第2話 滅びかけの国
第一章 魔王になった女子高生
第2話 滅びかけの国
「視察ですか?」
朝食後。
結奈は執務室で首を傾げた。
「はい」
ガルドが頷く。
「魔王様には現状を知っていただく必要があります」
「書類じゃダメ?」
「ダメです」
即答だった。
結奈は机の上を見る。
書類の山。
食糧不足。
税収不足。
難民問題。
反乱。
敗戦。
見ただけで胃が痛い。
「これだけで十分ヤバいの分かるけど」
「百聞は一見に如かずです」
その言葉に反論できなかった。
結局。
結奈は城を出ることになった。
護衛はガルド。
案内役はリリア。
そして。
「魔王様だ!」
「本当に出てきた!」
「魔王様ー!」
城下町へ入った瞬間だった。
人だかり。
いや。
魔族だかり。
角。
耳。
尻尾。
翼。
色々いた。
結奈は軽く手を振る。
「どうも」
すると歓声が上がった。
「手を振ってくれた!」
「やばい!」
「本物だ!」
「アイドルかな?」
思わず呟く。
リリアが吹き出した。
「似たようなものかもしれません」
「いや違うでしょ」
だが。
周囲の目は真剣だった。
希望を見る目。
昨日も見た。
まだ慣れない。
たぶん。
しばらく慣れない。
しばらく歩く。
市場へ出た。
そして。
結奈は言葉を失った。
少ない。
圧倒的に。
食べ物が少ない。
野菜はしなびている。
果物はほとんどない。
肉なんて見当たらない。
「これ」
結奈が聞く。
「普通なの?」
ガルドは首を振った。
「昔は違いました」
結奈は黙る。
そうだろう。
これで普通なわけがない。
八百屋の前。
一人の母親が値札を見ている。
そして。
何も買わずに立ち去った。
その後ろを。
小さな子供が付いていく。
お腹を押さえながら。
結奈は目を逸らした。
見ていられなかった。
「魔王様」
リリアが静かに言う。
「これが現実です」
結奈は何も言えなかった。
次に案内されたのは城壁だった。
街を囲む巨大な壁。
その上に立つ兵士達。
だが。
疲れている。
みんな。
若い。
そして。
痩せている。
「食事は?」
「一日二食です」
「は?」
「多い方です」
結奈は思わずガルドを見る。
「嘘でしょ」
「残念ながら」
老人は苦く笑った。
「本当です」
言葉が出ない。
戦争に負ける。
食糧がなくなる。
国が貧しくなる。
そんな話はニュースで聞いたことがある。
でも。
目の前で見るのは初めてだった。
午後。
最後に訪れたのは孤児院だった。
戦争で親を失った子供達が暮らしているらしい。
結奈は入口で足を止めた。
昨日の少女がいた。
「あ!」
少女が気付く。
「魔王さま!」
ぱたぱたと走ってくる。
「こんにちは」
「こんにちは」
思わず笑ってしまった。
この子は元気だ。
昨日と同じで。
「お名前は?」
聞いてみる。
昨日は聞けなかった。
「ミア!」
元気な返事。
「ミアちゃんか」
「うん!」
いい名前だと思った。
ミアは少し誇らしそうに胸を張る。
「魔王さま!」
「ん?」
「頑張ってる?」
結奈は少し考えた。
まだ二日目だ。
正直。
何もできていない。
でも。
「頑張ってる」
そう答えた。
するとミアは満面の笑みを浮かべた。
「じゃあ大丈夫!」
根拠がない。
びっくりするくらいない。
でも。
少しだけ。
嬉しかった。
帰り道。
結奈は黙っていた。
リリアも。
ガルドも。
何も言わない。
夕暮れだった。
空が赤い。
そして。
街は静かだった。
元気がない。
活気がない。
笑顔が少ない。
でも。
完全には消えていない。
まだ残っている。
小さな希望が。
「ガルド」
「はい」
「聞きたいことがある」
「何でしょう」
結奈は足を止めた。
そして。
まっすぐ老人を見る。
「食糧問題って」
「はい」
「どうしたら解決できる?」
ガルドの目が少しだけ見開かれる。
その顔を見て。
結奈は思った。
たぶん。
今の質問が。
自分が初めて魔王らしいことを言った瞬間だったのだと。




