみ椅子を持ち出して、吉川君が置いた椅子の隣に並べてから座った。
「そういえば私達って、ずっと同じクラスだったけど、吉川君も同じだったね。まさか、つかさの彼氏になっていたとはね」
若ッちはまだ私と彼の関係を疑っているみたい。彼氏と言われて悪い気はしないけど、違うからなあ。どう話せば分かってくれるの。
「そんな訳ないって! 吉川君って大人しい感じだから、つかさと合わないよ。彼、学校休んでいるから病院に検査した時に知り合った程度じゃないの?」
ユッコが強めに否定してきた。確かに彼氏じゃないけど、彼と合うか合わないかをユッコに判断されたくない。彼氏がいない私達3人の中で一番先に彼氏を作ると宣言してたから、先を越されるのが嫌だったのかな。負けず嫌いな性格は相変わらずだ。バスケ部でも一番最初にレギュラーになるって頑張ってたし。
私は言い訳を考える。彼の病状は言えないから適当に誤魔化すしかない。
「そうだよ。彼とは病院で知り合ってね。検査帰りに暇だったから話し相手してもらってるだけだよ」
「そこから発展するラブもあるかもよ」
若ッちがしつこい。自分だけ彼氏がいるから私を仲間に引き込もうとしてるのかな。悪い気はしないけどね。
「だから無いってば。それよりももうじき夏休みじゃん。つかさが一時退院できるなら皆でお泊り会でもしようよ」
ユッコがまた否定してきた。負けず嫌いもここまでくると清々しいね。
「それいいね。うちは弟たちが騒がしいからダメかも。誰かの家でいいなら行きたいな」
咲ちゃんは自分ちの開催は否定してるが、誰かの家ならいいらしい。手を合わせて喜んでいる。
「うちでもいいけどさ、ユッコの部屋が一番広いじゃん。駄目かな?」
若ッちも賛成らしい。発案者のユッコの家を提案している。
「うちでいいよ。つかさもそれでいい?」
「うん。親に許可取る必要あるけど、大丈夫だと思う」
久々にみんなで集まってのお泊り会は楽しみだ。どうせ退院することを両親にお願いするつもりだし、丁度いいかも。
みんなにジュースでも振る舞おうとベッドの横に備え付けてある冷蔵庫を開こうとしたら、咲ちゃんが近づいてきた。
「私がやるからいいよ。つかさはベッドでゆっくりしてて」
「ありがと。咲ちゃん」
「ふふふ、お姉ちゃんに任せなさい」
「はーい」
咲ちゃんが私の代わりにやってくれる。紙コップを取り出してオレンジジュースを注いでみんなに配ってくれた。私が病気になってからいつも以上に親切にしてくれる。頼りになるお姉ちゃんだね。私は妹ポジションに甘えさしてもらっている。
「あれ? これってもしかして吉岡君の忘れ物じゃない?」
ジュースを飲んでいたユッコが、棚の上に置いてあった黒いリュックに気づいた。
彼は慌てて出て行ったので、忘れていったと思う。
「そうだと思う」
「私が返しとこうか? 彼の家って私と同じ町内にあるし」
「いやいいよ。明日も検査に来るって言ってたから。勝手に触って怒られたくないし」
ユッコは親切に言ってくれたけど断ってしまった。なんか嫌だったから。もしユッコが彼と仲良くなって私が忘れられるのが怖かったのかもしれない。
「そっか。それじゃ返すのはやめとく」
「親切に言ってくれたのにごめんね」
吉岡君の会話を打ち切った後は、取り留めのない話をして時間をつぶした。1時間くらい滞在してから彼女達は帰っていった。
静まり返った病室にひとりポツンと残された。
彼の忘れたリュックが気になる。
彼はいないのに存在を主張するように棚の上に置かれた黒いリュックから目が離せなくなっていた。
散々葛藤を繰り返した後に、ベッドから降りてリュックの中を開けて覗いてみた。黒いレーザーの長財布に、青地のフェイスタオルとポケットティッシュ。後は留め具が付いた茶色い皮の手帳が入っていた。
どきどきしながら手帳を開いて中身を見てると、内側のポケットに裏側状態で写真が一枚入っていた。手に取って確認してみる。
同年代くらいの女の子。髪型はあごラインまでの短めボブが良く似合っていて、微笑んでいる顔がとても可愛らしいし、制服姿も似合っている。薄いブルーの学生シャツの胸元にあるリボンとチェックのスカートがとてもいい。ここらじゃ見ない制服だけど、どこの学校だろう。
一人で写っている女の子の写真を持っているって、もしかして彼女なのかな?
彼が死ぬまでにやりたい内容よりも、正体が分からない女子の方が気になって仕方ないよ。
吉川君から忘れ物を取りに行くとメッセージが来たので、了解と返事を返してから、慌ててリュックを元の位置に戻す。勝手にリュックを開けた手前不安になってきた。不自然な点がないかをチェックし、彼の到着を待つことにした。
彼が来たのは面会時間ギリギリの20時前だった。忘れ物を手に取ると、当たり障りのない会話した後に直ぐに帰ってしまった。私は聞きたいことも聞けず、もやもやした状態で彼を見送るしかできなかった。




